第6話:私にできる事
しばらく待っていると、陛下と王妃殿下、ジョージ様が入場してきた。ジョージ様、心なしか元気がない気がする。もしかしてまた、魔力が欠乏したのかしら?
一気に心配になる。ただ、次の瞬間、ある方向を見てニコリとほほ笑んだのだ。ジョージ様の視線の先にいたのは、メリンダ様だ。メリンダ様も嬉しそうに微笑んでいる。まるで恋人同士の様だ。
その姿を見た瞬間、胸がズキリと痛んだ。2人はきっと、愛し合っているのだろう。それなのに、私が2人を引き裂いてしまっていいのだろうか…
そんな不安が、私の心を支配していく。
「皆の者、今日でジョージは16歳になった。ジョージがこの日を迎える事が出来たのも、皆のお陰だ。そして今日、ジョージの婚約者を正式に発表する。
ジョージの婚約者は、サリー・ローレティエンに…」
「お待ちください、父上!」
私の名前が読み上げられた瞬間、ジョージ様が待ったをかけたのだ。一気に周りがざわつく。
「父上、母上、それから貴族の皆様、私はファッショレ侯爵家のメリンダ嬢を愛しております。どうかメリンダ嬢と、婚約させていただけないでしょうか。サリー、すまない。君の事が嫌いになった訳ではない…ただ、体の弱い君よりも、健康で明るいメリンダ嬢に僕は、恋をしてしまったんだ。
もちろん君には、それ相当の対価を支払う。だからどうか、僕とメリンダ嬢の婚約を認めてくれないだろうか」
真剣な表情で、ジョージ様が訴えかけてくる。なんだかそんな気がしていた。ジョージ様は、メリンダ様の事を愛していらっしゃるという事を。
ただ…
「ジョージ殿下、それは一体どういうことでしょうか?確かにサリーは体調がすぐれない日も多くありました。とはいえ、サリーと殿下が婚約する事は、侯爵以上の貴族なら皆了承していた事です。それなのに、今更覆すだなんて」
お父様がすかさず抗議の声をあげた。お父様は何が何でも、私を王妃にしたいと考えている。それが亡きお母様の唯一の願いでもあったからだ。
さらに
「ローレティエン公爵のおっしゃる通りだ。もしここでサリー譲と殿下が婚約しなければ、今後誰も王太子殿下の婚約者候補になりたいという人はいなくなるでしょう。
私はサリー譲こそが、殿下の婚約者にふさわしいと思っております」
「私もです。そもそも形上は今日が婚約者の発表と言う事になっておりますが、既にサリー譲と婚約する事が決まっていたのです。それなのに、このタイミングで覆すだなんて!さすがに容認できません」
次々と侯爵以上の貴族たちが、声を上げ始めた。
「ジョージ、あなたは何を考えているの?今までサリーちゃんが、どんな気持ちであなたを支えてきたと思っているの!とにかくメリンダ嬢との婚約なんて、認めないわ。もしメリンダ嬢と婚約をしたいというのなら、親子の縁を切るわ」
目に涙をいっぱい浮かべた王妃殿下が、ジョージ様に訴えている。皆様がそんな風に私の事を思ってくれていただなんて…なんだか嬉しい。
ただ、悲しそうに俯くジョージ様の姿を見ていたら、胸が締め付けられる。ジョージ様には、いつも笑っていてほしい。彼が元気で幸せに生きていてくれたら、私は嬉しい。たとえお傍にいられなかったとしても…
そっとジョージ様の傍に向かった。
そして…
「ジョージ様は、それほどまでにメリンダ様の事を愛していらっしゃるのですか?」
真っすぐジョージ様を見つめ、問いかけた。
「ああ、愛している…サリー、きっと君と婚約を結んだとしても、僕はずっとメリンダ嬢を想い続けるだろう。君を愛する事は、きっとない。他の令嬢を思い続けている様な僕と、それでも婚約をしたいのかい?」
ジョージ様が今にも泣きそうな顔で、問いかけてくる。そんな彼に、笑顔を向ける。
「ジョージ様の気持ちは分かりました。私は幼い頃から、ジョージ様をお慕いしておりました。あなた様が幸せになってくれるのなら、どんな事でもしよう、そう思っていたのです。
あなた様が私との婚約が嫌だ、メリンダ様との未来を歩みたいとおっしゃるのなら、私はそれを受け入れますわ。
どうか…どうか幸せになって下さいね」
本当は私が、ジョージ様の傍にいたかった。でも…それをジョージ様が望んでいない以上、私にできる事は身を引く事くらいしかないのだ。




