EP.4-Side.R カロッツェリア
ライトたちが昼食を摂っている間に、受付で期間が長めの討伐依頼を適当にいくつか受注しておいた。その際、ハーミットから定期連絡用の新しい通信魔導具を渡されたが、当時のはもう使えないとのことだ。昔のは好きにしていいと言われた。
その後、ライトたちと合流して商業地区に向かうことになった。
「なぁルイ。これから商業地区に向かうけれど、お前に見せたいものがあるんだよ。」
「……んぁ?……何だ唐突に……見せたいもの……?」
ライトに見せたいものがあると言われて、とっさに警戒する。こう言われていたずらじゃなかった記憶がない。
「昔いたずらしたことは謝るからそんなに警戒しないでよ。流石にもうそこまで子供じゃないよ。それに変なものじゃないし、もうすぐ来る。」
「……ほう……?」
本気で申し訳なく思っているようなので警戒を解く。
「シャルドさん商業地区への路線はたしかストラーダ工房だったよね?」
路線?
「うん。そうだよ。」
「……もしかして魔導車か……?」
「え?なんで知ってるの?」
ライトが俺の反応に驚いている。
「……そりゃあ……歩いてギルドまで来たんだから目にもする……」
多分、俺がこの世界に居なかった間に登場した魔導車を見せて驚かせたかったのだろう。すごくがっかりしている。少し悪いことをしたような気がする。
「あ、来たよ」
シャルドが乗合魔導車を指さす。そこには昔別の世界で目にした真っ赤な2階建てのバスが走ってきた。
「……ロンドンの二階建てバスだ……8年で進み過ぎでは……?」
驚いた……が、よくよく考えれば、他の魔導車もずいぶんと洗練されたデザインをしているんだ。容易に予想できた範囲だったはずだ。
「ルイ?ロンドンとバスって何?」
「……あぁ……口に出てたか?……気にするなこっちの話だ……」
説明するのも面倒なのではぐらかす。ライトに促されて2階の席に座る。ラルクは基本的に高所が苦手なので1階に避難している。
「私も気になります。さっきのルイさんはストラーダ工房の車体を見て、口をついて出ていました。魔導車に何かしらの関心があるとお見受けします!」
セレナの圧がすごい。余程知りたいみたいだ。
「……なんでそんなに知りたいんだ……」
「それは私がカロッツェリアの娘だからです!」
キラキラした目でそう断言する。いや知らんが。
……いや待て今なんとなく聞き覚えがある単語だったか?
「……ただ別の世界で……同じようなデザインの車体を見たことあっただけだ……にしてもカロッツェリア……?」
簡単に口に出した理由を説明して、聞き覚えのあったカロッツェリアという家名を、記憶の引き出しから探し出す。
「……カロッツェリア……カロッツェリア……あー、ソレイユの所か……9年前指名依頼を受けたな……宝石を体に蓄えるドレイク……ジェムコレクター……それの変異種であるマギジェムコレクターが溜め込んだ魔石の採集依頼……何度も同じ依頼だったから覚えている……」
プラチナ級冒険者指定の依頼だったから、当時空いていた俺が受けたのが出会いだったな。2回目以降は指名依頼になっていた。あんな高純度な魔石、どんな魔導具に必要だったんだか。
「…………ソレイユも頭痛に襲われてそうだな……」
そう思うと流石に不憫に思えてきた。
「父を知っているんですか!?って言うかあの魔石を採ってきたのルイさんだったんですか!?」
セレナが驚愕している。
「……あぁ……何を作ってたのかは知らないが……定期的に受けていたぞ……」
珍しいドレイクだから、体外に露出している分だけ取って本体を討伐すんなっていうんだ。強いモンスターだから手加減が難しかったなぁ。文句を言ってやりたいが、セレナに言っても八つ当たりにしかならないからやめておく。
「実はカロッツェリアが魔導車……もといその心臓部分、魔石による内燃機関を開発したのです。と言っても9年前ですと、他国の工房から外洋船用の蒸気機関を仕入れて小型化を試していた頃ですね。」
