第106話:未練はあるが…~ジョージ視点~
どうやら娘可愛さに、ファッショレ侯爵夫人が裏で動いていた様なのだ。まず、メリンダ嬢によく似た替え玉を準備し、北の修道院に向かう途中で、メリンダ嬢とその女を入れ替え、メリンダ嬢は隣国、ソレイユ王国に向かう手配をしていたとの事。
だがメリンダ嬢は、その手配を無視し、母親から与えられた莫大なお金を持って、マレリス王国にやって来た。
そこで出会ったのが、王宮騎士として働いている男だった。どうやらメリンダ嬢は、王宮で働くために、王宮騎士と交流を持とうと必死だったようだ。そしてあの女に引っかかった哀れな男は、メリンダ嬢の美しさと体にすっかり魅了され、彼女の言われるままに彼女を王宮使用人として推薦した。
とはいえ、本来他国から逃げてきたメリンダ嬢には、しっかりとした身分がない。そこでメイド長を買収して、メイドとして雇ってもらったらしい。
さらにあの女は、魔術についても勉強しており、裏社会の人間とも関係を持っていた様だ。あの女が潜伏していた部屋からは、僕やサリーに対する恨みつらみが書かれた日記も見つかった。
特にサリーについての恨みはすさまじく、サリーを亡き者にするために、必死にあの魔法を覚えていた様だ。メリンダ嬢が残していた日記には、その旨が残されていた。
最後に書かれていた文字は、動物の血で書いたようで、それを見た人間は皆、背筋が凍る思いをしたくらいだ。
あれほどまでにサリーを恨んでいた理由が、正直よくわからない。だがあの女は、侯爵家の身分も僕も、時期王妃の座も、全てサリーのせいで奪われたと考えていた様だ。
完全な誤解兼逆恨みから、サリーはあんな目に遭ってしまったのだ。とはいえ、僕がメリンダ嬢なんかに手を出さなければ、サリーはあんな目に遭う事もなかった。そう考えると、僕の責任でもあるのだろう。
全ての全貌が明らかになり、メリンダ嬢に関係していた人間は皆処罰された。ファッショレ侯爵夫人は離縁され、彼女もまたメリンダ嬢が入る予定になっていた修道院に今お世話になっている。
メリンダ嬢と関係を持っていたこの国の王宮騎士も、メイド長も逮捕され、裁判待ちとの事。さらにメリンダ嬢に協力していた裏社会の人間も、次々と逮捕された。
こうしてメリンダ嬢の襲撃事件は、幕を下ろしたのだった。
「ジョージ、そろそろ準備をしなさい」
「ええ、分かっていますよ」
そして今日、1ヶ月以上お世話になったこの国ともお別れの日。正直まだ、サリーの事は、諦めきれていない。だが、僕のせいでサリーを危険な目に遭わせてしまったのだ。それに何よりも、サリーがこの国に残り、ルーカス殿と共に生きる事を決めたのだ。
もう諦めるしかない。分かってはいるが、心が付いていかないのだ。
それでも全ての準備を整え、部屋から出た。そして馬車乗り場へと向かう。ついにこの王宮ともお別れか…なんだか寂しいな…
そんな事を考えながら、馬車乗り場へと向かった。
「皆様、お見送りありがとうございます。王太子殿下には今回の件で、本当にお世話になりました。あなたにはなんと感謝すればよいか」
「それはこちらも同じです。今回の事件で、王宮使用人たちの悪事を暴く事も出来ましたし、闇の組織の人間も捕まえる事が出来ました。ジョージ殿下には、感謝しております。どうかこれからも、貿易のパートナーとしてより良い関係を気付いていけたらと思っております」
「もちろんです、これからもよろしくお願いします」
ガッチリと握手を交わした。
「それでは私共はこれで」
母上と一緒に、馬車に乗り込もうとした時だった。




