第27話:公爵家にも随分慣れてきましたが…
「お嬢様、今日もとてもいい天気ですね。今日もこちらでお茶にしますか?」
「ええ、そうするわ。お茶とお菓子を準備してくれる?」
「かしこまりました」
マレリス王国に来てから、早1ヶ月、すっかり公爵家での生活にも慣れた。無事叔父様と叔母様との養子縁組も受理され、私は晴れて、2人の子供になったのだ。叔父様や叔母様、ルーカス様も私の事を気にかけて下さり、毎日楽しく過ごしている。
そして私の一番お気に入りの場所は、中庭の一角にあるバラ園だ。特に青色のバラが植えてあるこの一角が、大好きなのだ。
叔母様曰く、青バラはお母様が大好きだったそうで、お母様を思って作った一角なのだとか。
“あなたはやっぱりマリアの子ね。青バラが好きだなんて”
そう言って笑っていた。どうやら私とお母様は、好みも似ている様だ。使用人が入れてくれたお茶を飲みながら、本を手に取った時だった。
「またここに来ていたのかい?君は青バラ園が、相変わらず大好きだね」
私の元にやって来たのは、ルーカス様だ。こうやって私がここでお茶をしていると、よく様子を見に来てくれるのだ。
「はい、この場所が一番好きなので。ルーカス様も、どうぞお座りください。お茶とお菓子もありますので」
「ああ、そうさせてもらうよ。それで、今日は何の本を読んでいるのだい?」
「はい、今日はマレリス王国で今、流行している恋愛小説を読んでおりますの。男爵令嬢と王太子殿下の身分差の恋をテーマにしたお話ですわ」
「男爵令嬢と王太子殿下の恋だって?あり得ないね、そもそも男爵令嬢が王太子殿下と出会う機会などないのだから…本当に令嬢とは、ありもしない話が好きなのだね」
あきれ顔のルーカス様。
「あら、あながちあり得ない話ではありませんわ。確かマルセレオン王国では、王太子殿下が男爵令嬢を愛してしまったらしく、王太子の座を捨てて男爵令嬢と結婚したと聞いたことがありますし。
それにしても好きな女性の為に、己の地位をも捨てられるだなんて、よほどその女性の事を愛していらしたのでしょうね」
私はずっと尽くしていたにもかかわらず、用がなくなった途端捨てられた女だ。よほど私に魅力がなかったのだろう…また嫌な事を思い出してしまった。もう過去の事は考えない様にしていたのに…
「マルセレオン王国の件は置いておいても、我が国では考えられない事だ。王族が接触できるのは、侯爵以上の女性と決まっているからね。
今の王太子殿下の奥様も、レスティー公爵家の令嬢だし。とはいえ、令嬢とはこういったあり得ない話を好む傾向にあるのだね。僕はあまり令嬢とは関わった事がないから、参考になるよ」
ルーカス様が、顎に手を当てて考えている。お顔も美しく性格も優しいルーカス様が、令嬢とあまり関りがないだなんて。
「ルーカス様はお顔も整っているうえ、とてもお優しいのに、令嬢とはあまり関わらないのですか?」
どう見ても、とてもモテそうだ。令嬢たちが放っておかなさそうなのに。もしかしてこの国の令嬢たちは、少し変わっていらっしゃるのかしら?
「正直猛獣の様な令嬢たちが、苦手でね…」
「猛獣?」
一体どういう意味だろう。
「君の様な大人しくて穏やかな女性には、理解できないよね。正直君をこの国の夜会には、あまり連れて行きたくないな…この国の貴族令嬢たちは、結構我が儘な子が多くてね。それに強引でこちらの都合など気にせず、グイグイ押して来るんだよ」
そう言うと、ルーカス様が遠くを見つめた。よくわからないが、ルーカス様も色々と苦労している様だ。
私も夜会やお茶会には、あまりいい思い出はない。常に魔力不足だったせいか、皆から気持ち悪がられていたし。陰で悪口も沢山言われた。
「君も夜会は苦手なのかい?今、ものすごく複雑そうな顔をしていたよね。君、すぐに顔に出るから」
「私、そんなに顔に出ていますか?確かに夜会やお茶会には、あまり良い思い出がなくて…」
「そうだったのだね。とはいえ、君はこの国でもかなり権力を持ったグラッサム公爵家の養女だ。このままお披露目をしない訳にはいかないからね。だが…お披露目は君がもう少しこの国になれてからにしてもらえる様に、叔父上と叔母上には頼んでおくよ」
「それは本当ですか?ありがとうございます」
本当を言うと、この国の貴族たちに会うのが怖い。私はずっと、嫌われ者だったから…とはいえ、この家の養女になった以上、お披露目は必須。その覚悟は出来ているが…もう少しだけこのお屋敷で、誰の目も気にせずゆっくりしたい。そう思っている。




