第70話:なんて優しい子だ~ローレティエン公爵視点~
「父上、ただいま戻りました。今さっき、使用人たちに聞いたのですが、薬を飲むことを拒否しているのですって?訳の分からない意地を張らずに、さっさと飲んでください」
この声は…
10日ほど前に、サリーがお世話になっているマレリス王国へと向かったサレオ。どうしてもサリーに謝りたい、伝えたい気持ちがあると言って、私の反対を押し切って旅立っていった。
アマリリスが言った“いつでも遊びにいらっしゃい”その言葉だけを信じて、マレリス王国へと旅立ったサレオ。そんなサレオが、帰って来た様だ。
「サレオ…」
久しぶりに見たサレオは、いつもより明るくなった雰囲気があるのは気のせいだろうか。こんなにも長い期間帰ってこなかったという事は、アマリリスから受け入れられ、お世話になっていたという事だろう。
「父上、さあ、薬を飲んでください。今あなたに死なれては、困るのです」
「サレオ…私は…」
無理やり私に薬を飲ませようとするサレオ。いくら息子の頼みでも、やはり薬を飲むのは…
「あなたが今亡くなったら、サリーが悲しみます。これ以上サリーに辛い思いをさせても、いいのですか?」
「サリーが?」
そんなはずはない、あの子は私の事を憎んでいるはずだ。母親亡き後、本来ならあの子を守らなければいけなかったのに…守るどころか苦しめ傷つけ、ボロボロに、さらには命まで奪おうとしたのだ。
私などいなくなった方が、サリーはせいせいするだろう。こんな私の事なんて…
「父上、このままだと本当に命を落としてしまいます。とにかく飲んでください」
無理やり薬を口の中に押し込み、そのまま水を流し入れられた。その反動でつい、薬を飲んでしまったのだ。
その瞬間、胸の痛みがスッと引いていくのを感じた。
「なんて事だ…薬を飲んでしまった…」
「何がなんて事だ!ですか!本当に父上は、世話が焼けるのですから。父上、いい加減にしてください。あなたがたとえ亡くなっても、サリーも母上も喜びません。マレリス王国で、サリーに会ってきました。
すっかり元気になったサリーは、亡くなった母上にそっくりでしたよ。新しい家族に囲まれて、とても幸せそうでした。どうやらサリーは、愛する人を見つけた様で、その人がサリーの傍にずっといてくれている様です。
きっともう、サリーは大丈夫でしょう」
「そうか…サリーにそんな男性が…」
アマリリスならきっと、サリーを大切にしてくれているだろう、そう思っていた。サリーは新しい家族から沢山愛情を注いでもらい、さらに好きな男まで出来たのか。
あの子には15年もの間、生き地獄を味合わせてきた。どうかこれからは、幸せになってほしい。
「それから、父上に託されたブローチも渡して来ましたよ。サリーは素直に受け取ってくれました。そうそう、母上がサリーと自分の為に準備したドレスも、サリーは着てくれていましたよ。
写真に残せなかったのが、残念だな…」
「そうか…サリーは、マリアのドレスを着てくれたのだな…あんなにも酷い扱いをした私なんかが準備したブローチも、受け取ってくれるだなんて」
感情が高ぶり、涙が溢れだす。
「とにかくサリーは元気にやっておりましたので、ご安心を。それからこれ、サリーから預かった手紙です。父上に渡して欲しいとの事で。あと、これも」
サレオが1通の手紙と、何やら大きな包み紙を渡してきたのだ。
「これを私にだと?本当にサリーが私にと言って、渡してきたのかい?」
「ええ、そうですよ。サリーは本当に優しい子ですね。怯えながらも俺を受け入れ、俺の話を親身になって聞いてくれました。あんなに酷い事をしたのに…その上、父上の事も心配しておりましたよ。
俺なら絶対に許さないけれど、サリーは必死に俺たちの事を許そうとしてくれていたのですよ。あんなに優しくて思いやりのある妹を俺は…そう思うと、サリーに申し訳なくて…
それでも過ぎたことはもう仕方がありません。これからは、サリーに恥じない様に生きていこうと思います。もしサリーが何か辛い事があったら、一番に駆けつけるつもりです。
とはいえ、サリーにはもう、誰よりもサリーの事を大切に思ってくれているルーカス殿がいますけれどね。それでは俺は、これで失礼いたします」
そう言うと、サレオは部屋から出て行ったのだった。




