EP.2-Side.R 依頼にて
午後、ハーミットの頼みを指名依頼として正式に発行してもらい、前金を受け取る。
「……ハーミット……まとまった金が入るのは助かるんだが……流石にこんな報酬額受け取れない……ルイーズの友人とはいえ……本来ならシルバー級がやる仕事だろ?……」
ハーミットは気にしないで受け取れと、抗議を聞き入れてくれなかった。
ハーミットと報酬額の話で押し問答していると、扉がノックされる。
「ルイーズです。支部長、入っても?」
入りなさいとハーミットは促す。
「お父様、登録希望の友人が2人増えるのですが、宜しいですか?」
「ルイ、構わないか?」
実技試験の試験官をやるからか俺に伺いを立てる。
「……俺は問題ない……報酬額としては10人規模でも多いぐらいだ……」
「と言うわけだからその二人も一緒でいいぞ。」
ルイーズがパァッと笑顔になる。
「お父様!ルイさん!ありがとうございます!」
深々と頭を下げて足早に部屋を出た。
本当にハーミットの娘なのか確認したらハーミットは奥さんに似たんだと教えてくれた。
「改めて模擬戦闘試験の試験官側の規定を説明するぞ。」
頷いて大人しく説明を聞く。
「試験官に許可されているのは強化魔法のみで、反撃も禁止だ。相手は素人だからな。武器はこのブロードソードを使ってくれ。」
ハンドガードが付いたブロードソードを渡される。訓練用に刃が潰してあるらしい。
「受験者はこちらで用意した中から選んで使用してくる。お前なら問題ないと思うが、上手いこといなしてくれ。」
「……了解した……ところでハーミット……ラルクは元気にしているか?……」
8年前に交流のあった冒険者について訊いてみる。
「ん?ラルクなら頑張ってるぞ。今は護衛依頼でエースコンまで出ている。数日で戻ると思うが……昨日の定期連絡で公爵令嬢に懐かれて困ってるってボヤいてたな。」
エースコン、確か隣国か。
「……なら暫くは安寧を享受できそうだ……」
「アイツがあれだけ懐いてるのお前だけなんだからそう邪険にしてやるなよ。当時よりは落ち着いてるから。」
心底呆れたと言ったような身振りをする。
「……8年も離れていたんだ……落ち着いていてくれなきゃ困る……あと別に邪険にしてるわけじゃない……それで模擬戦闘試験は地下訓練場だよな?……」
「そうだ。4人の魔力測定が終わったら連れて行く。何なら魔力測定の方も来るか?」
待ってる間にやる事があると言ってハーミットの提案を拒否する。
「……それじゃあ……先に行ってる……着いたら合図してくれ……」
地下訓練場に向かう。
◇◇◇◇
地下訓練場
椅子に座ってハーミットと受験者の到着を待つ。暇なのでキャリングケースを開いて、魔法が込められていないミスリルの弾薬と魔法を込めるための魔導具マジックローダーを取り出す。
マジックローダーのキャンバスに世界を渡る魔法の魔法陣を書き込み魔力を流す。魔法陣が変換され、ミスリルの弾頭に彫り込まれていく。30分ほど魔力を流し続けていると、世界を渡る魔法の魔法弾薬が完成する。
全てをキャリングケースに片付けて背負い直す。
それからしばらくうとうとしていたらハーミットの合図があった。
立ち上がり中央付近まで移動して、ブロードソードを抜いて構える。鞘も防具として使わせてもらう。先に身体強化を掛け、待機する。
最初は背の高い男だ。ハンドガードの無いブロードソードを使うらしい。ルイーズの友人だと言うのであれば俺とも同い年ってことか。
ハーミットの開始の合図と同時に踏み込んできて、身体強化もせずに力任せに打ち込んでくる。難なく受け止めいなす。
俺が小柄だから体重を乗せれば押せると考えたのか。何度も打ち込んでくる。動きは悪くないが、まだまだ素人に毛が生えた程度だな。
弾き返して距離を取らせる。受け身は上手いな。
感心していると、受験者がファイアボールを撃ってきた。
身体強化はこちらも許可されてるから受験者も使ってくるとは思っていたが、攻撃魔法もいいとは聴いてないぞ。
ハーミットめ露骨に視線を反らしやがって、説明忘れてたな?
ハーミットを睨みつけながらファイアボールをかき消す。無詠唱に慣れていないのか脆弱な魔法になってしまっている。
その後、ファイアボールを絡めた剣撃を繰り出してくる。しかしこれだけのファイアボールを撃ちながら戦えるとは中々の魔力量だ。
全てをいなしているとハーミットから終了の合図があった。
双方、即座に手を止める。
「ありがとうございました!プラチナ級冒険者の方と手合わせできて光栄です!」
気持ちの良い男だな。もし頼まれたら稽古付けてやっても良いかもな。
次は俺より少し小さい女の子だ。ファルシオンを選んだようだ。
開始の合図で女の子は身体強化を掛けて打ち込んでくる。精度は高いがやはり身体ができていない。あまり強く弾くと怪我をさせかねないので軽くいなす程度にする。
太刀筋を見るにファルシオンが得意な武器というわけではなさそうだが、それでも器用に操っている。
暫くいなしていると、終了の合図があった。
「ありがとうございました!あの後でお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
二つ返事で承諾し、戻るように促す。
次は男なのか女なのか判別が付かないが、ウォーハンマーを握った受験者が名乗りを上げたようだ。ハンマーって実戦用と訓練用に違いあるのか?
