EP.1-Side.L 忘れていた記憶
魔法が発展し、魔法をベースにして科学技術も、魔法ほどではないが発展している世界。
大陸にある大国。ゼーリア王国。王都。そこにある大きな国立魔法学園。学生寮。
そこに暮らす俺はライト・ハンプトマン。数えて18歳。
今年の四月から国立ゼーリア魔法学園の高等部に通う予定の一学生。と言っても初等部からここに居るので、内部進学だけれど。
ちなみに身長は150cm。かれこれ数年この身長から1mmも伸びてないのでもう期待していない。しかもよほど童顔なのか女の子に間違われる。
ふと部屋のチャイムが鳴る。ベッドから立ち上がり、インターホンに出る。
「ライトー!おはよう!遊びに行こうぜー!」
馴染みのある声が響く。初等部からの友人。レオン・トールハート。
誰もが認めるイケメンで、女子人気も高い。泣かせた女の子は数え切れない。
「レオン。おはよう。起きてたからいいけど、まだ出掛けるには早いよ。」
何と午前6時だ。遊べる場所なんて何処も開いてない。
「お前が毎朝出掛けているのは知ってたからな!それはそうと、とりあえず入れてくれないか?廊下寒い。」
ロックを開けて、凍えているレオンを迎え入れる。
「あったけぇ・・・生き返る・・・」
「なんで寒いの分かってるのにそんな薄着なのよ。」
レオンの服装は薄手のシャツにデニムのパンツと言う明らかに時期に合わない格好だ。
「ほら、学園のOBとOGのチームが開発、市販化したっていう冷暖房魔道具が去年半ばぐらいに寮の全部屋に導入されただろ?」
「今も使ってるね。それがどうしたの?」
「ガンガンに使ってたら部屋が暑くなってな?薄着しててそのまま出てきてしまった。」
外に出た時点で気付くでしょうに。バカなの?
「うっせ!外に出たときいい感じの気温に感じたんだよ。」
声に出てたらしい。レオンの天然は今に始まったことじゃないけれど、度が過ぎてる気もする。こういう所も魅力なんだろうけれど。
「まぁとりあえず暖かい飲み物でも出してあげるよ。」
ホットミルクティーを淹れてレオンに出してあげる。
「おぉ、ありがとう。そう言えばライト、毎朝早く出掛けてるのっていったい何してるんだ?」
疑問に思っていたんだろう事を聞いてきた。
「ん?散歩だよ。健康的でしょ?」
「お前・・・キツくないのか?」
レオンの視線が下半身に向く。「エッチ」と咄嗟に身体を隠すジェスチャーをする。
「お前たまに自分の容姿と声色使った冗談言うよな。」
俺の渾身の冗談に苦笑して苦言を呈す。ことある事にやってるので流石に突っ込まれた。
「ははっ。あまりにも間違われるから自分からネタにしないとやってられないだけだよ。」
笑って答えてるはずだが、多分俺の目は笑っていなかったと思う。
「そんなことより、毎朝歩いて義足の接合部分痛くならないのか?」
俺の右脚は膝上から下が生まれつき無く、義足を付けている。レオンはそれを心配してくれている。
「変に捻ったりしなければ走ったって平気だよ。」
オーダーメイドで俺の脚に合わせてあるおかげで、人並み程度の運動はできる。人の脚を模したものではなく、脚先は円柱になっている。
「ならいいんだけどよ。でも散歩?に出掛けるようになったの俺達が8つとかの時だよな?あの時はお前が遊びに誘ってもよく断ってたからよく覚えてる。」
そんな前からだっけ。
「もう10年も経つのかぁ。我ながらよく継続してるなぁ。……あれ?遊び断ったことあった?」
当時もレオンとはたくさん遊んだような記憶があるんだけどなぁ。
「あった。その時から2年間は両手で数える程しか遊んでない。それにお前が怪我してクラスに来たのが多かったのも覚えてる。」
確信めいた言い方をする。レオンは記憶力がいいから本当なんだろう。
「なんでだっけなぁ。なんか記憶にモヤが掛かってる感じがする。」
すごい違和感。当時のことを思い出そうとすると深い霧が掛かったような……
「なんだそれ。」
「俺にも分からないんだよ。」
あ、もう8時か。そんな駄弁ってたっけ?
