EP.3-Side.L 兄弟子の正体
ん……ん?確か試験官さんにぶっ飛ばされて……試験官さんがルイで……気絶して……
「そうだ!ルイ!」
飛び起きて周りを見ると、見知らぬ部屋のベッドの上だった。ベッドの傍らにフードを被った黒ずくめの人物が器用に椅子で睡っている。
気絶する前に見た幻覚じゃないよね……?改めて顔を見たい。そう思ってそっとフードに手を伸ばす。
しかし手がフードに触れる直前に腕を掴まれた。
「……なんだライトか……」
腕が解放され、ルイが顔を上げる。険しい顔をしていたがすぐに柔らかい表情に戻る。
「……もう大丈夫なようだな……」
「今までどこに――「……その話は後だ……良い時間だな……支部長室に行くぞ……」……わかったよ。」
遮られた……でも今の口ぶりはちゃんと話してくれるつもりがある言い方に聞こえた。
◇◇◇◇
支部長室
ここがギルドマスターの部屋なのか。
ルイがノックして扉を開ける。一緒に入ると、中にはデスクの向こう側にハーミット支部長さんとルイーズさん、デスクの手前側にレオン、セレナさん、シャルドさんが居る。
「全員集まっているな。ルイ、遮音魔法を使ってくれ。ギルド命令で話してもらうとはいえ、一応プラチナ級冒険者の情報の扱いは変わらないし、あんまり周りに知られたくもないだろ。」
支部長さんの指示でルイが部屋に遮音魔法を掛けた。その後支部長さんに促されてルイがフードを外す。レオンとセレナさん、シャルドさんが、ルイの顔を見て悲鳴にも似た驚愕の声を上げる。
「改めてお前の出自と正体を教えてもらおう。」
「……まず……信じられないかもしれないが……俺は異世界から来た異世界人だ……10年前に師匠とこの世界に来た……そこからの2年間は知っての通りだが……簡単に説明すると……ライトと修行しながら……冒険者として活動していた……」
皆何か言いたそうにしていたが、支部長さんが先に口を開いた。
「異世界人だと?」
「……そうだ……俺と俺達の師匠は異世界人だ……世界を渡る魔法と言う魔法と契約した……世界を渡る者と言う旅人の一人と言うことになる……」
異世界人だと言うことは聞いていたけれど、こんな話は初めて聞いた……
「……そして8年前にこの世界から……また別の世界に転移した……それから昨日までの8年間はおよそ2年ごとに……様々な世界に転移していた……この世界に帰ってきたのは全くの偶然だ……」
支部長さんが2年間の記憶が無くなっていた原因が異世界へ行ったからなのかと確認する。
「……そうだ……世界を渡る魔法は……その世界から別の世界に転移する時に……転移した者に関する記憶を改ざんしてしまうんだ……そして……その後転移した者が再びその世界に帰ってくると……記憶が復元される……」
それでルイの事を思い出したのか。
「お前を思い出すまでギルドの記録に違和感が無かったのは?まさか物理的に残っている情報すら改ざんされるのか?」
「……情報そのものは改ざんされない……だが記憶改ざんの副次効果で……認識阻害がかかる……」
支部長さんが再び口を開こうとしたその刹那、魔法陣と共に部屋が光に包まれる。
「おにぃちゃぁぁぁん!」
光の中から高い声が聴こえた。光が収まると、ルイに抱きついている茶髪に黒目、獣の耳と尻尾が生えていて、長い髪をポニーテールにまとめたワーウルフの少年がいた。身の丈130cmと言ったところ。ルイと同じようなローブを着て、腰に二振りの刀を携えている。
一瞬迷ったけれど、声的には男の子だ。
支部長さんが取り乱してる。予想外の来客だったのだろう。
「ラルク!?進行中の仕事はどうした!?」
「昨日で終わりましたよ!そんなことよりおにいちゃんが異世界から帰ってきているの、なんで教えてくれなかったんですか!」
ラルクと呼ばれた少年はルイに抱きついたまま、ブンブンと尻尾を振りながら支部長さんに文句を言っている。
「……ルイが異世界人だと知っていたのか?それにルイが異世界に行っていたと何故知っている?」
「僕も異世界人ですし……と言っても僕は世界を渡る者じゃないですけどね。近い存在ですけど。」
支部長さんが声にならないほど驚愕している。
それよりもなんかこの子ルイと親しげというか……そっちの気がある?
