第41話:絶対安静だそうです
「お坊ちゃま、診察を行いますので、席を外していただけますでしょうか」
お医者様が、申し訳なさそうに呟いた。
「ルーカス、私たちは一度、席を外そう」
叔父様に連れられ、部屋を出ていくルーカス様。本当に、どうしてしまったのだろう。
「それだけルーカスは、あなたの事をずっと心配していたという事よ。もちろん、私たちや使用人たちもよ。皆あなたが倒れた時、生きた心地がしなかったのだから。もう二度と、あのような事はしないで。
とはいえ、ルーカスを助けてくれてありがとう。サリーがいなかったら、ルーカスはあの日命を落としていたわ。あなたはルーカスの、命の恩人なのよ」
「叔母様、ご心配をおかけしてごめんなさい。先ほどルーカス様にも、怒られてしまいましたわ。私、また無茶をして。自分を大切にすると約束したのに。もう二度と、あのような事はしませんわ。そうそう、意識を失っている時に、夢でお母様に会いました。“サリーを守ってくれて、ありがとう”との事です」
「マリアに夢で会ったのね…そう、マリアがそんな事を。私はお礼を言われる事は、していないわ。むしろ、あんな状況になるまで、サリーを放置してしまった事を申し訳なく思っているくらいなのに…」
「私からも、お礼を言わしてください。あの場所から連れ出してくれて、私を大切にしてくれて、ありがとうございます」
改めてお礼を伝えた。
「サリーったら」
そう言って、私を抱きしめてくれた叔母様。
「あの…そろそろ診察を始めて、よろしいでしょうか?」
お医者様が申し訳なさそうに呟く。
「ごめんなさい、私ったら。すぐに診察をはじめてちょうだい」
叔母様が急いで私から離れた。早速お医者様が、隅々まで検査をしていく。
「…どういうことだ?一体何が起こっているのだ?」
お医者様が急に慌てだしたのだ。一体どうしたのだろう。
「お嬢様、体調はどうですか?酷い頭痛がするとか、息苦しいとか、吐き気がするとか体の異変はありますか?」
「頭痛はほとんどありませんが、頭は少しクラクラしています。息苦しさや吐き気は、特に感じません」
「そうですか…」
「一体何があったの?サリーは大丈夫なの?」
心配そうに叔母様が、お医者様に問いかけている。お医者様の様子から見ると、あまり容態は良くないのかしら?でも、そこまで体への負担は感じないのだが…
「それで、サリーの容態はどうだったのだい?」
叔父様とルーカス様も、部屋に入って来た。
「結論から申しますと、お嬢様の魔力はかなり少ない状態です。この状態で、なぜ目覚められたのか…とにかく、今体を動かすと、非常に危険です。基本的にベッドから出ない様にお願いします。
それから、食べられるものを食べて、眠れるときに眠ってください。いいですね、絶対安静でお願いします」
そう強い口調で言われてしまったのだ。
「ですが先生、私はもうすっかり元気ですわ。それに少しくらい動いても…」
起き上がろうとした瞬間、猛烈な頭痛とめまい、さらに吐き気に襲われた。その上、体が石のように重くて、思う様に動かせない。これは一体、どういう事なの。
「サリー、大丈夫かい?とにかく、医者の言う通りにするんだ。僕が君の世話を、責任を持ってするからね。まずは体力を付けないと。すぐに食べやすい食べ物を持ってきてくれ。サリーは10日間も眠っていたのだから、胃に負担のかからない物を頼む」
ルーカス様が、使用人に指示を出している。
「お気持ちは嬉しいのですが、ルーカス様もあまり顔色がよろしくありません。今までずっと、私の傍にいて下さっていたのですよね。ありがとうございます。もう私は大丈夫ですので、どうかお休みください。
このままでは、ルーカス様まで倒れてしまいますわ」
私の事を気にかけてくれるのは嬉しいが、この10日間ろくに睡眠や食事をしていないと聞く。とにかくルーカス様には、一度休んでもらいたいのだ。
「サリーの言う通りだ。絶対安静とはいえ、サリーは無事目覚めたんだ。とにかく一度、ゆっくり休みなさい。ルーカスまで倒れたら、大変だからね」
「そうよ、あなた、とても顔色が悪いわ。サリーには専属メイドたちが付いているから、大丈夫よ。すぐにルーカスを部屋に連れて行って。それから、ルーカスにも食事をお願い」
叔母様が近くに控えていた使用人に、指示を出した。
「いえ、僕は平気ですから…」
「お坊ちゃま、参りましょう」
「だから、大丈夫だと言っているだろう。サリーの世話は、僕がするんだ。放してくれ」
そう叫びながら、ルーカス様は護衛に連れていかれたのだった。