「そろそろ出掛ける?もうどこかしらは開いてるんじゃない?」
レオンに促す。
「ん?あぁ。そうだな。あ、そうそう、最近できたカフェを見つけたんだ。行ってみないか?」
カフェ!?さすがレオン!分かってるじゃないか!
「行く!どんなところ?」
何を隠そう俺はカフェ巡りが趣味。レオンも時々見つけたカフェを教えてくれる。
「内装はちょっとファンシーだが、巨大パフェが目玉らしい。外から見ただけだけれど、店員さんも水色を基調にした可愛い制服だった。」
レオンの表情が変態的になる。人前だと絶対出さないけど、俺の前だと隠さないんだよなぁこれ。
「まぁとりあえず行こうぜ。」
レオンが出て行こうとする。
「待って待って。そのままで行く気?」
え?とレオンが振り返る。
「来た時に凍えてたの忘れないでよ。」
その指摘にレオンはハッとする。
「そうだった。」
やっちった。と言ったような仕草をする。イケメンだから映えるな。腹立つ。
「ほら、これ着て。」
レオンにジャケットを背中から被せてあげる。このジャケットはレオンが置いて行ったものだ。
「おー。よく遊びに来るから置いてったやつじゃん。ちゃんと手入れされてる。サンキュー。」
気持ちいいぐらいの笑顔でレオンは言う。
「ついでにクリーニングに持っていっただけだよ。さ、行こう。」
自分もパーカーを着込み、エアコンを止める。鍵を締めて2人でカフェに向かう。
◇◇◇◇
件のカフェに着いた。ラチア・カフェと言うらしい。
「わぁ。本当にファンシーだね。」
外からでも分かるパステルカラーで、女の子が好きそうな、可愛らしい内装。
入口に巨大パフェの案内がイーゼルに張り出されている。
「値段まで見てなかったけど、店舗の見た目に反して可愛くないな。」
レオンは苦笑いしている。
「値段なんて気にしてパフェ巡りなんてできないよ!」
そんなことより早くパフェを食べたい。
「しかし、視線がすごいな。」
レオンが言うように、視線がすごい。主に女性の。
「レオンがイケメンだからだよ。全部女の子の視線だよこれ」
ぶん殴りたいぐらいかっこいいもんなぁ。
レオンは「……多分それだけじゃない。」と呆れたような表情で俺を見る。は?
俺が「何が言いたいのよ。」と反発すると、「お前も美形だろうが。」と明らかに言葉を選んだようなツッコミを入れてきた。あ、そういうこと?
「……とにかくレオンのせいだよ。そんなことどうでもいいから早く入るよ。」
レオンを引っ張って入る。
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
店員さんに2人だと伝え、テーブル席に案内してもらった。そのまま俺は巨大パフェとミルクティーを、レオンはコーヒーとフレンチトーストを注文した。
「お客様、現在カップルのお客様には30%割引をさせていただいているのですが、いかがなさいますか?」
カップル割ってやつかぁ。安くなるにしてもやだなぁ。
レオンは笑いを堪えながら「俺達カップルに見えます?」と店員さんに訊いた。
「えぇ、とてもお似合いの美男美女カップルに見えますけど……もしかしてご兄妹とかでした?」
店員さんがバツが悪そうに訊き返してくる。レオンはその言葉に笑いをこらえきれず吹き出してしまう。
「店員さん、ごめんなさい。こいつ男なんです。」
笑いながら事実を伝える。
「え!?し、失礼しました!あまりにも可愛らしくて女の子だとばかり……」
店員さんは深々と頭を下げて謝罪してくる。慌てて頭を上げてもらうようにお願いした。からかったレオンは今日のカフェ代を奢らせることで許すことにした。
「早くパフェ来ないかなぁ。」
どんな大きさなんだろう?トッピングも気になる。
「本当に女子みたいだよなぁ……男なの嘘なのでは?」
ぼそっと言ったつもりなのだろう。丸聞こえだけど。しかしさっきより視線が痛くなってる気がする。
しばらくして注文したものが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。トールパフェ、ミルクティー、コーヒー、フレンチトーストになります。」