ルイが呆れた声色で「あのなぁ」と呟く。
「あの……もしかしてラルク・サイレンさんですか?最年少のプラチナ級冒険者っていう……」
ルイーズさんがおずおずと確認する。ルイに抱きついたままラルクくんはルイーズの方を見る。
「そうですけど……あなたは……?」
「支部長の娘で受付嬢してるルイーズと申します。」
「ん、よろしくお願いします。ところで支部長?この集まりはなんなんです?扉に遮音魔法まで掛けて。」
不機嫌なのが丸わかりな態度で支部長さんを睨む。
「ルイの出自と、俺やライトが記憶を無くしていた原因の話を聞いていたんだが、ちょうど終わったところだ。しかしお前も異世界人とは……」
「ちなみに僕は世界を渡る魔法の影響を受けないので8年間も記憶ありましたよ?」
ラルクくんはドヤ顔で語る。なんか悔しい。ルイが諦めたようにラルクくんの頭を撫でている。
「ところでなんでルイさんにずっと抱きついてるんです?」
セレナさんがやっと突っ込んだ。
「ワーウルフは自分が認めた人に甘える生き物なんです。」
「ね、ねぇ。その子ボクにも撫でさせてくれないかな?」
シャルドさんが手をワキワキさせている。ラルクくんは毛を逆立てて凄く警戒してるようだ。
「……ほらラルク……こいつらは俺の友人だ……ちゃんと自己紹介をしなさい……」
ルイはラルクくんを撫でながら嗜めるように促す。不満そうにしながらもルイの言うことは聞くらしい。ルイからは離れず口を開く。
「ワーウルフのラルク・サイレンです。おにいちゃんと同じくプラチナ級冒険者です。」
それから俺達も自己紹介を済ませた。
「ラルク。どうやってルイが帰ってきたことが分かったんだ?」
確かに、はじめからルイに会うために転移魔法で転移してきたように見えた。
「世界を渡る者や、僕のようなそれに近い存在は、世界を渡る者が世界に現れると感知できるんです。」
理由を説明した後、こちらを睨んで来た。
「ところで……ライトさん。貴方、本当におにいちゃんの弟弟子なんですか?魔力量は目を見張るものがありますけど……魔力量だけ高くても実力がなければ宝の持ち腐れですよ。」
ラルクくんの言葉が胸に刺さる。8年のブランクがあるとは言え、俺が弱いのは紛れもない事実……
「……こらラルク……失礼だろ……撫でてやらんぞ……」
「ご、ごめんなさい!おにいちゃん嫌いにならないで!」
ラルクくんが大きな涙を目に浮かべながら懇願している。
「……謝る相手は俺じゃないだろ……」
「ライトさんごめんなさい……」
流石にルイから離れてラルクくんは深々と頭を下げた。
「……それと皆ともちゃんと仲良くするんだ……いいな?……」
「はい……」
窘められたラルクくんはシュンとしている。ルイは偉いぞと撫でてあげている。
「そう言えば支部長さん、俺達のギルドカードってどうなってるんですか?」
レオンがギルドカードの進捗について確認すると、支部長さんはできていると答え、試験を受けた四人にそれぞれギルドカードが配られた。全員が銀の箔が押しされたギルドカードだ。
「お前たちは全員シルバー級冒険者からだ。ノルマとかはないし、学業もあるだろうから、空いた時にでも依頼を受けに来てくれ。」
でもいきなりシルバー級冒険者としてやっていけるのだろうか?
