第31話:どうして~ルーカス視点~
「サリー、しっかりして。サリー!」
目の前で口から血を流し、ぐったりと倒れているサリーを、叔母上が必死に抱きかかえ、泣きながら叫んでいる。
サリーが僕に向かって一気に魔力を流し込んだ瞬間、温かく柔らかな光に包まれた。それと同時に、焼ける様な体中の痛みも苦しさも、嘘のようにスーッと引いたのだ。
「サリー…どうして?どうして僕の為に…」
泣き叫んでいる叔母上からサリーを取り上げ、抱きしめた。温かくて柔らかい、僕よりもずっと小さな体で、今までどれほどの苦痛を味わってきたのだろう。
「ごめん…サリー。僕のせいで…やっとこれから、幸せになれるって喜んでいただろう?それなのに、どうしてこんな事を。これから沢山楽しい事が待っていたはずなのに…」
気が付くと涙が溢れていた。こんな風に泣いたのは、いつぶりだろう。あの日以来かもしれない…
「ルーカス、あなたのせいではないわ。それにきっと、サリーなら大丈夫よ」
「そうだ、ルーカス。君は何も気にしなくていいんだ。とにかく、医者に診せよう」
叔父上が医者に視線を送ると、医者がやって来て脈を確認している。
「お嬢様はまだ生きておられます、きっと大丈夫ですよ。治療を行いますので、一度お嬢様のお部屋に運びましょう」
サリーは、生きている。その言葉に、ホッとした。だが、顔は青白く、ぐったりとしているサリーを見たら、不安で押しつぶされそうになる。本当にサリーは、大丈夫なのか?
「ルーカス、サリーを部屋に運んでやろう。君たち、サリーを…」
「サリーは僕が運びますから」
そのままサリーを抱きかかえ、部屋へと連れていく。部屋から出ると、サリーの専属メイドたちが、真っ青な顔をして立っていた。
「お嬢様、どうして…」
ポツリと呟く専属メイドたち。彼女たちの目からは、涙が光っている。サリーが自国から連れてきた大切な家族だと、叔母上が言っていた。彼女たちにとっても、サリーは大切な存在なのだろう。きっと主と使用人という枠を超えた強い絆で結ばれている。
彼女たちも、こんな主の姿なんて見たくなかっただろう。全て僕のせいだ…
「ルーカス、早くサリーを部屋に連れて行こう」
僕がその場から動かなかったからか、叔父上に促された。そうだ、今はサリーだ。急いでサリーの部屋に運び、ベッドに寝かせた。
「一旦旦那様とお坊ちゃまは、部屋から出て下さい。今からお嬢様の容態を、詳しく確認しますので」
そう言われ、部屋から追い出されてしまった。
「叔父上…僕のせいで…」
「ルーカスのせいではない。サリーは自ら自分の意思で、君に魔力を提供したんだ。それに…一番悪いのは私達だ。ルーカスが昔から魔力が欠乏している事を知っていたのに、手を打たなかったから…」
「叔父上たちのせいではありません。叔父上と叔母上は、僕に魔力を提供してくれる令嬢を、必死に探してくださっていたではありませんか。それに高価な薬まで、手配してくれて。そもそも僕が、不安定な魔力で生まれてきたのが悪いのです」
「そんな事はない!とにかくルーカスのせいではない。それにきっと、サリーは大丈夫だ。あんなに優しい子が、命を落とす訳がない。そんな事、きっと神様が許さない。だからルーカス、どうかもう、自分を責めないでくれ」
そう言うと、僕にほほ笑んだ叔父上。瞳には涙がにじんでいる。叔父上の言う通り、こんなに優しくていい子が、命を落とす訳がない。きっと大丈夫だ。
でも…もしサリーが命を落としたら、僕は…
その時だった。
「お待たせいたしました。どうぞお入りください」
医者から部屋に入ってもいいとの許可が下り、叔父上と一緒に入る。
「それで、サリーの容態はどうなんだ?」
叔父上が医師に迫っている。僕も医師の傍に駆け寄った。
不安で押しつぶされそうになるのを、必死に耐えながら。