そう言えば海洋国家には蒸気船を持った国があったな。
「……なるほどな……それであれだけの魔石を欲していたのか……まぁ成果が出て何よりだ……」
金払いも良かったし、流石に口を噤むか。
「ねぇねぇルイさん。ギルドの時から思っていたのだけれど、ずっと背負ってるそのやたらと大きいケースは一体?」
シャルドにライノサラスのキャリングケースについて訊かれた。他の面々も興味津々といった面持ちだ。
「……ん?……俺の武器のキャリングケースだ……あと俺も同い年だから敬語も敬称も不要だ……」
「ルイさんの武器……すごく気になる……」
セレナが特に興味を持っている。なんというか師匠に似てるな。女性で武器に強い興味を持つ辺りとかまさに。まぁ師匠は物騒な見た目の新しい物全般を好んでいたが……
「……説明が難しいな……端的に言えば魔導具だ……機会があれば見せてやる……」
そう答えると皆諦めてくれた。ここで広げるには少しばかり狭いし助かった。
「ねぇ、ちょっと気になったんだけど、ルイがあの魔法と契約したのってなんで?さっきの話を聞く限り師匠は契約を拒否しそうだけど……」
確かにライトの言う通り、師匠なら俺に契約を持ちかけたりなんてしない。それならばどうやって契約したのか、疑問に思うのも当然だ。
そこで昔話をしてやることにした。
――
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――――――
俺が産まれた世界では魔力を持っている人間を魔女と称して処刑して回っていた。
そして俺はある時、魔力を持っていることがバレて逆さ吊りに貼り付けにされ火炙りにされた。
「にぃに……ゴホッ……熱いよぉ……助けて……にぃに……」
俺は泣きながら優しかった兄に助けを求めた。その肝心の兄は大人達に押さえつけられて何もできなかった。
吊り下げられた俺は、火傷で顔が爛れて、一酸化炭素中毒で酸欠になってきた頃、俺を焼いていた炎が薪ごと消えたんだ。それと同時に苦しさも消えた。
いきなり火が消えた事に俺を囲んでいた魔女狩りの大人達が動揺していると、1人、また1人と事切れていった。間もなくその場にいた大人達全員が地に伏せていた。その中に1人だけ立っている男がいた。白髪にターコイズブルーの瞳を持った男だ。
「全く、これだから無能共は……大丈夫かい?今降ろしてあげるよ。」
男に降ろされた俺は、兄のところへふらふらと駆け寄った。
「にぃに……?にぃに……?」
うつ伏せで動かない兄を焼けて声が出しにくい中で必死に呼んだ。
「君を助けようと頑張ったんだ。寝かせてあげなさいな。」
男にそう促され、俺は兄は疲れて泥のように寝ているんだと判断し、男の方に向き直った。
「……あの……」
「喉が焼けて喋りにくいだろう?無理に喋るな。残念ながら私にはその怪我を治してあげられる力はない。しかし、君を生き永らえさせることは出来る。どうかな?」
藁にも縋る思いで首を縦に振った。
「でも君には話さないといけないことがある。これに納得してくれないと君を助けられない。それは異世界の君を全て居なかったことにしないといけないと言うことだ。それでもいいかな?」
俺はこの時は死にたくない一心で理解せずに頷いてしまった。
男はそれを見て、地面に魔法陣を展開した。
「よし、ではこの魔法陣の中心に立って。」
言われるがまま魔法陣の中心に立つと、魔法陣が淡く光り輝いた。
「はい、契約成立だ。これで君が殺されることは無くなった。じゃあ君の運命を楽しませてもらうよ。」
男はそのままふっと消えていなくなってしまった。
「同類の魔力を感じて来てみれば、ここで一体何があった?忌々しい魔女狩り……の現場みたいだが……皆死んでいる……」
どうしていいかわからずに、寝ているらしい兄の傍らで呆然としていると、背後から女性の声が聞こえた。
