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あなたに全てを捧げてきたけれど…これからは自分の為に生きます  作者: Karamimi


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第64話:少しずつ前に

 翌朝、ノートを手に部屋から出ると、ルーカス様が待ってくれていた。


「サリー、おはよう。少し顔色が悪いが、大丈夫かい?無理に君のお兄さんに会う必要はないのだよ。サリーは優しいから、あんな話を聞いたら、許さなくてはいけないと思うかもしれない。


 でも、彼はサリーを沢山傷つけたんだ。無理して許す必要はない。もしこの屋敷に居づらいのなら、ホテルをとってもいいし。もちろん、僕も傍にいるから」


「ありがとうございます、ルーカス様。昨日兄から渡された母の日記を読みました。そこには、生前母の思いが詰まっていて…


 母はどんな気持ちで、私や兄を見ていたのだろう。そう思ったら、なんだか胸が張り裂けそうになりました。正直兄の事は、未だに怖いです。でも…この日記を見たら、少しだけ勇気が湧いてきました。朝食が終わったら兄の元に行こうと思うのですが、ルーカス様も付いてきてくれますか?」


「もちろんだ。でも、大丈夫なのかい?昨日だって震えていたし。今だって…」


 不安そうなルーカス様が、私を見つめている。そっと彼の手を握った。


「ルーカス様が…傍にいて下さったらきっと、大丈夫な気がするのです。あなた様はいつも、私を守ってくださいますでしょう?」


 少し前の私なら、絶対にできない発言。でも、変わりたい、自分の幸せの為に、一歩前に踏み出したい。


「サリー…ああ、僕はどんな時でもサリーの味方だし、サリーを守るよ。絶対に傍から離れないから、安心して。さあ、朝食にしよう。最近あまり食べていなかったよね。昨日もパンとスープと果物しか食べていなかったし。また痩せてしまって…可哀そうに」


 私、そんなに痩せたかしら?自国にいた頃よりも、随分と肉付きが良くなったと思うのだけれど。そういえば少しウエストが緩くなったような…


 ルーカス様は、そんな所まで見てくれているのね。私よりも私の事を知っているだなんて。


「それじゃあ、食事にしよう。いこうか」


「はい」


 お互いしっかり手を握り、2人で食事が準備されている別室向う。ルーカス様があれこれ世話を焼いてくれるお陰か、今日はいつもよりたくさん食べられた。


 食後

 お兄様の待つ客間の扉の前にやって来た。


 大丈夫、ルーカス様も傍にいてくれる。私はもう、1人ではないのだから。それに、お母様が託したこの日記もある。


 ゆっくりと深呼吸をし、客間に入っていく。


「サリー…よく来てくれたね。ルーカス殿も、座ってくれ」


 いつも眉間にしわを寄せ、私の睨みつけていたお兄様が、今日は穏やかな表情をしている。こんな表情のお兄様、初めて見たわ。


「サリー、大丈夫だよ。こっちにおいで」


 ルーカス様に連れられ、2人でソファに腰を下ろした。ルーカス様がすっと背中に手を当てる。反対側の手は、私の手をがっちり握っている。


 手と背中から伝わる温もりが、私に勇気を与えてくれる。


「お兄様、私の為に時間を作って下さり、ありがとうございます。まずはお母様の日記をお返しいたしますわ」


 そっと日記を机の上に置いた。そして再び深呼吸をする。


「私は…幼い頃からお父様やお兄様に嫌われておりました。でもそれは、私が2人からお母様を奪ったから。お母様もきっと、私の事を恨み憎んでいるとずっと思っていたのです。私はこの世に生まれて来てはいけない人物。そんな私は、どれほど傷つき苦しくても、その苦しみや悲しみは、黙って耐えるものだと思っておりました。


 ジョージ殿下が別の令嬢と婚約したいとおっしゃったときも、私に魅力がない人間だから仕方がない。全て私が我慢すれば、事はうまく収まる。


 あの頃の私は、全てを諦めておりました。自分の幸せも、生きる希望も、何もかも。


 だからあの日、お父様が私を殺そうとした時、不思議と恐怖を感じませんでした。それどころか、これでやっと孤独や苦しみから解放される…


 そう思ったほどです。ですが叔母様に引き取られ、この国での生活が始まってからは、本当に毎日が幸せで。初めて家族の温かさを知ることが出来ました。大切な家族に囲まれ、最近では友人も出来ました。


 それでも心のどこかで、お母様の人生を奪ってしまった私が、幸せになってもいいのか、そんな葛藤があったのも事実です。


 叔母様はお母様が私を助けてほしいと、訴えてきたとおっしゃっておられました。私が意識を失った時も、お母様が夢の中に出て来て、幸せになってほしいと訴えられた事もありました。


 そのたびにお母様は私を愛してくれている、傍にいてくれている、そう思い幸せな気持ちにもなりました。とはいえ…ずっと私のせいでお母様は亡くなったと言われてきたからでしょうか。


 心のどこかで、私や叔母様が見ているお母様の姿は、私の願望が生み出しているのではないか…なんて事を考える自分もいたのです」


 今までの事、この国に来てからの事、そして私の中で抱えていた小さな葛藤を、1つ1つ話していく。そんな私を、お兄様は俯きながらも真剣に聞いてくれている。


 拳を強く握り、心なしか震えているようにも感じた。


 それでも私は、気持ちを伝えたい。私の思いを、お兄様に聞いて欲しい。そんな思いで、話しを続ける。

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