第72話:登城する事になりました
お兄様を見送った後、3時間かけて公爵家に帰ってきた。この1週間、今までにないほどお兄様と一緒の時間を過ごせた。
最初はぎこちなかったけれど、それでも少しずつ打ち解ける事が出来たのだ。またいつか、お兄様にも会いたいな。それにお父様にも…
お兄様にお父様への手紙を託したけれど、大丈夫だったかしら?お父様はずっと、私の事を嫌っていたのだ。また会いたいだなんて手紙を書いたけれど、嫌な思いをしていないかしら?
もしまたお父様の逆鱗に触れたら…
恐怖で体が震えだす。
「サリー、どうしたのだい?急に震えだして、大丈夫かい?可哀そうに、こっちにおいで」
私の異変にいち早く気が付いたルーカス様が、すぐに抱きしめてくれる。その瞬間、安心感に包まれた。たとえお父様の逆鱗に触れたとしても、私にはルーカス様がいる。叔父様や叔母様もいる。
お兄様だって…
もう一人ではない、きっと大丈夫だ。
もう少し落ち着いたら、ミレンズ王国に遊びに行きたい。王妃殿下、元気かしら?最後まで私の事を心配してくれていたものね。いつかルーカス様と一緒に…またそんな事を考えてしまった。
お兄様も帰ったし、今度こそルーカス様ときちんと話がしたい。今日は港までお兄様をお見送りに行っていてバタバタしていたから、明日ゆっくり話をしよう。
そう思っていたのだが…
翌日から叔父様とルーカス様は、1週間ほど領地に行く事になったのだ。どうやら領地で、トラブルが起きているという事。せっかくルーカス様とゆっくり話をしようと思っていたのに…
とはいえ、領地のトラブルとあっては仕方がない。お屋敷で、ルーカス様の帰りを待つ事になった。
そして1週間後、無事に帰ってきた叔父様とルーカス様。これでやっと、ルーカス様に自分の気持ちを伝えられる。そう思っていたのだが…
「サリー、明日なのだけれど、王太子殿下に呼び出されていてね。悪いが私と一緒に、登城してくれるかい?」
帰って来て早々、叔父様からそんな事を言われたのだ。聞けば少し前から登城の話があったそうなのだが、領地でのトラブルがあったため、明日まで延ばしてもらっていたらしい。
王太子殿下か…
正直その響きに良い思い出がない。とはいえ、この国の王太子殿下は既に結婚され、王子殿下と王女殿下もいらっしゃる。それに物腰柔らかで、とてもお優しい方と聞いている。
そんな王太子殿下が、一体私に何の用があるのだろう。
「サリー、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。叔父上、僕も一緒に行ってもいいですか?サリーが不安がっています。王太子殿下は、なぜ急にサリーを呼び出したのですか?」
すかさずルーカス様が傍に来てくれた。
「それが、私もよくわからなくてね。とにかく来て欲しいとの事だ。ルーカスは呼ばれていないが、ルーカスが傍にいた方がサリーも安心するだろう。明日の朝、王宮に使いを出して、ルーカスも一緒に登城する事を伝えておくよ。
まあ、簡単に延期できるような感じだから、きっと大した用ではないよ」
そう言って笑った叔父様。本当にたいした用でなければよいのだけれど…
「サリー、明日は登城するのでしょう。あなた、この国の王宮は初めてよね。王宮もとても美しいのよ。王太子殿下もたいした用ではないとおっしゃっているのですもの。
もしかしてミレンズ王国から来たあなたに、一度会ってみたいのかもしれないわね。王太子殿下は、サリーのお披露目の時どうしても外せない公務があって、いらっしゃれなかったから」
そう言って笑った叔母様。なるほど、そう言う事か。確かに他国の貴族がこの国で生活を始めたのだ。それも公爵家の養女として迎えられたのだから、一度会ってみたいと考えるのも、不思議ではない。
「そう言う事でしたのね。確かに私はまだ、この国の王宮を見た事がございませんので、明日は見学させていただくつもりで登城させていただきますわ。
きっと王宮も、とても綺麗なのでしょうね」
この国に来た時、あまりにも綺麗な街並みに感動したほどだ。きっと王宮も、とても素敵なのだろう。叔父様はもちろん、ルーカス様も傍にいて下さると言っているし、せっかくだから王宮をゆっくり見学させてもらおう。
そう思ったら、なんだか楽しみになって来た。早く明日にならないかしら。