「……だれ?」
振り返ると金色の瞳に銀髪ウルフカットの女性が立っていた。
その女性は俺の顔を見て酷く痛々しい表情をした。俺が魔法と契約した人物であることに気づいて近づいてきた。
「君が魔女狩りの被害者か。あの魔法との契約は……この様子だとあの男の仕業か……」
彼女は1人で納得すると、顔に火傷に効くという薬を染み込ませた包帯を巻いてくれた。お礼を言おうとしたら制止された。
「喋りにくいだろう?無理に喋らなくていい。」
彼女は改めて辺りを見回すと、俺の傍らでうつ伏せで倒れている兄に気づいた。首に手を当てるとすぐさま兄を抱えて立ち上がる。
「にぃにを……つれていかないで……」
寝ている兄を連れ去られると思い彼女の足に縋り付いて必死に懇願した。
「君名前は?」
振り払われるでもなくそう聞かれて、俺はルイだと答えた。
「君のお兄ちゃんはもう起きない。だから安らかに眠れるお墓を作ってあげるのよ。」
「にぃには……ねてるだけなの……」
俺の必死の懇願に彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら首を横に振った。
その様子に嘘ではないのだと気づいて、俺は泣き崩れた。
ひとしきり泣いたあと、彼女と共に兄の亡骸を、兄と2人でよく遊んだ近くの廃教会の墓地へ埋めに行った。
「君、私の弟子になりなさい。あの魔法と契約してしまったのであれば、その力をちゃんと使えるようにならないといけない。」
彼女はシエル・シンテックと名乗り、これからは元の姓を捨てて、彼女の姓を名乗るようにと俺に言いつけて、弟子として保護してくれた。
――――――
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――
後で知ったが、あの男はマクスウェルといい、世界を渡る者たちの間で最初の一人と呼ばれているらしい。
世界を渡る者が弟子に世界を渡る魔法の契約をさせる時に、異世界の自分を全て殺すことになると言う話を必ず聞かせるのが慣わしらしいのだが、最初の一人がそうするからだそうな。
「……あの男……マクスウェルには感謝している……ただ……あの時もう死んでいたのに……兄貴は寝ているだけだと嘘を付いたことは……未だに根に持っている……」
「それはルイくんのためじゃない?」
「……それは分かっているが……知った時の絶望感は酷かったんだ……マクスウェルの奴を思い出したら……もう2、3度殴りたくなった……」
憤っているとレオンに声をかけられた。
「話はそれぐらいで。もうついたぞ。」
一階で寝ていたラルクをおんぶして乗合魔導車から降りる。
シャルドが羨ましそうに見ている。こいつは俺じゃないと酷く拗ねて面倒なので渡さない。
降り立った街並みを見ると、昔の面影は全く無く、記憶を頼ることも難しそうだった。
「……8年前から変わりすぎだろ……」
「ここら辺は8年前とは大きく変わったからなぁ。で?ルイどうするの?」
「……防具はまだしも……お前らの武器を俺が見繕うわけにもいかないだろ……」
何が得意かも知らないからな。
「私とシャルちゃんは不要なので考えなくて大丈夫ですよ。」
2人分不要になってしまった。
「……あ、そうだ……ライト……お前はこれだ……お前が暇なときに稽古をつけてやる……」
空間魔法で取り出したハンドガードの付いたブロードソードを投げ渡す。
昔、師匠から受けた修行の1つで、魔力操作を訓練するための特別製のブロードソードだ。剣身が非常に薄く折れやすくされていて、魔力を剣身にムラなく均一に流し込まないとすぐに折れてしまう。
ライトは拵えで勘付いたらしく、慎重に鞘から抜いて確認していた。
「……というわけでレオン……お前の武器だけになったな……何が欲しい?……」
「武器装備よりも俺にもライトと同じ稽古をつけてくれないか!」
意を決したような表情で頼んできた。
