第77話:愚かな自分【その2】~ジョージ視点~
メリンダ嬢の仲が深まれば深まるほど、サリーが疎ましく思えてきた。青白い顔を見ていると、怒りすら覚えるようになっていった。
どうして彼女が、僕の婚約者候補なのだろう。そう思う様になっていったのだ。
だが、僕がメリンダ嬢との仲を深める事に関して、猛烈な嫌悪感を露わにいたのが母上だった。
“ジョージ、あなたは一体何をしているの?サリーちゃんという婚約者候補がいるのに、他の令嬢にうつつを抜かすだなんて。そんなふしだらな息子に育てた覚えはないわ。もっとサリーちゃんを大事にしなさい!”
事あるごとに、口を挟んでくる母上。どうして母上は、そんなにサリーにこだわるのだろう。サリーは確かに親友の娘かもしれないが、母上の私情に僕を巻き込まないでほしい。
そう思っていた。
さらに一部の侯爵以上の令嬢たちからも、僕とメリンダ嬢が一緒にいると、扇子で口元を隠し何やらコソコソと話をしていた。その話が僕たちにとって、いいものではない事くらい分かっていた。
時にはメリンダ嬢を睨みつけている姿も目撃した。彼女たちは高貴な身分の令嬢たちだ、とはいえ、もしメリンダ嬢に危害を加えられたら…そう思い、忠告しようとしたのだが
“彼女たちはきっと、嫉妬しているだけですわ。放っておきましょう”
優しいメリンダ嬢は、あんな令嬢たちですら庇うのだな…そう思ったら、増々彼女が好きになっていった。
やはり僕の婚約者はメリンダ嬢しかない。彼女自身も、僕との婚約を望んでいる。彼女は侯爵令嬢だ、きっと彼女と婚約しても問題ないはず。
そう思い、父上に相談したのだが
“お前は何をバカな事を言っているのだ。お前の婚約者は、サリー嬢だ。それ以外誰でもない!”
そうはっきりと言われたのだ。
それでも諦めきれない僕は、16歳の誕生日兼婚約発表の場で、メリンダ嬢と婚約をしたい事を皆にはっきりと告げたのだ。父上や母上は反対しているが、きっと貴族たちは賛成してくれる。
ずっと顔色が悪く、いつも暗い顔をしているサリーよりも、明るくてメリンダ嬢の方が、王妃としてふさわしい。そう思っていた。
だが、僕の予想に反し、貴族たちからは反対の声が上がったのだ。反対した貴族たちを見ると、メリンダ嬢を睨んでいた令嬢の家ばかりだ。もしかして令嬢たちが家族に頼んで…
いいや、そんな理由で反対する訳がない。どうしてみんな、サリーと僕を婚約させたがるのだろう。どうしてメリンダ嬢を受け入れてくれないのだろう。僕は自分の婚約者すら、決めさせてもらえないのだろうか…
そう思った時だった。
ゆっくりとサリーがこちらに近づいてきたのだ。今日も相変わらず顔色が悪いが、それでも穏やかな顔をしていた。
そして僕に、メリンダ嬢が好きなのか?と、問いかけるサリー。正直にメリンダ嬢が好きだと話すと、一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
そして
“ジョージ様の気持ちは分かりましたわ。私は幼い頃から、ジョージ様をお慕いしておりました。あなた様が幸せになってくれるのなら、どんな事でもしよう、そう思っていたのです。
あなた様が私との婚約が嫌だ、メリンダ様との未来を歩みたいとおっしゃるのなら、私はそれを受け入れますわ。
どうか…どうか幸せになって下さいね“
そう言うと、涙を流しながらもにっこりとほほ笑んだのだ。その姿は、とても美しく、それと同時に胸がズキリと痛んだ。
さらにサリーは、激怒する公爵に謝罪をすると、貴族たちに向かって僕とメリンダ嬢の婚約を認めてあげて欲しいと頭を下げたのだ。
サリーは、僕を慕っていた?僕の幸せの為に、身を引いた?
どうして?君は僕との婚約が嫌だったのではないのかい?体調を崩すほど嫌っていたのに、どうして?
サリーの行動がよくわからなかった。とはいえ、サリーは僕とメリンダ嬢の婚約を認めて、自ら身を引くと言ってくれた。
サリーはいつも…そうだった。自分が好きなものでも、僕が好きだと必ず譲ってくれた。いつも僕の事を最優先にしてくれて…
て、僕は一体何を考えているのだろう。僕が愛しているのは、メリンダ嬢ただ1人だ。サリーが、皆の前でそう言ってくれたのだ。本人がそう言っているのだから、外野にとやかく言われる必要はない。
ただ…
なぜだろう、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。




