第74話:そんな事を言われましても…
「待って下さい。どうか少しだけ、お時間を頂けないでしょうか?どうしてもサリーと話がしたいのです。お願いします」
ジョージ殿下が、深々と頭を下げたのだ。王太子たるもの、そう簡単に人に頭を下げてはいけない。そう教えられていたはずなのに…
「ジョージ殿下、私でよろしければお話を伺いますわ。ただ…2人きりというのは少し気がひけるので、皆様もご一緒に話しを聞いていただくという形でも、よろしいでしょうか?」
一体何があったか知らないが、こんなに真剣に訴えかけてくるのだから、きっと何かあるのだろう。とはいえ、2人きりはさすがに気まずい。
「…分かったよ、君と話が出来るのなら、それでも構わないよ」
「それでは、ここでお話をしましょう。サリー嬢、ここの席が空いているよ。グラッサム公爵とルーカス殿も席についてくれ」
マレリス王国の王太子殿下に促され、それぞれ席についた。私の隣には、ルーカス様がぴったりと寄り添ってくれている。
「ルーカス殿とサリーは、義理の兄妹とうかがっておりますが、随分と仲が良いのですね。義理とはいえ、2人は兄妹ですから、あまりその様にベッタリくっ付かない方がよろしいのではないですか?」
別に私とルーカス様がくっ付いていようがなかろうが、ジョージ殿下には関係ない事だ。ルーカス様も同じ事を思ったのか
「ジョージ殿下には、関係ない事ではありませんか?その様な事を言う為に、私共を呼んだのですか?」
そう笑顔で反論していた。
「確かに関係ありませんが、目に余るほど密着しておりましたので…話がそれてしまいましたね。僕がこの国に来た目的はもちろん、マレリス王国との今後の繋がりを深めるための視察もありますが、サリー、君に会う事も目的の一つだったんだ。ずっと君に謝りたくてね…」
すっと立ち上がったジョージ殿下。そして…
「サリー、君を傷つけて本当にすまなかった。あの時の僕は、全く周りが見えていなかった。本当に愚かだった。君が僕に無償の愛を注ぎ続けてくれていたのに、その愛に気が付かずに、あの女にうつつを抜かしてしまった。
本当に自分が情けないよ…サリー、君はもう僕の顔なんて見たくないかもしれない。それでも、どうしても謝りたかったんだ。君がどんな思いで国を去ったのかと思うと、いてもたってもいられなくて。
サリー、もう二度と君を傷つけたりしない。もし君が我が国に戻って来てくれるのなら、これからは君だけを大切にする。だからどうか、もう一度僕にチャンスをくれないかい?」
チャンス?この人は一体、何を言っているのだろう。
「ジョージ殿下、一体何をおっしゃっているのですか?私はもう、マレリス王国のグラッサム公爵家の養子になったのです。これからはずっと、マレリス王国で生きてまいります。あなた様は、ミレンズ王国の王太子殿下なのです。
私の事を気にしてくださるのは大いに有難いのですが、どうかもう私の事は気にしないで下さい。私は今、とても幸せですから。あなた様は愛するメリンダ様と、幸せになって下さいませ」
笑顔でジョージ殿下に伝えた。
「メリンダ嬢と僕が婚約する事はないよ。僕はサリー以外の女性と、結婚するつもりはない。だからもしサリーが、僕との結婚を拒否すれば、僕はずっと独身を貫くつもりだ」
「あなた様は、何をおっしゃっているのですか?陛下と王妃殿下の唯一のお子様でもあるあなた様が、一生独身だなんて…その様な事、他の貴族が許す訳ございませんわ。
とにかく私の事はお忘れになって、どうか他の令嬢と結婚して幸せになってください。それが今の私の願いでもあるのです」
正直今更そんな事を言われても、非常に困るのだ。私はもう、ミレンズ王国に戻るつもりもないし、王妃になんてなるつもりもない。この国で穏やかに暮らしたいのだ。
「ジョージ殿下、その様なお話でしたら、私共はこれで失礼させていただきます。サリーはあなた様に嫁がせるつもりも、ミレンズ王国に返すつもりはありません。サリーは私の娘なのです。
とにかく、もうサリーには関わらないで下さい。それではこれで、私共は失礼いたします。サリー、ルーカス。帰るぞ」
「そうですね、帰りましょう。ジョージ王太子殿下、サリーがあなた様のお傍でどれほど傷ついたか、ご存じですよね。それなのにまだ、サリーを苦しめるおつもりですか?もし少しでもサリーに申し訳ないと本当に感じられていらっしゃるなら、もう二度とサリーの前に姿を現せないで下さい。
いくら他国の王太子殿下であっても、これ以上サリーを傷つける人は、誰であろうと許さない!サリー、帰ろう」
「待ってくれ、僕は…」
後ろでジョージ殿下が叫んでいたが、私たちはそのまま部屋を出たのだった。