「レオン!?悪いことは言わないからやめときなよ!」
ライトは怯えたようにレオンに言う。
「……構わないが……おい……どうするんだ……装備を贈る予定だったのに誰もいらないって……そもそも来る前に言え……」
後で体型に関係ない防具でも贈ってやるか……
「ルイ!俺は欲しいよ!」
「……お前はまずブランクの克服からだ……問題ないと判断すれば欲しい物を買ってやる……」
「約束だからね!」
「分かっている」と答えて、これからどうするのかを考える。
「ルイさん。その、実は私の実家が近いのですけれど、良かったら来ていただけませんか?父にも会わせたいですし。私とシャルちゃんの武器を見てほしいんです。」
セレナが俺に提案する。この顔……下心ありだな。指し詰めついでにライノサラスを見せてくれとかそういう。
「……やることなくなったし……構わないぞ……」
「それと、防御結界を施した広めのテスト場があるので、良かったらそこでルイさんの武器を見せてくれませんか?」
ほらやっぱり。
「……はぁ……仕方ない……ついでにラルクの武器も見せてやる……」
寝ているので巻き込んでやろう。
「……あとレオンのために……ライトの稽古も見せてやろう……」
ライトの顔が歪む。道連れにしようってわけじゃないっての
「……見せずにやらせるわけにいかないだろ……」
「楽しみです!じゃあ向かいましょう!」
◇◇◇◇
カロッツェリア工房 特別テスト場
着いて早々、セレナは武器を取りに工房内に入っていった。
ここに入るは初めてか。ソレイユへの報告のために事務所しか入ったことないからな。
「お待たせしました!シャルちゃん、ついでだから不具合がないか確認しておいて。」
武器の入っているであろう木箱を持ってきたセレナは、長い木箱をシャルドに渡す。
「分かったよセレナ。」
木箱を開けると、中から柄が折りたたまれた物騒な形をした巨大な戦槌斧が出てくる。
「ボクの戦槌斧。ミートチョッパーっていうんだ!」
見た目に違わず名前も物騒だな。
シャルドが柄の先を持って振り上げる動作をすると、魔法により自動で組み上がる。
「これカロッツェリア工房の色じゃないよな。」
レオンの言うカロッツェリアの色とは何だろうか?どういった製品を出してるんだ?
「そりゃあ工房仕事じゃなくて、私の作品ですからね。と言っても、携帯性向上のための折りたたみ機構ぐらいしかギミックないですけど……デザインは100%シャルちゃんの好みです。」
それにしてもこの戦槌斧……
「……師匠が見たら気に入りそうだな……」
「分かる。あの人こういうの絶対好き。」
「……にしても良くできている……魔石が両サイドに埋め込まれているが……これは分割部分の強度を担保するための魔法の燃料だな?……」
おそらくは接合部が外れないように固定する魔法が込められている魔導具武器なのだろう。
「そうです!さすがプラチナ級冒険者のルイさん!」
セレナはとても嬉しそうに戦槌斧の解説をはじめた。
なんでも形状記憶魔法での展開と、その強度を保つための強化魔法の2つを彫り込んであるらしい。
魔導具は門外漢なため、分からないことの方が多かったが、よく凝っている。
続けてセレナの武器を見る事になり、取り出されたそれは、紛れもなくチェーンソーであった。個人が、それも女性が使うには大きすぎるようにも見えるが、身体強化を前提にしているのだろう。
「どうですか!私の愛機!クインテット・ボアート!」
五気筒の小型な星型エンジンが搭載されたチェーンソーを持つセレナはどこか猟奇的にも見える。
「……なんというかセレナも物騒だな……だがモノはいい……起動してみてくれ……」
セレナは嬉しそうに頷き、一度クインテット・ボアートを地面に置いて、エンジンとは逆側に付いているレバーを勢いよく蹴り下げて始動する。チェーンソーと言えば紐を引っ張ってエンジンを掛けるんじゃないのか?
