EP.0 異世界へ
魔法が存在し、科学の発展が著しく遅れたとある世界。
その世界のとある国のとある街。その一角にある冒険者が集う酒場。
黒いローブを身に纏い、深くフードを被った身の丈160cmに届くかどうかの小柄な体格、コントラバスの入れ物のような大きさのケースを背負った俺は、夕暮れ時にその酒場に訪れた。
店に入ってすぐ「おい!ルイ」とエールのジョッキを片手に持った1人の冒険者に声をかけられた。この男はザナック。
「飲み比べで勝負しろ!」
こいつ本気で言っているのか?きっと今の俺の顔は酷く呆れた表情をしているんだろう。
「……またかよ……嫌だよ……面倒くさい……」
空いているカウンターに座り、背負っていたケースを下ろす。
「……マスター……エールと……適当に飯を見繕ってくれ……」
息をつくためにフードを外す。それまで傷1つ無かった顔に酷い火傷の痕が現れる。
「あいよ。しかしそのローブいつ見てもすごいな。その酷い傷がフード越しだときれいに見えるんだからな。」
フードに掛かった高位の幻覚魔法のおかげで、成長した俺の顔をフード越しになら確認できる。聞いた話では男には見えるが幼い顔付きらしい。
ザナックが「逃げるな!」とうるさい。……こんな奴でもあまり邪険にはできない。なんだかんだ恩のある相手だ。
「ザナック。介抱するのは俺なんだ。飲み比べなんてやらせねぇぞ。ほれ、ルイ。先にエールだ。」
ジョッキが差し出される。俺はジョッキを受け取り、飲み始める。
「マ、マスター!だがよぉ18になったばかりの子供に負けたままなのは、先輩冒険者としてはよぉ……」
ザナックはしどろもどろになりながらも食い下がる。そう、こいつは18の俺に飲み比べで負けたのだ。
「なぁにが先輩冒険者としてはだ。エール2杯でベロベロになる奴が勝てるわけ無いだろ。それにお前年数だけでルイに等級も負けてるじゃあないか。」
マスターに痛いところを突かれ、ザナックはぐぬぬと押し黙る。
二人のやり取りをエールを仰ぎながら見ていた俺は、一度飲むのを中断しフォローを考える。
「……いや……ザナックには世話になったし……先輩として尊敬はしているよ……金がない時に助けてもらったしな……」
ゆっくりエールを仰ぎながらフォローする。
「……年下にフォローされるのは恥ずかしいぞザナック。」
マスターの言葉にザナックが「うぐぐ……」と押し黙る。
「はーい。シンテックさん。料理が出来たわよー。」
ウェイトレスが料理を運んでくる。だいぶ豪華だ。それをザナックに出してもらうようにウェイトレスに頼んだ。ザナックが鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。ギャグ漫画みたいな顔だ。
「……いやなに……後輩からの最初で最期の恩返しと思ってな……」
「は?なんだよ最初で最後って。確かに初めてだけど、別に明日でも明後日でもやろうと思えばまたできるだろ?いや、別にやれって意味じゃないけどよ。」
ザナックの言う通りだ。今後もやろうと思えばできる。ここにいる限りは、だが。
「……残念ながら……会うのは今日で最期になる……」
「他の街に移動するのか?寂しくなるな。」
マスターは驚きもせず別れを惜しむ。
「でもよ。他の街に行くにしたって、今生の別れってわけじゃないだろう?マスターはまだしも、俺が依頼でルイが移動した街に行くかもしれないじゃあないか。世界は広いようで狭いんだぜ?」
ザナックの意見は正しい。拠点を移動するだけなら冒険者としてよくある話だ。人間が移動できる距離なんて早馬を使った所でたかが知れてる。
「……いや……街を移動する訳じゃあない……俺はこの世界を出ていく……」
「世界を出ていく……?いったいどういう……」
頭に大量の疑問符が浮かんでるのが見て取れる。
「……世界を渡る魔法と言うものがある……この魔法を使うと異世界へ行けるんだ……」
簡単に世界を渡る魔法について話す。
「冒険活劇ものの小説でよくある、異なる世界に勇者として召喚されるとかの、あの異世界?」
