第11話:公爵家を後にします
「叔母様、荷物をまとめたいので、少しお待ちいただけますか?」
「ええ、もちろん構わないけれど、あなたの荷物は明日にでも使用人に運ばせるから、無理に荷づくりをする必要はないわよ。ただ…どうしても持って行きたいものがあるわよね」
「ありがとうございます、すぐにまとめますね」
急いで必要な物を、カバンにまとめていく。とはいえ、私が大切にしているものなど、数えるほどしかないが…
「お待たせいたしました、さあ、参りましょう」
「まあ、もういいの?それじゃあ、行きましょうか」
叔母様が私の手を握ってくれた。温かくて柔らかい…
「可哀そうに…こんなにやせ細って…」
ポツリと呟いた叔母様。こんな風に、私を心配してくれる人がいる。それだけで、とても嬉しいのだ。まさか血のつながった人が、こんな風に私を思ってくれるだなんて。
屋敷の外に出ると、馬車が停まっていた。
「サリーちゃん、今まで辛い思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。きっと天国のマリアも、私の事を恨んでいるわね。
あなたは今まで、自分の幸せよりも他人の幸せを願ってきた。でもね、どうかこれからは、自分の幸せだけを考えて生きていってほしいの。
きっと亡くなったあなたのお母さんも、誰よりもそれを望んでいるから」
「ありがとうございます、王妃殿下。ずっと孤独だった私に、優しく接してくださった王妃殿下の事を、決して忘れません。今まで私の事を大切に思って下さり、本当にありがとうございます。
どうかジョージ様の件で、ご自分を責めないで下さい。王妃殿下には、いつも笑っていてほしいので」
「サリーちゃん、あなたって子は」
泣きながら私を抱きしめてくれる王妃殿下。家族にも疎まれていた私に、優しく接してくれた王妃殿下。きっともう、王妃殿下と会う事もないかもしれない。だからこそ今、自分の素直な気持ちが伝えられてよかった。
ふと後ろで俯いているお父様の姿が目に入って来た。
「お父様、ずっと私の事を恨みながらも、15年もの間育てていただき、ありがとうございました。お父様の願いを叶えられずに、申し訳ございません。どうかお元気で」
最後にお父様にも挨拶をする。きっと私の挨拶など、鬱陶しいだけだろう。私を殺したいほど憎んでいるのだから。それでも、最後くらいきちんと挨拶をしたかったのだ。
「…サリー…私は…」
「さあ、サリー、行きましょう。マーガレットも元気でね。それじゃあ」
「王妃殿下、今まで本当にありがとうございました」
再び王妃殿下に挨拶をして、馬車に乗り込む。
ゆっくりと馬車が走り出した。王妃殿下が手を振ってくれているので、私も手を振り返した。
どんどんと小さくなっていく公爵家。15年間暮らした、私の家。この15年、辛い事も多かった。お父様やお兄様からは疎まれ、生まれて来た事を申し訳なく思った事も何度もあった。
母を殺したのだから、家族に疎まれ冷遇されても当然だと諦めていた。それでも使用人たちだけは、いつも私に優しくしてくれた。彼女たちの愛情があったからこそ、ここで生きてこられたのだろう。
まさかこんな形で、この屋敷を去る事になるとは夢にも思わなかった。
それでも今日、私はこのお屋敷を去るのだ。
今まではいつも、誰かの顔色をうかがって生きてきた。ジョージ様の幸せを願い、激痛の中魔力提供にも耐えてきた。
ずっと自分を犠牲にして来たのかもしれない…でもそれも、今日でおしまいだ。
王妃殿下がおっしゃってくれた“どうか自分の幸せだけを考えて”この言葉を胸に、マレリス王国で生きていきたい。
その為にも私は、生まれ変わりたい。これからは新しいサリーとして、生きて行こう。そう決意したのだった。
次回、アマリリス視点です。
よろしくお願いします。