セレナは声を漏らしながら持ち上げるが、身体強化を使っているので苦もなく持ち上げている。セレナが何度かトリガーを引いてエンジンを唸らせると、右側側面で束ねられている五本の排気管のうち、3本から少量の煙が吐き出されている。
「アイドル時や通常時は3気筒で運転してるのですが、セーフティーを解除してからグリップのトリガーを引くと……5気筒全部でドライブするんです!」
綺麗とも言えるような排気煙と火花を撒き散らしながら嬉々としてチェーンソーのエンジンを唸らせている。
「……もしかして……このエンジンは魔法による爆発で……ピストンを動かしているのか?……ロッカーカバーに魔石が取り付けられている……」
しかも5気筒全てにだ。魔石の量産ができているのだろうか。
「はい!魔導車のエンジンも同じ仕組みです。この円状配置は私のオリジナルですけどね。」
「……オリジナル?……」
「そうです。設計からパーツの鋳型まで私だけで作ってます。シャルちゃんのミートチョッパーもそうですよ。」
こんな才能のある娘がいてカロッツェリアは安泰だな。ソレイユも鼻が高いだろう。
「……魔力の供給はどうなってる?……これだけの大物だ……魔力も大量に持っていかれるだろう?……」
「魔導具は使用者の魔力に寄らない物でないといけません。なので魔導車に使っている魔力タンクや、他の持続タイプの魔導具を参考に、魔力タンクのカートリッジを作りました。使い切った魔力タンクへの補充は必要ですが、使用中の使用者の魔力は一切消費しません!」
魔導具に対して独自の美学を持ち合わせているようだ。セレナにライノサラスの整備を頼んでみるか?喜んでやってくれそうだが……流石にこの世界じゃオーパーツか?
「それよりもルイさん……そろそろルイさんの武器を……」
クインテット・ボアートのエンジンを止めて、モジモジとお願いしてくる。
分かったと答えると、
「皆さん!ルイさんが武器を見せてくれるそうですよ!」
皆が集まってきたタイミングでラルクの目が覚めたようだ。よくあんな音の中寝ていられたな。
「おにぃちゃんおはよぉ……」
重い目を擦りながら欠伸をしている。
「……降りれるか?……」
「ふぁい……」
のそのそと背中から降りる。ラルクが降りたので空間魔法で仕舞っていたライノサラスを背中に戻す。
「……よし……」
そのままケースを前に下ろして開く。後ろからの視線が気になるが、ライノサラスを組み立てる。
「……対城塞用特殊ライフル砲・ライノサラス……攻城戦用の魔導具だ……」
両手でライノサラスを抱えて立ち上がる。
「……的はあるか?……」
セレナが木の人形を持って来てくれた
「どこに置きますか?」
テスト場の反対側に置くように指を指す。
「……ちなみに結界はどれぐらいの強度があるんだ?……」
「以前聞いた話だと、上級の攻撃魔法までなら耐えるそうです。」
「……ならまぁ大丈夫か……この距離ならスコープもマウントもいらないな……」
後ろに立たないように警告して、マガジンの複製魔法を起動する。API-T複製。セーフティーを解除するために、魔力を込めながらボルトを操作して薬室にマガジンの弾薬を押し込み、立射の構えで的を狙う。
「……行くぞ……」
合図の後に発砲する。
弾は木偶人形を貫通。衝撃のみで粉々に粉砕して、結界に当たり砕けた。普通の徹甲焼夷曳光弾なので着弾点辺りで若干燃えているが延焼するものもないしすぐに消えるだろ。
「な……なにが……」
皆が何が起きたのか理解できていないようだ。
「ルイ。今後ろに向かって魔力の塊が射出されなかった?」
ライトはよく見ている。機動戦術と同質の技術だと気づいたらしい。