開始の合図と同時に身体強化を発動して踏み込んでくる。
打ち込んでくると思いきや足元にアースクエイクを撃ち込んできやがった。しかもこれは回避させることを狙った魔法だ。
いいだろう。乗ってやる。敢えて真後ろに飛び退く。思った通り、跳躍気味にハンマーを振り下ろしてきた。
まともに受け止めたらブロードソードが壊れるので、軌道を逸らすに留める。
戦闘慣れしているのはいいとして、背筋が凍りそうなほど恐ろしい笑顔だ。
高度に練られている身体強化に物を言わせて右へ左へとウォーハンマーが振り回される。
いくらなんでもあれに当たったら吹っ飛ぶ自信があるので回避に専念する。
しかし前の2人もだがこれだけ動けるのは有望な新人じゃないか。すぐにでもゴールド級になれるんじゃないのか?
暫く回避に専念していると終了の合図があった。が、この受験者攻撃の手を止めない。
興奮して聞こえていないようだ。仕方がないのでブロードソードでハンマーをはたき落とす。ハンマーが手から離れたことで正気に戻ったのか、ハッとする。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
受験者が必死に謝る。声は低めだがしっかり女の子だ。ボーイッシュってこういう女性を言うのか。よく見るとオッドアイが綺麗だな。
「……戦いになると興奮して周りが見えなくなるやつは結構いる……気にしなくていい……」
やんわり諭して戻らせる。
最後はフック船長のような義足の……女の子?男にも見えるが……最初の受験者と同じブロードソードを選んで来た。
最後の開始の合図だ。
無詠唱で身体強化を掛けたらしい。いや、身体強化とは違う魔力の流れを感じる。義足に集中している?
ブロードソードを両手で握ったと思った刹那、瞬間移動のような尋常ではない速度で懐に飛び込んで斬り込んできたので、咄嗟に防ぐ。まさかとは思ったが本当にあの戦闘術を使ってくるとは……
しかし今の動きでこいつの正体が分かってしまった。出来れば会いたくなかった。
弾き返して距離を取る。空中で姿勢を整えた奴は着地と同時に再び懐に飛び込んでくる。何度目かの打ち合いの時、声をかけてきた。
「試験官さん。俺、試験官さんとは初対面ですよね?」
答えず、弾き返す。俺の事をかつての兄弟子だと認識できていないようだ。
それにしても、初見殺しの攻撃をバカの一つ覚えのように繰り返す姿に腹が立ってきた。答え合わせついでだ、兄弟子の洗礼を受けてもらおう。
奴が再び飛び込んでこようとするのに合わせて、足裏で圧縮した魔力を爆発させ、奴の動きよりも先に懐に飛び込み、ガラ空きの腹をブロードソードで思い切り殴り抜ける。
奴は吹き飛ばされて地面を転がり、勢いよく壁に激突した。
「反撃は禁止だと言っただろ!やり過ぎだ!」
ハーミットが叫んでいるが、無視をして転がっている奴へ近づく。
「……これがお前の質問の答えだ……ライト……」
奴、ライトの目の前でしゃがみフードを上げて顔を見せる。顔の傷を見れば気づくだろ。
俺の名前を呟き、そのままライトは気を失った。
フードを被り直し、倒れているライトを肩に担ぐ。
「……ハーミット……悪い……これじゃあ契約不履行だ……金を返さないとな……」
「いや、返さなくていい。だがどうしてあんなことを……」
プラチナ級冒険者として褒められない行為なのは分かってるんだがな。
「……すまない……医務室を借りるぞ……」
ルイーズと残りの3人が駆け寄ってくる。
「アンタ!なんでライトに攻撃したんだ!」
最初に試験をした男に胸ぐらを掴まれる。ライトを落とさないように気を付けつつ抵抗はしない。怒って当然だしな。
「そうですよ!優しい方かと思っていたのに!」
2人目の女の子からも抗議される。
「ルイさん……プラチナ級冒険者の貴方がどうして契約違反なんか……」
ルイーズの困惑した表情と震える声に罪悪感を覚える。
「……返す言葉もない……」
「待ってくれ。ルイーズ。今ルイって言ったか?」
男の言葉にルイーズはハッとして口を手で隠す。
「……ルイーズ気にするな……どうせ名乗るつもりだった……改めて……プラチナ級冒険者のルイ・シンテックだ……」
胸ぐらを掴んでいる男の手が緩んだ。
「アンタもしかしてライトの兄弟子だったりするのか……?」
驚いたように男は後退る
「……ライトから聞いたのか……そうこいつの兄弟子だ……先ほどの模擬戦闘試験の動きが……兄弟子として許容できなかった……私情を持ち込んだのは謝る……とにかく話は医務室でさせてもらう……」
◇◇◇◇
医務室
ライトをベッドに寝かせた所でハーミットが真っ先に口を開いた。