マスターが柄にもなく身を乗り出して聞いてくる。それに対し俺は一言肯定する。
「そんな夢のような魔法が実在したのか!」
「……この世界に類似の魔法があるのかは知らない……俺が使うのは別の世界の魔法だから……」
俺の返事にあからさまに肩を落とすマスター。
「……まぁ……要はその異世界へ行くための魔法を使うから……もう会えないって話だ……」
「なぁルイ。その魔法って俺にも使えたりするのか?」
ザナックが興味ありそうに聞いてくる。
「……ザナックも異世界物好きなのか……?」
「いや、本を読めるほど文字が読めん。だけれど異世界って言葉は知ってるから本当にあるなら見てみたいって思っただけだ。」
この街に根を下ろしているから仕方なしに冒険者をしているのかと思っていた。やりたくてやってたんだな。
世界を渡る魔法はザナックには使えないと嘘を付いた。ザナックが残念そうにしていたが、本当は契約さえしてしまえば誰でも使える。だが恩人をこんな碌でもない魔法と契約なんぞさせたくない。
「ん?ってちょっと待て!さっき別の世界の魔法って言ったか!?そんなもんどうやって覚えたんだ!?」
ザナックが肩を掴んで問いただしてくる。前後に揺さぶるのをやめてもらえないだろうか。エール戻しそう。
「だって……俺この世界の……人間じゃ……ないし……」
目を回しながらも答えると、ピタッと手が止まる。
か、解放された……そう思った矢先、掴む場所が肩から胸ぐらに代わり、先程よりも強く揺さぶられる。
「なんで!それを!もっと!早く!言わない!」
首!首締まってる!
「や……やめ……言ったって……信じないでしょ……」
マスターがザナックを引き離してくれてなんとか収まった。苦しかった……
「すまねぇ。確かに、正直今も半信半疑だ……」
そりゃあそうだ。異世界人でしたと言われて信じる奴なんかアイツしかいない。さて、長居しても仕方がないな。
「ふぅ……俺はそろそろ……お暇させてもらうよ……」
「本当にもう会えないのか?」
「……あぁ……ザナック、マスター……2年間世話になった……」
エールと料理の代金を払って席を立つ。
「ルイ、お前は強いから心配ないだろうが、死ぬなよ。」
「……あんたもな先輩……」
ザナックとマスターに送り出されて、店を後にする。
騒ぎにならないように街の外へ出る。途中、門番に止められたが、冒険者証を見せて隣村の知人の家まで火急の用と伝えたらすんなり通してもらえた。
ある程度離れた森の中で、以前から目星をつけていた開けた所へ向かう。
辿り着いた先で背負っていたキャリングケースを開く。その中には、異世界で手に入れた攻城用魔導武器。
対城塞用特殊ライフル砲・ライノサラス。全長2m50cmという大きさのライフルが、三分割されてケースに収まっている。
ライノサラスを組み立て、世界を渡る魔法の魔法弾薬をチャンバーに直接1発込める。
危険なためバックブラスト機能を停止させ、ライノサラスの銃床を下にして地面に突き立て、引き金を引いた。ミスリルの弾丸が銃口から発射された瞬間に魔法陣に変換され、俺を中心として足元に展開する。
魔法陣の眩い光に包まれ、この世界から旅立つ。
ルイ・シンテック(Rui Shyntech)
年齢:18歳
性別:男
身長:160cm
種族:ヒューム
深緋色の髪と瞳。顔の大半を覆う火傷の跡。乱雑に切られたミディアムボブのような髪型。若干タレ目気味な目つきと、のんびりとした表情をしている事が多い。フードを被っているときには表情はコロコロ変わるが、素顔の時は基本的に無表情。気怠そうなゆったりとした話し方をするが、本人は至って真面目な青年である。世界を渡る者。
対城塞用特殊ライフル砲・ライノサラス
全長:2m50cm
使用弾薬:23x152mm
装弾数:5+1発。
ライフリング:7条右回り。
対物ライフル、アリゲーターに似た形状だが、ブルパップ式ボルトアクション機構を採用している。
機関砲に用いるような弾薬を用いるため、圧縮した魔力の放出によるバックブラストでの反動軽減機能が付いている。
この機能は銃座に固定しての使用を想定して任意に解除可能。