「……あぁ……反動を打ち消すために……圧縮魔力が放出されるようになっている……これがないと……」
ボルトを再び操作して、バックブラスト機能を解除。衝撃に備えるために身体強化を掛けて深く腰を落として引き金を引く。身体強化とコンペンセイターの機能も持つ大型のマズルブレーキで衝撃とマズルジャンプを軽減してもなおライノサラスは大きく跳ね上がる。
「……身体強化をしていてこれだ……まともに使えない……」
痛みでライノサラスを地面に投げ落として座り込み、その場で大の字に倒れ、回復魔法を掛ける。
「なぁ、これ俺も使えるのか?」
質問に対して一言「無理」と答える。ライトが不服な顔をしている。
「……持ち上げてみれば分かる……」
ライトは地面のライノサラスを持ち上げようと奮闘するが、微動だにしなかった。
痛みはまだ引いてはいないが立ち上がりライノサラスを拾い上げる。
「どういう理屈なの?」
ラルクが質問してくる。
「……識別魔法と重力魔法の組み合わせだ……登録された魔力を感知するとめちゃくちゃ軽くなるが……登録されたものではない魔力を感知するとめちゃくちゃ重くなる……」
「僕のインセパラブルと同じってこと?」
頷いて肯定する。
ラルクのインセパラブル。初めて会った時から携行していた二刀一対の魔法武器。HUBの住人はそれぞれ自身に合った魔法武器を持っているらしい。ラルクも物心が付いたときには既に持っていたと言う。
「……さて……そんなラルクのインセパラブルも……みんなに見せてやれ……」
ラルクは「はーい」と言うとぱたぱたと少し離れて、抜刀する。
ラルクが右手の太刀に魔力を込めて、誰もいない方に向けて振り抜くと、白い魔力の斬撃が飛んでいく。斬撃は5mほどで霧散する。
「見せると言っても、僕のインセパラブルはこの程度しか無いよ?」
太刀を鞘に納めながら不思議そうに言うが、セレナは大満足のようだ。
騒いでいると母屋の方からセレナと同じ髪色と瞳をしたオールバックの男が来た。昔より老けたが見覚えがある。ソレイユだ。
「セレナに会わせたい人がいると言われて来たが……」
「お父さん遅いです!」
セレナがソレイユに文句を言っている。
「ようやく仕事に一区切りついたんだからしょうがないだろう?」
ソレイユはセレナを宥める。
「で?セレナの彼氏は誰だい?」
会わせたい人で彼氏を連れてきたと勘違いしたのか。
「かっ!?違いますよ!よく見て!」
「違うのか?……って、よく見ればルイ君ではないか!9年前は本当に世話になった!」
ソレイユが俺に気づいて両手で手を取ってブンブンと振る。
「……老けたなソレイユ……貫禄が出た……」
皮肉交じりに挨拶をしてみた。
「色々大変でね。君もいい青年になったじゃないか。ちょうど良かった。セレナ、申し訳ないがルイ君を借りるよ。彼に話がある。時間がかかるだろうから、お友達を送って来なさい。」
そう言うと俺はソレイユに事務所に連れて行かれた。
◇◇◇◇
カロッツェリア工房 事務所
「……で?……人払いまでして何の話だ?……」
応接用のソファに腰掛けて、出された紅茶を啜りながらソレイユに話を振る。
「ならば早速本題だ。実は先日、王都と同盟国のマリーネンの港街ガレリオンとを繋ぐ街道と、マリーネンの領海内に、そこに生息しているはずのない凶暴な魔物が現れてね。そのせいでマリーネンにキャラバンが足止めをくって動けないんだ。」
生息していない魔物の発生。よくある話だ。
「……わざわざ……俺に話す内容か?……ブロンズでも受けれるような……内容じゃないか……早く処理してほしいなら……商業ギルドの連名で……冒険者ギルドへ依頼を出せばいい……」