見てくれはよく想像されるようなチョコソースとバニラアイスと生クリームとフレークのパフェ。トッピングにチョコレートコーティングされた棒状の焼き菓子と、筒状でチョコレートが充填されている焼き菓子が刺さってる。
しかしサイズが圧倒的だった。俺の頭より大きい。
「ライト……これ食いきれるのか?もし食いきれなかったら手伝うぞ。」
レオンもあまりの大きさに目を丸くしている。
「舐めないでもらいたい!びっくりしたけど大丈夫!」
大きさに面食らったけど、この程度の量は許容範囲。
「んー。美味しい。」
「本当に美味そうに食べるよなぁ。」
レオンもフレンチトーストを食べながら呟く。
「あの……ライトくん……ですよね?」
きれいな金髪をポニーテールにした女の子に声を掛けられた。この娘どこかで覚えが……
「……セレナ・カロッツェリア。俺達に何の用だ?」
レオンが不機嫌に声をかける。女の子相手に敵意をむき出しなのは珍しい。
「あぁ、レオンくんもご一緒でしたか。失礼しました。」
んー?感じは良さそうなのにどうしてレオンは不機嫌になったんだ?
しかしカロッツェリア?聞き覚えがあるんだけどなぁ。
「はぁ……相変わらずだな。セレナ・カロッツェリア。」
レオンはジト目でセレナさんを見る。睨むと言うより呆れたような表情だ。
「なんでそんなに敵意剥き出しなの?レオンらしくもない。」
パフェを頬張りながら訊く。
「飲み込んでから喋りなさい。」
レオンに注意された。質問の答えは返ってこなかったので、矛先をセレナさんへ向ける。
「で?そのセレナさんは何の用なの?」
今度は質問をしてからパフェを頬張る。あぁ美味しい。
「いえ、その、ライトくんがこちらに入るのが見えたので……もしかしたらお話できるかもと……」
セレナさんが両手の人差し指をつんつんと合わせて俯く。俯いている間もチラチラとこちらを見ている。
「レオン目当ての娘が多いけど、俺目当てなのは珍しいね。」
何なら女の子と間違われて男に声をかけられる方が多い。
「お前に近づくために俺の所来るやつもいる。こいつもその1人なんだ。」
疲れたような表情に、意外とそういう女子が多いらしいことが見て取れる。
「は!?そんな娘達が居るのに今まで一人も紹介してくれなかったの!?」
俺の悲痛な叫びにレオンはため息を吐く。
「やべぇ女を紹介できるか!」
酷い言い様だ。セレナさんが「酷い!?」とショックを受けた顔をしている。
「あぁいや、すまん。あんた自体はまともだよ。紹介しなかったのは別の理由だ。」
別の理由?気になる。俺の考えてる事が分かったのかレオンは続けて口を開いた。
「カロッツェリア家。お前の家と因縁があるんだ。」
ハンプトマンと因縁のある……カロッツェリア……?
――思い出した!魔導車の大手!カロッツェリア!魔導車を開発し、広く普及させた工房。技術供与をすることで、今はいろんなメーカーから様々な魔導車がリリースされるようになったが、変わらず最大手だ。
「お前んちの生業の馬車事業を廃業寸前に追い込んだ、あのカロッツェリアだ。そんな所の一人娘を紹介できるわけ無いだろ。」
なるほど。さすが親友、俺の家の事情に配慮してたんだね。
そんなレオンの言葉にセレナさんが驚いている。知らなかったようだ。
「まて、セレナ・カロッツェリア。まさか自分の家と因縁があるって知らなかったのか!?」
セレナの反応にレオンも驚いている。
「待ってレオン。確かにうちの馬車事業は廃業寸前だけど、お祖父様もお父様もカロッツェリアの魔導車の大ファンだよ。」
レオンの口が外れんばかりに開いて「俺の気遣い……」と呟いている。すごく嬉しいけど、俺もカロッツェリアの魔導車のファンだから、むしろ早く紹介して欲しかったよ。
そんなやり取りをしていたら急に激しい頭痛に襲われる。頭を抑えてうずくまる。今まで経験したことのない、頭に何かを無理やり詰め込まれているような、そんな痛みだ。レオンとセレナさんが、心配して俺を介抱してくれてるのが横目で見えた。
しばらく激痛に悶えていると、嘘かのようにスッと治まった。それと同時に、とても鮮烈な記憶を思い出した。
ルイ……?