「改めて訊くが、どうしてライトに反撃したんだ。禁止と言っておいたのにお前らしくもない。」
怒るよりも困惑が勝っている様子が表情から見て取れる。
「……先ほども言ったが……兄弟子としての私情を挟んだ……前金を返さなくていいと言うのなら……残りの報酬は辞退させてもらう……問題があるならプラチナ級の資格の剥奪も甘んじて受ける……」
ライトに回復魔法を掛けながら提案するが、ハーミットに拒否された。
「ルイさん、ライトの何が問題だったんですか?とても凄い技術を持っていたのに……」
「……あの戦闘技術を思い出してすぐに……ぶっつけでできた事は認めるが……ライトがやったのは初見殺しの攻撃だ……1撃目が対応されたら……同じ事をしても2撃目はまず入らない……工夫をすることを忘れたら死ぬのは自分だ……忘れていたとは言え……師匠の教えを守れないのは……兄弟子として見過ごすことはできない……」
「終わってから叱るでも良かったのでは?」
ルイーズに指摘された。
「……それもそうなんだが……私情を優先した……こいつは身体に叩き込んでやらないと覚えが悪いからな……」
「ち、ちょっと待ってくれ。ルイ……さん!なんでライトに記憶が無かったことを知っているんだ!?」
おっと、口が滑った。
「言われてみればそうだ、ルイ。なんで俺やライトがお前のことを忘れていたことを知っている?」
あーもう。説明しなくちゃいけないよなぁこれ。
「ルイ、『ギルド命令』だ。全てを話せ。プラチナ級冒険者になった時に説明したはずだ。」
「お父様!?」
ギルド命令は絶対。拒否は許されない。ことプラチナ級冒険者は一癖も二癖もある連中が多いからな。それらを束ねる為の決まり事だ。
「……分かった……支部長……どこからどこまで説明すればいい?……」
ギルド命令と言われては話すしかない。
「全てと言いたいが、お前の出自と俺やライトの記憶が無かった理由だ。」
だがその話をするのであれば……
「……ライトが起きてからでもいいか?……こいつも当事者だ……ライトが強く背中を打っていたから……おそらく明日まで目が覚めることはないと思う……」
ハーミットは頷いて承諾した。ライトの目が覚めるのを待ってくれるようだ。
「……で、お前たち……ライトとルイーズの友人だな?……俺に不信感はあるだろうが……改めて自己紹介だ……さっきも名乗ったが俺はルイ・シンテック……ライトの兄弟子で、プラチナ級冒険者だ……」
背の高い男が先に口を開いた。
「レオン・トールハート。ライトの幼馴染だ。アンタが悪い人じゃないってのは分かる。きっとライトも怒らないだろうし、俺がとやかく言える立場じゃないし、俺達はアンタの事は恨んじゃいない。」
レオン・トールハート。達観した大人だな。
金髪の女の子が続く。
「セレナ・カロッツェリアです。プラチナ級冒険者の方とお知り合いになれて光栄です。」
さらに黒髪の女の子も続く。
「ボクはシャルド・リール!よろしくね!」
なんというか……こいつらお人好しだな……
「……詳しい話は明日だ……ハーミット……明日は支部長室でいいか?……」
ハーミットは承諾しつつ、この後どうするつもりかを問うてきた。
「……一応ライトに付いているつもりだ……気絶させたのは俺だしな……」
「ルイさん、ここに着いてから何も食べてないですよね?よかったら私達と夕食ご一緒しませんか?」
ルイーズが夕食に誘ってきた。
「それはいい!ライトやルイさんが使った瞬間移動の事について聞きたい!」
レオンが食い付いて来た。
「……お誘いは嬉しいが……遠慮させてもらう……また明日、詳しい話をしよう……」
断ると4人は残念そうに医務室を出て行った。
さて、俺も休むとするか。ライトの寝ているベッドの横で椅子に座ってそのまま眠りにつく。
マジックローダー
魔法弾薬を作るために必要な、魔法の込められていないミスリルの弾薬に魔法を込めるための魔導具。空のミスリル弾薬をセットし、キャンバスに焼き込みたい魔法の魔法陣を書き込む。その後、魔法に合わせた量の魔力を一定の出力で込め続けることで、マジックローダーが魔法陣をライノサラスで扱えるように変換してミスリルの弾頭に焼き込む。その性質上魔法陣にできない魔法は込めることができない。
魔法弾薬
ミスリル製の弾頭を持つ特殊な弾薬。構成自体は弾頭がミスリルに変わっただけで、薬莢等は通常の弾薬と変わらない。ライノサラスのような対応した銃火器から発射されるとミスリルの弾頭が込められた魔法に変換されて発動する。世界を渡る魔法や転移魔法などは必要な魔法陣に変換される。弾のサイズで込められる魔法の規模が変わる。弾が大きいほど複雑で規模の大きな魔法が込められる。




