EP.1-Side.R 新しい世界
眩い光が収まると森の中だった。
森の中は薄暗いが日が昇っている。午前の何時頃だろうか?
この世界はどういう世界なんだろうか。空気中のマナの濃度は高いから、恐らく魔法がある世界だとは予想できるが……
そんな事を考えながら街道に出るために周囲を探知する魔法を使う。
……南西の方角に大きな街があるらしい。一度街道に出て門から入れるか試してみよう。
サーチで分かった街道に出る。大きな城があることから、王都なのかもしれない。
なんか見覚えがある気もするが、城なんてみんな同じようなもんだし気のせいだろう。しかし、王都だとしたら身分証もない俺が入れるのか?
街を囲む高い壁にある門に向かう。2人の門番がいる。鎧に刻印されている紋章に見覚えがある。
「そこの怪しいやつ!ゼーリア王国の王都に入るつもりか!?」
門番に止められた。全身黒ずくめのフードで顔隠した不審人物なんだし当然か。
「…………今ゼーリア王国の王都って……言ったか?……」
ゼーリア王国……マジか……
「そうだが……まさか知らなかったなどと宣うのではないだろうな?」
「……いや……すまん……8年も王都を離れていたら……ここらへんがまるっきり変わっていて……王都だと分からなかったんだ……」
嘘は言っていない。
「確かに、8年も前の王都しか知らないのなら変わりように驚くだろうが……王都の場所が変わったわけではないのだから、分からないなんて事があるのか?」
それはそうだ……さてどうしたものか……
「何か身分を証明できる物は?」
身分を証明できる物……あ、抹消されてなければアレが使えるか……
「……それならある……ゼーリア支部の……ギルドカードだ……」
プラチナの箔が押されたカードを差し出す。
「プラチナのギルドカード……偽造じゃないだろうな?」
「……失効してなければ照会できるはずだ……ギルドに連絡してくれ……」
「その必要はない。元々魔法による識別があるだろ?それを認識して偽造かどうか調べることができる魔導具が導入されている。」
そんな魔導具が生み出されているのか。
門番はもう1人に任せて横の詰め所に向かう。俺はそれに着いていく。
門番がギルドカードを返してきた。同時に、机の上に魔法陣が彫られた金属製のタブレットが置かれる。魔法陣の中央に魔石が組み込んである。
「この魔導具の魔法陣にギルドカードを表向きでかざすんだ。」
言われた通りにギルドカードを翳す。すると魔法陣が緑色に淡く光る。これで何がわかるんだ?
「言い忘れていたが、偽造されたギルドカードを感知すると、この魔導具が変形して所持者を拘束する。その際、拘束した被疑者の魔力を強制的に封じ込めるおまけ付きだ。」
うわぁ……えげつな……
「身分証は確かなものだ。王都に入ることを許可する。」
門番は魔導具を片付けながらそう言う。
「……ところで8年ぶりで……ギルドに辿り着けるか不安なんだが……魔導具の発展を見るに……当時から中も相当に変わっていると思うんだ……」
門番は考える素振りを見せてから、主要な建物や通りは変わっていない事を教えてくれた。ただ魔導車に気を付けろと注意された。
門番に礼を言って詰め所を出て、王都内へ入る。
門を抜けると、当時の面影を残した都会の中に、車輪の付いた箱がいくつも走っている異様な光景が広がっている。
昔行った世界の自動車とやらにそっくりだ。アレが魔導車とやらか。
しかしゼーリア王国か……気がかりはあるが、とにかくギルドに行かなくては始まらないな。金がないからギルドの宿舎を借りて依頼をしなくては。
考えるのは止めてギルドへ向かうことにする。
◇◇◇◇
ギルド ゼーリア支部
迷わず辿り着いて中に入る。中にいた冒険者たちが一斉にこちらを見る。
黒ずくめの男が入ってきたんだ。見られて当然か。
気にせず受付カウンターへ向かう。
「ようこそいらっしゃいました。ご要件は?」
燃えるような紅い色の髪と瞳をしたツインテールのすごい美人な受付嬢だ。
「……ゴールド以上の依頼を紹介してほしい……あとギルド宿舎への宿泊許可を貰いたい……」
そう言うと、会話が聞こえていたらしい冒険者グループから、クスクスと笑い声が聞こえる。
「申し訳ございませんが、ゴールドランク以上の冒険者の方でないと依頼の紹介も宿泊許可も出せません。」
断られてしまった。
「はははは!チビ助!背伸びするのはまだ早いんじゃないか?」
笑っていた冒険者グループのリーダーらしき人物が後ろから話しかけてきた。ベタ過ぎだし興味ないし無視無視。
「……ギルドマスターは8年前から変わっていないか?……」
怪訝そうな顔で変わっていないと言われた。
「……良かった……もし今居るならヤツにルイが来たと伝えてくれ……」
受付嬢が渋々「分かりました。」と後ろに下がる。
「おいクソガキ。俺を無視するだけなら黙っているつもりだったが、ギルドマスターを侮辱するとはいい度胸だな!」
先ほどの冒険者グループのリーダーが突っかかってくる。
「しかも礼儀もなってないと来た。フードぐらい取れ。」
なんだこいつ、こう言うのって普通は難癖つけてくるもんじゃないのか?
