第61話:お兄様の話
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お兄様の横には、寄り添うように叔母様が隣に座った。私の隣には、もちろんルーカス様が座る。
こんな風に隣同士に座るのは、1週間ぶりだ。やはりルーカス様が傍にいてくれるだけで、心は随分と穏やかだ。
「それでサレオ、どうして急に我が国に来たの?手紙でも送ってくれたらよかったのに」
「急に押しかけて、申し訳ございません。本来なら手紙を出して、叔父上や叔母上にお伺いを立てるべきだったのでしょうが、拒絶されるのが怖くて…
ここの来てしまえば、嫌でも受けいれてもらえると思ったのです」
俯き加減に、お兄様がぽつぽつと話し始めた。
「叔母上と話した後、俺も色々と考えました。どうして俺は、サリーを恨んでいたのだろう。まだ幼いサリーは、何度も嬉しそうに俺に寄って来ていた。その手を何度も振り払った。
サリーの悲しそうな顔が、今も脳裏に浮かんで離れない。全てを諦め、いつも顔色が悪くしていたサリーが気になっていたのに、サリーは母上を殺した憎い奴と思い込み、サリーを気に懸けるどころか、酷い事を言って傷つけてしまった。
サリーが俺から母上を奪った、ずっとそう思っていた。でも…それは違ったのですよね。母上は自分の命と引き換えに、サリーを生んだ。命を懸けてサリーを守ったんだ。
俺は大好きだった母上との最後の約束も、母上の最後の願いも全て無下にして、サリーだけでなく母上をも傷つけたのです。俺は最低な息子で、最低な兄だ!
全て分かっています、でも…それでもどうしてもサリーに謝りたくて、それで…」
「それでこの国に来たのね。サレオ、話してくれてありがとう。辛かったわね」
叔母様が、涙を流しているお兄様を抱きしめた。いつも私を睨みつけていたお兄様が、こんな風に泣くだなんて…
「今更自分のやった事を後悔して、謝りに来ただって?ふざけるな!サリーが自国でどれほど辛い思いをしていたか。兄でありながら、サリーを傷つけて来たあなたに、謝罪する資格なんてない。あなたが出来る償い方法はただ一つ、もうサリーに関わらない事だけだ。
さあ、今すぐ帰ってくれ」
ルーカス様が立ち上がり、お兄様に向かって叫んだのだ。いつも穏やかなルーカス様が、こんな風に怒りをあらわにしているだなんて…
そんな彼の手を、そっと握った。
「ルーカス様、私の為に怒って下さり、ありがとうございます。お兄様のお気持ちは分かりました。どうかもう、私の事は気にしないで下さい。私はもう二度と、ミレンズ王国に戻る事はありません。
お母様もきっと、お兄様に対し怒ってはいないと思いますわ」
正直もう、お兄様と関わりたくはない。お兄様の姿を見ると、あの時の辛かったことが、走馬灯のように蘇ってくるのだ。
「サリー、本当にすまなかった。俺は君の兄失格だ。謝罪しても許してもらえない事くらい、分かっている。だが、どうしてもサリーの顔が見たくなって。随分と顔色が良くなったね。髪もサラサラだ。
本当に母上にそっくりだ。サリー、この写真を見てほしい」
私に1枚の写真を渡していたのだ。この写真は…
写真には幼いお兄様と私が楽しそうに遊んでいる姿を、お母様が優しい眼差しで見つめる。どうしてこんな写真があるの?あり得ないわ。この写真は一体…
「サリーの母親の写真かい?この写真が一体どうしたというのだ?」
不思議そうな顔で、ルーカス様が呟いた。
「ルーカス様は、この写真を見ておかしいと思わないのですか?幼い私とお兄様が楽しそうに遊んでいる姿を、お母様が見つめているだなんて…あり得ないですわ。この様な姿は、存在しないのだから…」
お母様は、私を生んですぐに亡くなった。それにお兄様と楽しく遊んだ記憶もない。この写真は、一体…
「サリーにも、俺と同じように見えているのだね。その写真は、叔母上が我が家に置いていった写真だ。どうやら母上の魔力か何かが憑りついているのだろう。母上の願いや願望、伝えたい事が見えるようなんだ。
俺もサリーと同じように、俺たち兄妹が楽しそうに遊んでいる傍で、母上が見守っている姿が見える。きっと母上は、俺たち兄妹が仲良くしている姿を、望んでいるのではないか…そう思って。
俺は今まで、母上の最後の願い“サリーを守る”という約束を破り続けてきた。今更自分に何が出来るのだろう。そう思ったりもした。
でもこの写真を眺めているうちに、どうしてもサリーに会いたくなったんだよ。こんな我が儘な兄で、すまない」
再び声を殺しながら涙を流すお兄様。なぜだろう、お兄様の涙を見ていたら、胸が張り裂けそうになる。




