第100話:お父様が…
「サリー様の出血量が酷い。早速始めましょう。ローレティエン公爵、失礼いたします」
お医者様がお父様と私の腕に針を刺した。チューブからお父様の血が、私に入って来る。それと同時に、お父様が私に治癒魔法をかけ始めたのだ。みるみる傷口は塞がっていくが、それと同時に、お父様の顔色がどんどん悪くなっていく。
「お父様…どうかもうお止めください。傷口は…塞がりましたから…」
お願い、これ以上続けたら、お父様が本当に死んでしまう。
「いいや…まだだ…まだサリーが、苦しそうだ」
次の瞬間、お父様が吐血したのだ。このままだと本当にお父様のお命が。
「ローレティエン公爵、これ以上は、あなたのお命が」
「私の命など…私は今まで…父親として何もしてやれないどころか…サリーを沢山傷つけ苦しめた…せめて最期ぐらいは…サリーの為に…サリー、私の大切な娘…どうか幸せに…」
にっこりとほほ笑んだお父様が、そのまま倒れ込む。
「お父様!しっかりしてください!嫌です、このままお別れだなんて。お願い、死なないで…」
ぐったりと倒れ込むお父様、嫌よ、こんな形でお別れだなんて…お願い、お母様、お父様を連れて行かないで。
お願い!!お父様に向かって治癒魔法をかけようとした時だった。
「サリー、ダメだ。君はまだ体調が万全ではない。僕が治癒魔法を」
私の動きを遮り、ルーカス様が治癒魔法をかけ始めたのだ。既に私に治癒魔法を使っていたルーカス様の息も上がっている。
「あなた達、何をしているの?すぐにお義兄様の治療を!お義兄様、あなたさっき、サリーには幸せになってほしいと言ったでしょう。それなのに、あなたが命を落としたら、サリーがまた悲しむわ」
「そうよ、しっかりしてちょうだい」
叔母様と王妃殿下も、治癒魔法に加わる。
「私たちも出来る事をしよう」
さらに叔父様や王太子殿下、ジョージ殿下までも治癒魔法をかけ始めたのだ。
「だめです、全く治癒魔法が効きません。これが呪いの魔力の力なのでしょう。ローレティエン公爵は、サリー様を助ける代わりに自らのお命を…」
「そんな…嫌です、お父様。私、まだ何一つ親孝行ができておりませんわ。せっかくすれ違っていた気持ちが通じ合ったのに。この場でお別れなんて。お願い、目を覚ましてください」
まだふらつく体で、必死に治癒魔法をかけようとする。
「いけません、サリー様。せっかく公爵が、命を懸けであなた様を助けたのです。どうかローレティエン公爵の思いを、無駄にしないで下さい」
お父様が命を懸けて私を救ってくれた。私のせいで、お父様が…
“サリー、もう泣かないで。大丈夫よ、あの人は私が何とかするから”
この声は…
その時だった。
お父様の体が、光に包まれたのだ。温かくて柔らかな、そしてどこか懐かしい光。
「一体何が起こったのだ?この光は…」
皆が呆然とする中
お父様の瞼が、ゆっくりと上がった。
「お父様!!」
目覚めたばかりのお父様に抱き着いた。良かった、お父様が目覚めてくれて。
「サリー?すまない、また君を泣かせてしまったね…マリアが…私を助けてくれたみたいだ」
「お母様がですか?」
確かにお父様が光に包まれる寸前、お母様の声が聞こえた気がした。やはりあの光は、お母様が。
「何も話してはくれなかったが、にっこりとほほ笑んでいた。サリーだけでなくマリアまで傷つけた私を、マリアは許してくれたのかな?」
ポツリとお父様が呟いた。
「お母様はきっと、とっくの昔にお父様を許していると思いますわ。お父様と私の関係が改善する事を、きっと望んでいたのだと思います。お父様、命を懸けて助けて下さり、ありがとうございます」
溢れる涙を止める事が出来ずに、泣きながらお父様にお礼を言った。




