第42話:皆が気を使ってくれます
「さあ、サリー。まずは食事をしないとね。サリーは果物が好きだったわね。私が食べさせてあげるわ」
「叔母様の手を煩わせる訳には行きませんわ。使用人もおりますし」
「あら、私はもう、あなたの母なのよ。娘がこんな状況なのだから、私が食べさせるのが普通よ。私も子供の頃、熱を出した時にお母様が食べさせてくれたの。それが嬉しくてね。
さあ、食べて。もし気持ち悪くなったりしたら、教えて」
叔母様が小さく切ったリンゴを、私の口に運んだのだ。もう私は叔母様の娘か…お母様が生きていたら、こうやって私に食べさせてくれたのかしら?
ゆっくりと口を開けた。
「甘くて美味しいです」
「よかったわ。次は何を食べたい?」
「シャインマスカットが食べたいです」
「シャインマスカットね。分かったわ」
これまた甘くて美味しい。その後も色々な果物を、少しずつ食べていく。その様子を、叔父様も嬉しそうに眺めていた。
「叔母様、もうお腹がいっぱいですわ」
「分かったわ、サリー、沢山食べられたわね。さあ、もう休んで。何かして欲しい事があったら、何でも言ってちょうだい」
「ありがとうございます」
お腹がいっぱいになったら、なんだか眠くなってきた。
瞼を閉じると、あっと言う間に眠ってしまったのだった。
次に目覚めたのは、夜だった。目の前には、ルーカス様の姿が。
「サリー、目が覚めたのだね。よかった、また意識が戻らなくなるのではないかと、心配したんだ。お腹が空いていないかい?すぐにご飯にしよう。それから、君は青いバラが好きだったね。たくさんの青いバラを持ってきたよ」
私のベッドの上に、丁寧にとげの処理をされた青いバラをゆっくりと並べたルーカス様。
そのバラを一つ取る。私の大好きなバラの匂いを嗅いだ瞬間、幸せな気持ちになった。
「ルーカス様、ありがとうございます。バラの匂いを嗅いだら、なんだか元気が出てきましたわ」
「それは良かった。さあ、次は食事にしよう。叔母上の話では、朝は果物を少し食べただけだと言っていたね。今日は食べやすいペースト状のスープを準備したよ。今日から僕も、この部屋で一緒に食事をするから。
1人で食べるよりも、誰かと食べた方が、サリーも沢山食べられるだろうし。本当は眠るときも一緒にと思ったのだが、さすがにそれは許可が下りなくてね。暗い部屋で1人で眠るのは心細いだろうと言ったら、叔母上が今日からサリーと一緒に眠ると言っていたよ。
叔母上め、女同士だからといって、サリーを独り占めしようとするだなんて」
「まあ、叔母様がですか?私はもう15歳です。1人で眠れますわ。それに叔母様が私の部屋にいらしたら、叔父様が寂しがるでしょうし」
今までだって、ずっと1人で寝ていたのだ。特に怖いとか寂しいとか思った事はない。
「そうだよね、叔母上には叔父上がいるのだから、やはりその件は僕の方から断っておくよ。さあ、サリー、しっかり食べて早く元気になって。ペースト状にしてあるから、食べやすいと思うよ」
ルーカス様が、私の口にスープを運んでくれる。朝は叔母様が、夜はルーカス様がお世話をしてくれる。皆忙しいのに、私の為に時間を作ってくれて、なんだか申し訳ない。とはいえ、こうやって家族にお世話をしてもらえるという事は、こんなに幸せな事だとは思わなかった。
「サリー、なんだか嬉しそうだね。君が嬉しそうだと、僕も嬉しいよ。さあ、もっと食べて。果物もあるよ」
甲斐甲斐しくお世話をしてくれるルーカス様。食事が終わると、私の為に今度は本を持ってきてくれたり、お茶を飲ませてくれたりする。
ルーカス様が部屋に戻った後、使用人たちが丁寧に体を拭いてくれた。
「やっと私たちも、お嬢様に触れられましたわ。朝は奥様が、さっきまではお坊ちゃまが、お嬢様を独占していらっしゃいましたものね」
そう言って笑った使用人たち。
その後叔母様がやって来た。どうやら本当に私と一緒に眠る様で、叔母様と一緒に、簡易のベッドも私の部屋に運ばれたのだ。
「サリー、今日からあなたが元気になるまで、一緒に寝ましょうね。あなたが意識を失っている間は、ずっとルーカスがこの部屋にいたでしょう?だから、あなたの傍にいられなかったの。こうやって一緒に寝られるだなんて、嬉しいわ」
あまりにも嬉しそうな顔をする叔母様を、追い返す事なんてとてもできない。それに、誰かと一緒に寝るだなんて、初めてだ。
せっかくなので、今日は甘えさせてもらう。
それにしても、今日は色々な人が私のお世話をしてくれた。それが無性に嬉しい。これが家族というものなのだろう。
こんな風にお世話してもらえるのは、幸せな事だ。元気になったら、今度は私が皆に恩返しをしよう。そんな事を考えながら、眠りについたのだった。