「そうする予定だった。君が来なかったらな。娘からシルバー級で登録できたと聞いた。」
「……つまり……指名依頼にして……お前の娘を引率させようって話か?……」
親馬鹿め。
「恥を忍んで君に頼みたい。」
「……はぁ……分かった……ちょっと待ってろ……」
出てくる時に受け取った連絡用の魔導具でハーミットに連絡を取る。
『どうした?ルイ。』
「……相談がある……」
『なんだ?』
「……セレナと俺への指名依頼を……受領してほしい……」
『は?プラチナとシルバーのパーティってことか?』
明らかに驚いた声色が返ってきた。
「……そうだ……依頼そのものは……商業ギルドの連名なんだが……依頼主の1人がセレナの親父でな……実戦を経験させてやりたいみたいで……俺に引率を頼み込んできた……」
『まぁ……お前が入ってるなら商業ギルドも文句は言わないだろ。……よし分かった。そのように処理しよう。』
確かに文句は言いそうではある。
「……じゃあ頼んだ……」
通話を切る。
「……ソレイユ……俺とセレナ二人への指名として依頼を出せ……」
「ありがとう!ルイ君!ついでと言ってはなんだけれど……娘の婿になってくれたりは……」
「……却下だ……馬鹿め……」
「冗談だよ。娘もあの中に意中の男の子がいるみたいだし、娘の好きなようにさせるさ。」
よく見ているもんだな。
「……話はそれだけだな?……」
「あぁ、送るよ。」
「……助かる……冒険者ギルドの宿舎まで頼む……」
ソレイユの魔導車で宿舎まで送ってもらって部屋に戻った。
ソレイユ・カロッツェリア(Soleil Carrozzeria)
身長:175cm
性別:男
種族:ヒューム
金髪碧眼でオールバック。セレナの父で、魔導車の開発者。親馬鹿。
シエル・シンテック(Ciel Shyntech)
身長:155cm
性別:女
種族:ヒューム
金色の瞳に銀髪でウルフカット。ルイとライトの師匠であり、ルイに自らの姓を与えた。武器や魔導具など新しいものが好きで、特に世紀末のような物騒な見た目のものが好き。ルイを逃がすために囮になり魔物の群れに飲み込まれた。
クインテット・ボアート
セレナの武器。大型のチェーンソーで、機関部は五気筒星型魔導エンジンを採用している。魔導具であるため本来ならばスターターなど必要ないが、安全装置を兼ねたキックスターターを搭載している。停止時は物理キルスイッチによる魔力供給の遮断。
通常時は燃費と損耗軽減を優先し三気筒のみが動き、リミッターを解除することにより五気筒全てで駆動する。リミッター解除状態では魔力消費が激しい。
各ブロックのロッカーカバーに燃焼室内に爆発魔法を発生させるための魔石が取り付けられている。各魔石への魔力供給はカートリッジ式の魔力タンクで行う。このため使用者の魔力を必要としない。設計から細部の調整までセレナ一人で行っている。
23x152mmAPI-T
徹甲焼夷曳光弾。飛翔時に緑色の光跡を描き、着弾時に燃焼する徹甲弾。
ライノサラスの弾薬精製魔法
マガジンに施された、マガジン内部に直接弾薬を精製する魔法。指定したエリア内に素材を準備するか、空気中のマナを変換して弾薬を作り出す。ルイの空間魔法に対応するように改良が加えられており、必要な素材を空間魔法に格納しておけば、それらを優先的に消費するようになっている。ルイはそのために素材となる火薬や各種インゴットなどを大量に備蓄している。さらに一度装填して撃つ必要はあるが、魔法弾薬の精製も可能。
世界を渡る者
ルイを含む世界を渡る魔法と契約した者たち。
『最初の一人』と呼ばれるマクスウェルから直接契約した者と、世界を渡る者の師から契約した者がいる。




