第20話:マレリス王国に向かいます
「サリー、裁判所から養子縁組の正式な書類を受け取ったわ。さあ、マレリス王国に帰りましょう」
ホテル暮らし4日目の朝、叔母様が嬉しそうに、養子縁組の紙を見せてきたのだ。
「これで私も、叔母様と叔父様の正式な娘になったのですね。なんだか嬉しいですわ。叔父様やお義兄様は、私を受け入れて下さるかしら?」
どうやら叔父様と叔母様には、子供がいないらしい。ただ、叔父様のお姉様の息子を、養子として迎え入れているとのこと。ちなみに叔父様のお姉様夫婦は、既に他界しており、私より1歳年上のルーカス様という方らしい。
ご両親を亡くされ、叔父様と叔母様の愛情をうけて育ってきたルーカス様。急に叔母様の姪でもある私が家族として現れたら、嫌な思いをしないかしら?正直不安なのだ。
「私の夫もルーカスも、あなたが来ることを楽しみにしているのよ。だからあなたが、心配する事は何もないの。それにもう、あなたは私達の子供なのだから、大きな顔をして過ごせばいいのよ。
さあ、港に向かいましょう」
マレリス王国は、船で丸2日かかるのだ。船に乗るのは初めて、なんだかワクワクしてきた。
この3日の間、随分ゆっくり過ごさせてもらった。使用人たちに毎日ピカピカに磨かれ、さらにオイルを使ったマッサージもうけた。髪もたっぷりオイルを塗ってもらったお陰か、随分サラサラになった。これでもかというくらい、睡眠もとった。
今日も叔母様が準備してくれたドレスに着替えて、ホテルを後にする。外は雲一つない青空が広がっている。まるで私の門出を、お祝いしてくれている様だ。
港までは馬車で3時間。途中昼食をとりながら、馬車はどんどん進んでいく。そして…やっと港が見えてきた。近くには大きな船も停まっている。
「あら?あの子たちは…」
ずっと私を支えてくれた専属メイドと、その隣には王妃殿下の姿も。わざわざ私を見送りに来てくれたのだろう。
「王妃殿下、それにあなた達、見送りに来てくれたのね」
「サリーちゃん、随分と顔色が良くなったわね。良かったわ。ついにこの国を出て行ってしまうのね。ジョージの件、本当にごめんなさい。この国から、あなたの幸せを願っているわ」
「もうその件は、気にしないで下さい。どうか王妃殿下も、心穏やかにお過ごしください」
「あら、マーガレット、あなたも来てくれたのね。それにあなた達も。今日からまたサリーの事を、よろしく頼むわね」
「「「「はい、かしこまりました、奥様」」」」
「えっ…あなた達、王宮でお世話になるのではなくって?だって…」
「この子達は皆、サリーと一緒にマレリス王国に来てくれるのよ。家族も一緒に」
なんと!皆来てくれるだなんて、こんなに嬉しい事はない。でも…
「あなた達、無理をしているのではなくって?私の事は気にしなくてもいいのよ。どうか自分の事を、考えて」
私の為に、こんな重大な事を簡単に決めていいはずはない。異国での生活は、きっと大変だろう。そう思ったのだが…
「私たちはずっと、お嬢様のお傍にいたいのです。ですから、私たちをどうか、マレリス王国に連れて行ってください」
「夫も一緒に、雇って下さるそうで。それに私たちの為に、住む場所も準備してくださっているとの事ですし、心配はいりません」
「私、実はマレリス王国に興味があったのです。お嬢様のお陰で、マレリス王国に行けるだなんて、嬉しいですわ」
「あなた達…ありがとう。それじゃあ、これからもよろしくね」
「「「「はい、もちろんです」」」」
まさか私の専属メイド全員が、ついてきてくれるだなんて。
「さあ、そろそろ船に乗りましょう。マーガレット、あなたも元気でね。それから頭に血が上って、あなたに酷い事を言ってごめんなさい。私の悪い癖ね」
「そんな事は気にしないで。あなたが怒るのも、無理はないわ…きっとマリアも、私に失望しているでしょうね。大切なサリーちゃんを、守れなかったのだから…」
悲しそうに呟く王妃殿下。
「何をおっしゃっているのですか。王妃殿下はずっと、私に優しくしてくださったではありませんか。私、王妃殿下の事が大好きですわ。またいつでも、マレリス王国に遊びに来てくださいね」
王妃殿下のお陰で、人の温もりを知れた。王妃殿下はずっと、お母様みたいな存在だったのだ。
「ありがとう、サリーちゃん。どうかマレリス王国で、幸せになってちょうだいね」
「はい、もちろんですわ。私、絶対に幸せになってみせます」




