第76話:愚かな自分【その1】~ジョージ視点~
「ジョージ殿下、申し訳ございません。ああ見えて彼は、非常に優秀であまり感情を表に出さないのですが…数々のご無礼、私からお詫び申し上げます」
サリーたちが去った後、深々と頭を下げるマレリス王国のライモンド王太子殿下。彼は非常に穏やかで情に熱い。そして幼い頃から、交流を深めていた人物だ。ここ6年くらい交流が途切れていたが、それでも今回僕を受け入れてくれた人。
「こちらこそ、無理なお願いをしてしまったのは百も承知です。僕は自国でサリーを傷つけボロボロにし、人として最低な事をして参りましたので、彼らが怒るのも無理はありません。僕が愚かだったのです。
己の行いを考えれば、もう二度とサリーの前に姿を現すべきではなかった。それなのに僕は…」
「確かにあなたはサリー嬢を傷つけ、苦しめたかもしれません。ですが…全て知らされていなかったのでしょう?あなた1人が悪い訳ではありません」
「いいえ…サリーは僕の婚約者候補になってから、体調を崩す日が増えていった。顔色も悪く、日に日に痩せていく彼女を見ていたはずなのに。それなのに僕は、サリーを気遣うどころか、他の女性にうつつを抜かしたのです。
サリーがどれほど辛く、苦しい時間を過ごしていたかも知らずに…」
「人間誰でも失敗はあります。その事に気が付かない人も多い中、あなたはそれに気が付けた。それにこの半年、必死に動いてこられたのでしょう?サリー嬢の為に。
少し顔色が悪いですね。どうか今日は、ゆっくり休んでください。それでは私は、これで失礼いたします」
ライモンド殿下が、部屋から出ていくのを見送る。
彼はああ言ってくれたけれど、僕がサリーに行った仕打ちを考えれば、とても許される事ではない。
己の愚かさが、本当に嫌になる。
“ジョージ様”
ふとまだ幼かったころの、サリーの笑顔が蘇る。あの頃は確かに、サリーの事を大切に思っていた。僕はどこで道を間違えてしまったのだろう。
物心ついた時から、よく王宮に遊びに来ていたサリー。母親を亡くしたサリーを気にかけ、母上が公爵に頼んで定期的に王宮に遊びに来るように手配していたらしい。
幼い頃のサリーは、明るくて元気いっぱいの子だった。行動力もあり、すぐにどこかに行ってしまう目の離せない子。
“ジョージ様、こっちよ”
笑顔で中庭を走り回るサリー、かと思えば疲れて寝てしまう。本当に自由な子だった。母上はいつも“サリーちゃんは、亡くなったマリアにそっくりね”そう言って笑っていた。
真っすぐで素直で優しくて可愛くて、そんなサリーが僕は大好きだった。サリーのこの笑顔をずっと守りたい、そう思っていた。
ただ…サリーは時折とても寂しそうな顔をするときがあった。サリーに聞いても何でもない、そう言うだけだった。
母親がいないから、寂しいのかな?最初はそう思っていた。でも違ったのだ、サリーの父は、サリーのせいで母親が亡くなったと思い込み、彼女に酷い暴言を吐いていたいのだ。父親の影響で、兄からも酷い扱いを受けていた。
なんて酷い事を…
サリーが一体何をしたというのだ、母親が亡くなったのは、サリーのせいではない!いてもたってもいられなくて、サリーの父に抗議をしたことがあったが
“サリーが何を言ったかは知らないが、我が家の事ですので放っておいてください”
そう言われてしまった。せめて王宮では、サリーが幸せに暮らせるように、そう思い、頻繁にサリーを呼び出した。
サリーは僕が守る、ずっと一緒だ。そう思っていた。
だが…
僕の婚約者候補に内定してから、サリーの様子がおかしくなっていった。顔色が悪く、いつも疲れた表情をしていた。日に日に笑顔も減り、毎日辛そうに過ごす日々。
最初はものすごく心配した。医者に相談したこともあったが、特に異常がないと言われてしまったのだ。
サリーの身に一体何があったのだろう、もしかして僕の婚約者になるのが嫌で、体調を崩したのかな?
そんな不安すら覚えた。
そんな中、僕に近づいてきたのがメリンダ嬢だった。メリンダ嬢は物腰柔らかで優しい女性だった。
“ジョージ殿下、こんな事は申し上げたくはないのですが、サリー様の容態はあまり良くない様ですね。これでは世継ぎは無理かもしれません…もし世継ぎが出来なければ、王族の危機ですわね…”
そういわれたのだ。そんな事はない、だって僕の婚約者候補になる時点で、体調面はクリアしているはず。だが…サリーの様子を見ていると。
“サリー様、全然殿下の事が好きではなさそうですね。いつも辛そうなお顔をされて。そういえばサリー様は、お父様から冷遇されていたのでしたね。もしかしてお父様に言われて…いいえ、何でもありませんわ”
何かを言いかけて、口を摘むぐメリンダ嬢。
確かにメリンダ嬢の言う通り、サリーは僕の事なんて好きではないのかもしれない。父親に言われて、無理やり…
“そんな顔をしないで下さい、私がずっと、殿下を支えますわ”
その日から僕は、少しずつメリンダ嬢に心を開くようになっていった。それと同時に、サリーと距離を置くようになっていったのだ。