「……いきなりシルバー級で不安か?……」
心を読まれたらしい。ルイに心配されてしまった。
「そりゃあまぁ、8年のブランクがある訳だからね。」
「……安心しろ……今のままでゴールドでもやっていける……ただゴールド級に上がるには……賊なり指名手配犯なりの逮捕・討伐実績が必要なんだ……」
そんなやり取りをしていると、レオンが手を上げて、口を開く。
「ところで……ちょっと思ってたんですけど、今のルイさんやラルクさんが魔力測定機で測ったらどうなるんです?」
新人の俺達は皆、確かにと頷く。
「……ラルクはまだしも……俺の見ても面白くないぞ……」
その言葉を聴いたラルクくんは、ルイの顔をガン見する。その目は何を言っているんだこいつはと言ったような目だ。
「ルイもラルクもやるか?」
支部長さんが魔力測定機を2つさっと取り出す。なんで支部長室に常備してるんだろう?
ルイが仕方ないとボヤきながら魔力測定機を手に取る。一緒にラルク君にも渡す。
ラルクくんは先に僕がと魔力測定機に魔力を込めると、魔法陣が紫色っぽく光る。しかし光が弱く感じる。
「まだこんなもんかぁ。」
ラルクくんは悔しそうに言うが、光が弱いのはどういうことなんだろうか?
ルイが「次は俺だな」と、魔力を込めたが、魔法陣は光らなかった。
「魔法陣が……光らない?」
「……言っただろう?……俺の見ても面白くないって……」
支部長さんがハッとしたように口を開く。
「そうだ、お前は旧式じゃ魔力を込めてるか判別つかなかったな。」
支部長さんは別の魔力測定機を取り出す。魔法石のような物が付いた物だ。
ルイはそれを受け取り、同じ様に魔力を流した。魔法陣は変わらず光らないが、魔法石のような物が眩く光る。
「このように、魔法陣の許容を超えると、光ってはいるのだが、可視光線じゃなくなってしまう。つまりルイの魔力量はこの魔導具じゃ測れない規格外ってことだな。」
やっぱりルイはすごいんだなぁ。そういえば気になっていたことがある。
「ルイ、師匠はどうしたの?独り立ちして別れたの?」
俺がそう言った瞬間、ルイの表情が暗くなる。
「……その話は……後でいいか?……ここでする話でもないだろう?……」
「シエル殿は俺も知らない仲ではない。話してくれないか?」
支部長さんの言葉にルイが大きく舌打ちをしたのが聞こえた。悪態をつくことは昔もあったが、ここまで強く拒否反応を示すのは珍しい。余程話したくないのか俯き、重い口を開けた。
「……師匠は……死んだ……」
消え入りそうな声で呟く。死んだ……?あの師匠が……?そんな馬鹿な……
「あの人が死んだって……そんな馬鹿なこと……」
「……俺が……殺した……」
振り絞るような声で、らしくない悲痛な表情が、ルイが何かを隠している事を物語っている。分かってはいる。絶対にどうしようもない理由がある。しかし体が勝手にルイの胸ぐらを掴んでいた。
「いったいどういう事だよ!」
「……今言った通りだ……俺が殺したんだ……」
ルイの変わらない主張に咄嗟に壁に突き飛ばしていた。抵抗なんて簡単だろうに。ルイは壁を背にそのまま座り込んだ。
「師匠を殺したって!?お前程度の力で殺せる人かよ!」
「ライト!お前らしくないぞ!落ち着け!」
レオンに羽交い締めにされた。ルイが自分を恨ませようとしてるのは分かってる。だからか思ってたより早く頭が冷えた。
冷静になってきたところで、ルイにくっついていたラルクくんが気になり辺りを探すと、いつの間にかルイを離れ腕を組んで傍観をしていた。巻き込まれていなかったようだ。
むしろ反撃されてたらひとたまりもなかっただろうが……しかしその姿はさっきまでルイに甘えていた姿からは想像できないほど、達観した大人のようなそんな印象を受けた。
「ごめんレオン。ありがとう。……ルイ。俺達、一度だって師匠との手合わせで一本取れたこと無かったよね。全力でやってるのに、片手で捻られてさ。そんな俺達が、罷り間違っても師匠を手に掛けるなんて無理なんだよ。」