「大丈夫ですか?病院行きますか?」
セレナさんが頭を上げた俺を心配して、声を掛けてくれた。痛みはもうないから大丈夫だと伝えたら、今度はレオンに声を掛けられた。
「ライト。ルイって誰だ?」
声に出てたらしい。どう説明したもんかなぁ。
「端的に言えば兄弟子なんだ。今の今まで忘れてたんだけどね。」
「お前が誰かに師事してたって初めて聞いたな。なんの師匠なんだ?」
レオンは興味有りげに訊いてくる。
「魔法と戦闘の師匠。ちょうど10年前に師匠と兄弟子と知り合って2年間教えてもらってた。」
レオンは俺の話を聞いた時納得したように頷いた。
「戦闘?その義足でですか?」
セレナさんが不思議そうに訊いてきた。レオンも横で頷いている。
「こんな脚でも戦える戦闘技術と魔法を教えてもらってたんだ。」
この義足もその戦闘技術に対応させたものだったのを一緒に思い出していた。
「なるほどな。あの頃怪我が多かったのも、遊びに誘っても断ってたのも、そういう理由だったのか。」
でもなんで忘れてたんだろう?
「いや、忘れてた理由を考えても仕方ない!とにかくパフェの続きを食べるんだよ!」
半分ほど残っている巨大パフェを食べるのを再開する。
食べ終わってからもう1個追加で頼んだ。
ライト・ハンプトマン(Light Hamptman)
年齢:17歳(数え年で18歳)
性別:男
身長:150cm
種族:ヒューム
茶髪に赤い瞳、ミディアムマッシュ。女の子と間違われるような容姿をしている。生まれつき右脚の膝上から下が欠損しており、特注の義足を付けている。カフェ巡りが趣味で甘い物が大好き。
ハンプトマン工房
馬車のサスペンションを開発し、馬車業界に革新を起こした事により大きくなった馬車工房。魔導車の台頭で廃業寸前まで行ったがしぶとく生き残っている。男爵の爵位を持つ。
レオン・トールハート(Leon Tallhart)
年齢:18歳
性別:男
身長:170cm
種族:ヒューム
茶髪で金の瞳。ライトの親友。自他ともに認めるイケメン。天然。無類の女好きだが、人前では抑えている。
トールハート工房
金属加工を生業とする工房。魔導車の部品の生産も行っている。
セレナ・カロッツェリア(Serena Carrozzeria)
年齢:18歳
性別:女
身長:155cm
種族:ヒューム
金髪で青い瞳。ポニーテール。穏やかな性格で、ライトに気がある。
カロッツェリア工房
魔導車(魔力で動く自動車)を開発し、発展した大手工房。独占せずに技術を公開し、様々な魔導車が生まれるきっかけも作った。男爵の爵位を持つ。魔導車が台頭することでハンプトマン工房を含め馬車事業全体に大打撃を与えた。 カロッツェリアが手掛けた最初の市販車はフォードモデルTのような見た目だった。現在の最新モデルはジープラングラーのような見た目。
魔導車
馬を必要としない金属製の乗り物。金属のホイールにゴム製のタイヤを持つ、要は現代の自動車そのもの。カロッツェリアが生み出し、現在は様々な工房が参入して、大きな市場になっている。動力は基本的に魔石を用いた魔法で爆発を起こし、ピストンを動かす事で回転エネルギーを生み出すレシプロエンジンを用いる。レシプロ以外の心臓を持つ魔導車も少数存在する。




