第5話:運命の朝を迎えました
屋敷に戻ると、すぐにドレスを脱ぎ、湯あみを済ませるとベッドに横になった。さすがに体力的にもう限界だ。
「お嬢様、大丈夫ですか?すぐに食べる物を持ってまいりますね」
「ありがとう、でも勝手に食べ物を持って来ると、お父様に怒られるわ。私のせいで、あなた達が怒られる姿を見たくないの。ゆっくり休めば、きっと明日には体も少しは戻っているはずだから」
「ですが…」
心配そうに俯く使用人たち。彼女たちは、いつも私の事を考えてくれている。とはいえ、私はお父様に嫌われているのだ。勝手に私に食事を与えてはいけないと、お父様にきつく言われている。
欲しければ自分で食堂に食べにこいというスタンスなのだ。とはいえ、私の顔を見ると、あからさまに嫌そうな顔をするお父様とお兄様。そんな2人に会いたくなくて、食事を抜く事も珍しくはない。
「本当に大丈夫よ。それに今日はお茶会で、お菓子を食べて来たし。そんなにお腹は空いていないから」
本当はお菓子など食べていないが、こうでも言わないと使用人たちの不安は取り除けない、そう思ったのだ。
「承知いたしました、それでは何かあれば、お呼びください」
そう言うと、使用人たちは部屋から出て行った。明日はいよいよ運命の日だ。
大丈夫よ、きっとジョージ様は、私と婚約してくださるわ。王妃殿下だって、私の事を気に入って下さっている。
でも…もしジョージ様が、メリンダ様を選んだら…
考えただけで、涙が溢れる。それでも私は、やれるだけの事をやったのだ。もうこれ以上、私にできる事は何もない。そうよ、私はジョージ様にずっと魔力を提供し続けてきた。きっと大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、眠りについた。
翌日
昨日よりかは少しマシになったが、まだ頭がクラクラする。それにあいかわらず、顔色も悪い。とはいえ、今日はジョージ様の婚約者が決まる、大切な日だ。休むわけにはいかない。
それに何よりも、たとえ私が今倒れたとしても、お父様に無理やり連れていかれるだろう。あの人にとって、私の体調よりも次期王妃にする事の方が、ものすごく大切な事なのだから。
準備を整え、少しのパンとスープを口にした。正直食欲はないが、昨日も何も食べなかったし、少しは食べておかないといけない。そんな思いで、食事を口に運ぶ。
さて、そろそろ王宮に向かわないと。ふらつく体でお父様たちが待つ馬車へと向かった。
「サリー、遅いぞ。相変わらずどんくさい奴だな!さあ、さっさと乗れ」
「申し訳ございません、お父様」
不機嫌全開のお父様と一緒に、馬車に乗り込む。
「やっと今日、お前はジョージ殿下と婚約をするのだな。これでマリアの夢も叶えられる」
お父様が呟いた。お母様の夢…私を王妃にする事。でも、どうしてお母様は、そこまで私を王妃にしたかったのかしら?王妃になるという事は、こんなにも痛くて苦しい事なのに。
それでも私は、ジョージ様を愛している。たとえ魔力提供がどんなに苦痛であっても、今まで耐える事が出来たのは、ジョージ様のお陰だ。これからはもう、魔力提供をする必要もない、今度こそ、幸せに…
…
本当に私は、幸せになれるのかしら…
窓の外には雲一つない青空が広がっている。こんなにも気持ちの良い天気なのに、私の心は曇ったままなのだ。
「とにかくやっとお前も、我が家の役に立てる日が来たな」
そう言って、お父様がガハガハと笑っている。この家の役に立つか…
「王宮に着いた。さあ、いくぞ」
お父様が馬車から降りると、スタスタと歩き出した。そのスピードに必死に着いていく。もっとゆっくり歩いて下さいだなんて事は、口が裂けても言えない。私には、発言権がないのだから…
大きなホールにやって来ると、既にたくさんの貴族が集まっていた。今日ここで、正式に私がジョージ様の婚約者になる事が発表される。既に決まっている事。
でも、なぜだろう、胸騒ぎがするのは…