ルイから再び舌打ちが聞こえた。今度は拒否反応からというより観念したと言ったような舌打ちだった。
「……この世界から転移した直後だ……転移した先に大量の魔獣が待ち構えていた……剣は通らないし……魔法も効かない……打撃としてのダメージもあったのかすら定かじゃないが……そんな1匹でもとんでもない魔獣の群れだ……師匠が俺を逃がすために囮になって……最期は魔獣の群れに飲まれたのを転移の間際に見た……見殺しにしたんだ……俺が殺したも同然だ……」
ルイは力なく項垂れる。
「……だから会いたくなかったんだ……お前は知らないまま……俺の事も師匠の事も忘れたまま……暮らせるはずだったのに……」
ルイはフードを深く被り直して顔を隠す。
「ルイ……もう一つだけ聞かせて。8年前、どうして何も言わず異世界に行ったんだ。」
思い出した記憶の中でも別れを言われた記憶が無い。つまり何も言わず置いていかれたことになる。
「……あ?……そんなことか……連れて行けないからに決まってるだろ……あの頃のお前なら着いて来たい一心で……世界を渡る魔法と契約しちまうのは予想できたからな……俺も師匠もそれは望んじゃいなかったから何も言わず転移したんだ……」
契約することが何かまずい事なのだろうか?師匠もルイも契約してるのに?
「……世界を渡る魔法との契約とは数え切れないほどの大量殺人だ……」
大量……殺人……?ルイと師匠が……?
「つまりお前は魔法と契約するために大量の殺しをしたっていうのか?」
支部長さんが話に入ってくる。殺しと言う言葉に思うところがあったのだろう。
ルイが言葉を発する前にラルクくんが割って入る。
「ハーミット支部長。そこらへんは僕が話します。僕や世界を渡る者たちが異世界と呼ぶ世界は、たった一つ理の世界である『HUB』を除いた全ての世界が無数のいわゆる『もしも』から生まれたパラレルワールドです。」
ラルクくんは異世界人らしいけれど、ルイたちとは違うと自分で言っていた。それなのにルイたちの魔法に関してなんで詳しいんだろうか?
「異世界がどうとかは俺達には分からないが、異世界がもしもの世界だとして、それが大量殺人と何か関係があるのか?」
そうだ、もしもの世界がどう世界を渡る魔法と関わるのだろうか?
「簡単な話です。世界を渡る魔法と契約すると、契約者の世界以外の無数にあるもしもの世界から全ての同位体……平たく言えば同じ魂を持つ人物を存在したと言う事実諸共消し去るんです。世界を渡る者になった人達は、自分の欲望のために、天文学的数の別の世界の自分を犠牲にしてるんですよ。ねぇ?おにいちゃん?」
詳細に説明してくれる。それが本当なら、ルイや師匠は異世界転移の力を得る代わりに他の自分を消滅させたってことだ。
それにしても、ルイに振った際のラルクくんは甘えていた時の姿からは到底想像できないほど、残虐さを秘めた笑顔だ。
「……そういう事だ……だからお前を置いて行った……」
恐らくこの場にいる誰もが、この意味を理解していない。かく言う俺もいまいちピンと来ていない。
「でも確かにそれなら、師匠とルイの性格なら俺の事を置いていくよね。合点が行ったよ。」
ルイが立ち上がりホコリを払う。
「……この話は終わりだ……ラルクもこれ以上余計な事を喋るんじゃあない……――」
ルイが最後に何やら呟いたが聞き取れなかった。
「……はぁ……辛気臭い話も終わりだ……そんな話より、先輩冒険者としてお前達のシルバー級合格を祝わせてくれ……欲しい武器装備があるなら俺から贈ろう……」
「あ、それなら僕からも!」
ルイが雰囲気を良くしようと提案する。同調したラルクくんは無邪気な笑顔に戻っていた。
「……ハーミット……もういいよな?……」
「あ?あぁ……根掘り葉掘り訊いといてなんだが、大丈夫か?」
「……俺なりに折り合いは付けてる……じゃあ新人共を借りていくぞ……」
ルイに連れられて俺達はそのままギルドを後にした。