そうこうしていると受付嬢が戻ってきて中へ案内された。
後ろから先ほどの冒険者の俺を呼び止める声が聞こえるが無視した。
ギルドマスターの部屋に案内された。受付嬢は未だに俺を怪しんでいる様子だ。
受付嬢に礼を言ってギルドマスターの部屋に入る。
「ルイ……8年間何処へ行っていた……?」
燃えるような赤い髪の男、ギルドマスター、ハーミット・サンジェルマンがデスクを背に窓を見ている。あぁこりゃあ怒ってるなぁ。
「……さっきまで忘れていたんだろう?……怒られる謂れは無いな……」
世界を渡る魔法の影響で俺がこの世界に来る前まで、俺に関する記憶が改ざんされていたはずだ。
「はぁ……で?8年も行方知れずだったお前が、今更なんの用だ?」
そんなデカいため息つかなくても……
「…………その前に……外で聞き耳を立てている受付嬢は……どういう教育をしているんだ?……」
余程俺の正体を知りたいらしく、先ほどの受付嬢が扉の外で聞き耳を立てている。ハーミットが呼ぶと先ほどの受付嬢が入ってくる。
「ルイ、紹介しよう。俺の娘のルイーズだ。」
は?この受付嬢が娘……?確かに髪色と瞳の色は同じだが……は?
「は?ってなんだおい。お前の事を紹介しても?」
声に出ていたらしい。
「……構わない……それよりもアンタから……こんな美人が産まれるなんて嘘だろ?……」
母親が絶世の美女じゃないと納得いかない。いや、こんなヤツに美人な奥さんがいるなんて信じたくない。
「お前なぁ……ルイーズ、こいつはルイ・シンテック。うちのギルドのプラチナ級冒険者の一人だ。」
諦めてルイーズに俺の事を紹介している。
ルイーズがハーミットと俺を交互に見る。目を見開いて信じられないと言ったような表情だ。
「あの……お父様……彼はいくつなんです?」
「ん?ルイが失踪してから8年だから……今18か?」
俺に確認を取ってくるのでそうだと頷く。
「わ、私と同い年!?ま、待ってください!8年ぶりに帰ってきたみたいなことおっしゃっていましたよね!?つまりプラチナ級になったの8年前ってことですよね!?嘘!?」
ルイーズが捲し立てる。そういう反応が当然だよな。
「事実だよルイーズ。で、ルイ。お前ギルド宿舎使いたいって話らしいが、8年前に稼いでた金はどうした?」
俺は8年前この世界を去る前、当時の物価でしばらく遊んで暮らせるぐらいの金は稼いでいた。
「……全部孤児院や教会……学校などに寄付した……」
そもそも通貨の違う異世界にお金を持って行っても仕方がないのだ。どうせならばせめて有用に使おうと、世界を渡る前に使い切れない金は寄付をすると決めている。
「なるほどな。分かった。ギルド宿舎への宿泊許可を出そう。鍵も今渡しておく。206号室だ。ただゴールド以上の依頼は今は無い。最近は比較的平和でな。」
平和なのは良いことだな。ランクの低い依頼でちまちま稼ぐか。あまり褒められたことじゃないんだけれど……致し方ない。
「あの……お父様?」
ルイーズがハーミットにおずおずと伺う。
「どうしたルイーズ?」
「プラチナ級冒険者とはいえ……その……あまりにも無礼ではないですか?フードも外さないなんて。」
ルイーズの指摘は知らない人からしたらもっともだ。自分でも失礼だと思ってる。
「ルイはいいんだ。俺が許してる。」
「しかし、せめて室内でフードを外させるぐらい……」
ルイーズの言葉にハーミットが目配せしてくる。見せてやれってことか。
仕方ない。フードを外して顔の傷を見せてやる。それを見てルイーズは口を抑えて絶句している。
「分かったろ?このローブも俺が用意してやったものなんだ。ルイ。もう被っていいぞ。」
フードを被り直す。
「あの……ルイ様、申し訳ございませんでした……」
ルイーズが深々と頭を下げる。これはギルドの受付としての礼儀を通しているのだろう。
「……ルイーズ……様は要らない……ルイでいい……謝罪を受け入れる……」
「あの……失礼ついでに気になっていたのですが、そのいかにも気怠そうな話し方も、お顔の火傷が原因で?」
もう十分普通に話せるはずなんだが、喋りづらかった頃の喋り方が抜けないんだよなぁ。
