第8話:叔母様がいらっしゃいました
「お止めください、旦那様。その様な至近距離で攻撃魔法をかけたら、お嬢様のお命が」
必死に使用人が、お父様を止めている。
「うるさい!こんな奴、どうなろうと知った事ではないわ」
「きゃぁぁぁ」
「あなた達!大丈夫?私を庇ってくれてありがとう。でも、もういいのよ」
お父様に突き飛ばされた使用人に向かって、ほほ笑んだ。既に覚悟は出来ている。お父様が至近距離で再び攻撃魔法をかけようとしている。その姿を見て、再びゆっくり瞳を閉じた時だった。
“お願い、あなた。もう止めて…”
えっ…
女性の声が聞こえたかと思うと、急に辺りがものすごい光に包まれたのだ。
一体何がおこったの?お父様もびっくりして、固まっている。
その時だった。
「お義兄様、おやめください!なんて事をしようとしているのですか!サリー…あなたがサリーね。こんなにやせ細って。なんて事なの」
水色の髪をした女性が部屋に入って来たかと思うと、私に抱きついてきた。王妃殿下と同じ歳だろうか。彼女に抱き着かれた瞬間、今までに感じた事のない温もりを感じた。なんなのだろう、この心地よさは…
「マリア…どうしてここに?生きていたのかい?」
マリア?お母様の名前だわ。それじゃあこの人は、亡くなったお母様。そんな訳がない、お母様は、私を生んだせいで、命を落としたのだから。
「お義兄様、しっかりしてください。私はマリアの双子の妹、アマリリスですわ!それよりも、これは一体どういうことですか?サリーにこんな至近距離から攻撃魔法をかけようとするだなんて。この子を殺すおつもりですか!」
ものすごい剣幕で、お父様に詰め寄っている。この人は、どうやらお母様の双子の妹らしい。そういえば、お母様には妹がいると聞いたことがある。
ただその妹も、大切な姉を殺した私を恨んでいると思っていた。でも…違うのかしら?
「こいつは、マリアの最後の希望でもある“王妃にしたい”という願いを無下にしたんだ。今まで育ててやった恩を忘れてな。こんな恩知らず、私の娘でも何でもない!」
お父様が、叔母様に向かってそう吐き捨てたのだ。
「お義兄様は、いつからそんな非道な人間になってしまわれたのですか?これがマリアが愛した男なの…だからあの子は…」
叔母様の瞳から、涙が溢れだす。その涙を、そっとぬぐった。そして…
「サリー、今まで辛い思いをさせてしまってごめんなさい。でも、もう大丈夫よ。私があなたを守るから」
そう言うと、再び叔母様が私を抱きしめてくれた。この温もり…気持ちいい。
その時だった。
「旦那様、王妃殿下がいらしております」
なんと、王妃殿下がわざわざ訪ねていらした様だ。
「マーガレットが…ちょうどいいわ、あの子に色々と聞きたい事があるの。お義兄様にもね」
叔母様がお父様を睨みつけている。
「サリーは少しここで待っていてくれる?大丈夫よ、あなたは私が守るから」
叔母様が、優しい眼差しで私を見つめる。
「はい、承知いたしました」
「いい子ね。あなた達、サリーの事をよろしくね」
そう言うと叔母様は、お父様を私の部屋から押し出し、ドアを閉めた。あのお父様を睨みつけ、部屋から追い出してしまうだなんて。
よくわからないが、叔母様はお母様を殺した私の事を、恨んでいないのかしら?王妃殿下も私に優しかったし…
「お嬢様、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
お父様と叔母様が出て行った事を確認した使用人たちが、飛んできてくれた。
「ええ、どこも怪我はしていないわ。あなた達も私の為に、体を張って守ってくれてありがとう。あなたこそ、怪我はしていない?お父様に突き飛ばされていたでしょう?」
「私は何ともありません。お嬢様がご無事で、本当によかったです」
そう言って涙を流す、使用人たち。なんて優しい子たちなのかしら?何とかして、この子達だけでも守りたい。
「お嬢様、旦那様がいらっしゃらないうちに、食事を持ってきました。少しでも食べて下さい」
息を切らして、別の使用人がやって来た。そこには、サンドウィッチが入ったバスケットが。
「ありがとう、せっかくだから、頂くわ」
この先どうなるか分からない、だからこそ、しっかり食べておかないと。




