第68話:和やかな時間
「サリーは自国で、本当に辛い思いをしてきました。婚約を約束していた王太子には魔力だけをむしり取られ、いざ婚約の時になったら、あっさり別の令嬢に乗り換えられて…
本来ならサリーが一番辛いときに、家族でもある俺たちが寄り添い、味方になってあげなければいけなかった。でも、俺たちはそれをしなかった。
サリーはずっと、愛情を知らずに孤独の中で生きてきました。いつも怯え、ガリガリにやせ細り、俯き、真っ青な顔をしていたサリーが、今は真っすぐ前を向き、堂々としている。
顔色も随分よくなり、亡くなった母上にそっくりの美しい女性になった。きっと叔父上や叔母上、そして何よりもルーカス殿が傍にいて下さったからでしょう。
ルーカス殿、どうかサリーの事を、よろしくお願いします」
そう言うと、お兄様がルーカス様に向かって深々と頭を下げたのだ。
「サレオ殿、頭をあげて下さい。正直僕は、あなたの事が許せなかった。あんなにボロボロにした、あなた達家族を、八つ裂きにしたいと思っていました。もちろん、今でもサリーにした仕打ちを考えると、そう簡単に許すことはできません。
ですが…それでも今回、あなたと話が出来てよかった。サレオ殿、どうか公爵殿にもお伝えください。僕が必ず、サリーを幸せにしますと。たとえこの命に代えても」
真っすぐお兄様を見つめ、はっきりとそう告げたルーカス様。そして、お兄様に向かってスッと手を差し出したのだ。
“僕が必ず、サリーを幸せにします”その言葉が、私の中でこだまする。やはりルーカス様は、私を…
ついそんな都合のいい事を考えてしまう。
「ルーカス殿、ありがとうございます。俺もあなたと話が出来てよかった」
お兄様が差し出されたルーカス様の手を、ギュッと握った。あのお兄様とルーカス様が、こんな風に手を握り合っているだなんて。なんだか不思議な光景だ。
正直まだお兄様に対する苦手意識が消えたわけではない。それでも今回、お兄様と話が出来てよかった。
いつか兄妹2人で、普通に話しが出来るようになれたらいいな…
ついそんな事を考えてしまったのだった。
その後はお兄様と他愛もない話をした。せっかくなので、ルーカス様と一緒に、お兄様に公爵家も案内した。
夜は叔父様や叔母様も加わり、5人で食事を楽しんだ。お兄様もすっかりこの国の食事が気に入ってくれた様で、美味しいと言ってたくさん食べていた。
どうやら昨日は、ほとんど食事に手を付ける事が出来なかったそうで、叔母様が嬉しそうに色々な食べ物を勧めていた。
「食事って、こんなにも楽しい物なのですね。我が家は家族みんなで食事をする事が、あまりなかったので…」
お兄様がポツリと呟いたのだ。確かに我が家は、家族で食事をする事があまりなかった。一緒に食べても、お父様はいつも不機嫌そうだった。
もしかしたらお兄様も、ずっと孤独だったのかもしれない。私と同じように、家族の温もりを知らずに今まで生きてきたのかもしれない…
私ばかりが可哀そうな子として扱われてきたけれど、お兄様もずっと辛かったのかもしれない。今日のお兄様を見て、なんだかそんな気がした。
この国にいる間は、お兄様にも家族の温もりを知ってもらいたいな…私が今幸せを感じている様に、お兄様にも同じように幸せを感じてほしい。
叔父様と叔母様も同じ事を思ったのか、翌日からお兄様を連れて街に買い物に行ったり、家族でお茶をしたりして過ごした。最初は戸惑っていたお兄様も、次第に嬉しそうに過ごすようになっていった。
そして1週間後
「叔父上、叔母上、ルーカス殿、サリー、1週間お世話になりました。この地に来て、俺も家族の温もりを知ることが出来ました。本当にありがとうございました」
お兄様が帰国する日、皆で港までお見送りに来た。
「サレオ、あなたも私の大切な甥よ。いつでもまた、この国に遊びにいらっしゃい」
「はい、ありがとうございます、叔母上。それではこれで失礼します」
お兄様が笑顔で手を振って舟に乗り込んでいく。この国に来た時よりも、明らかに元気になったお兄様。私達もお兄様に手を振り返した。
お母様がいない事で、お兄様も沢山苦しみずっと孤独に耐えてきた。どうか自国で、愛する人を見つけて幸せになってほしい。笑顔で手を振る兄を見て、そう願わずにはいられなかったのだった。
次回、サリーの父、ローレティエン公爵視点です。
よろしくお願いします。