「……あぁ、喉も焼けてな……顔に比べてそこまで酷くなかったから……完治はしているんだが……喋りづらかったときの喉に負担がかからない喋り方が……癖づいて直らなくてな……何度か矯正しようとしたんだが……うまく行かずに諦めてこうなっている……」
喋るのも面倒くさいとかそう言った感情は一切ない。もうこれがデフォルトの喋り方なのだ。
「そうなのですね。度重なる失礼を申し訳ございません。そうだ、お父様……いや、ハーミット支部長。」
ルイーズが畏まって伺いを立てる。
「いつも通りでいい。ここには今ルイしか同席していないからな。」
畏まってるって事は重要事項じゃないのか?一応俺部外者だけれども。
「ではお父様。本日午後から、私の学友が2名、ギルドに登録に参ります。お父様本当に対応していただけるのですか?」
不安そうに確認している。
「1人はカロッツェリアの娘さんだったな?登録の処理は俺に任せて、お友達に付いていてあげなさい。そう言えばもう1人の話は聞いていなかったが、どんな子なんだ?」
ハーミットは興味津々で訊く。娘の交友関係がどんな感じなのか気になっているのだろう。
「もう1人はシャル……シャルド・リールといいます。学園の理事長様のお孫さんで、男の子っぽい感じの女の子です。」
ハーミットは頷きながらルイーズの話を聴いている。
「ルイ、一つ俺からお前に指名依頼を出させてもらってもいいか?報酬はゴールド級相当を約束しよう。」
こちらに向き直って言ってくる。願ってもないな。がっつり稼げるのは助かる。
「……何をすればいい?……」
「ルイーズの友達の実技試験の相手をしてほしい。判定は俺がするから、ギルドの訓練用の剣を使って受験者の攻撃を受けてほしい。反撃はなしでな。」
反撃無しか。女の子二人だったよな。なんとかなるだろ。二つ返事で快諾する。
「ルイ……さん。本当によろしいのですか?」
ルイーズが、モジモジしながら呼び捨てにするかさん付けにするか迷いながら訊いてきた。
「……指名依頼として発行してくれるんだ……何も文句はない……それとも俺がルイーズの友達に手を出さないか心配か?……」
冗談を言ってみる。冗談に聞こえないらしいが。
「あ、いえ。そういうわけではないです。セレナもシャルも、プラチナ級冒険者の方に対応していただけるならきっと喜ぶと思います。ただ、8年ぶりに帰っていらしたんですよね?かなり様変わりしていますし、午後は王都を見て回りたいのではないかと……」
あぁ、俺の事を気にかけてくれているのか。なんだかんだ父娘だなこの二人は。
「ルイーズ。半休にしてやるから、友達の登録が終わったらルイに久しぶりの王都を案内してあげなさい。」
ハーミットがニヤニヤしながらルイーズに言う。
「おおおお父様!?一体何を!?」
ルイーズは顔を真っ赤に染めて驚く。
「そうだルイ、受付でギルドカード提示しなかったのか?渡してたらもっとスムーズだったんじゃないか?」
「……あ゛……」
「おいおい……」
午後、ハーミットの依頼を受けてしまったせいで、一番会いたくなかったやつと再会することになってしまった……
ルイーズ・サンジェルマン(Louise St. Germain)
身長:165cm
性別:女
種族:ハーフエルフ(ヒュームとエルフの混血)
紅い瞳と髪をツインテールにしている。吊目三白眼で一見ザ・ツンデレのような見た目だが、非常に素直。冒険者ギルドゼーリア支部の受付嬢。支部長の娘。学園に通っているので学業の合間にやっている。プラチナ級冒険者に憧れがある。容姿は耳と髪と瞳の色以外は母の血を強く引いている。寿命はヒュームと同じ(混血の寿命は例外なく短い方の寿命になる)。
ハーミット・サンジェルマン(Hermit St. Germain)
身長:190cm
性別:男
種族:ヒューム
紅い瞳と髪を持ち、冒険者ギルドのゼーリア支部長。いわゆるギルドマスター。エルフの妻が居る。ルイの傷隠蔽ローブを作った張本人。ルイーズの父。
世界を渡る魔法
契約術者と術者が許可した人物の異世界への転移させる。契約術者の居なくなった世界から、契約術者に関わりの深い記憶を改ざんする。契約術者が再び同じ世界に訪れた時、改ざんした記憶を修復する。
一度使用すると再使用まで平均2年の準備期間がいる。準備期間は世界のマナの濃度で決まる。
この魔法の契約術者たちを世界を渡る者と呼ぶ。




