EP.6-Side.R キャラバン隊護衛
マリーネン 港街ガレリオン
「やっと着きましたね……歩き疲れました……」
セレナが広場にあるベンチに座ってサンドイッチを食べている。
「……出店があってよかったな……時間をかけずに飯にできる……」
いつものことながら俺は食べない。
「本当に食べなくていいんですか?」
セレナに心配される。
「……あぁ……ここだけの話……世界を渡る者は食事する必要がない……肉体を作る栄養とかを……魔力で補えるようになってるんだ……どういう理屈かは知らんが……」
そう、世界を渡る者は体内の魔力がそのまま生命維持の要になる。さらに空気中のマナを取り込んで自身の魔力に変換する効率が、常人の数千から数万倍まで跳ね上がる。そのおかげか食事をする必要が無くなっているわけだ。
ただ俺の生まれた世界のような、空気中のマナが希薄な世界では、摂食で補給しないと魔力の回復が間に合わないこともあるにはある。
世界を渡る者の中にも人によっては、食事をしないと言うのに慣れずになる前と変わらない食生活を続けるやつも居るらしい。
味覚が死ぬわけではないので、娯楽として食を楽しんでいるやつも出会った中にいた。
それに何より俺も付き合いで飲食をする事はある。だいたいは断るけど。
「なんというか色々と便利ですね。」
「……便利は便利だが……おすすめしない……契約したいとか言うなよ?……」
「言いませんよそんなこと。」
苦笑いしながらサンドイッチを頬張っている。
「……取り敢えず……それ食べ終わったらキャラバンに合流するぞ……」
セレナが食べ終わるのを待ってキャラバンと合流して隊長と挨拶をする。
キャラバン隊の隊長は葉巻が似合う髭の男だ。
「……護衛依頼を請けた……プラチナ級冒険者のルイ・シンテックだ……こいつは新人のシルバー級冒険者のセレナ・カロッツェリア……」
「このコンボイのリーダーのエドワード・ゴドウィンだ。よろしく頼む。ところでアンタ。そのローブはどうした?」
握手ついでに千切れた右の袖について訊かれた。
「……討伐対象との戦闘で破けた……」
「そのローブ、俺の店で扱ってるローブと同じ物だな。良かったら贈ろうか?」
「……申し出はありがたいが……いいのか?……」
「プラチナ級冒険者に助けられるなんて何かの縁だしな。その代わりと言っては何だけれど、何か入り用の時はゴドウィン商会をよろしく。」
「……商魂逞しいな……分かった必要な物があるときは……ゴドウィン商会を頼らせてもらうよ……」
キャラバンの貨物輸送は魔導車だった。しかもコンテナトレーラー。コンテナは付いて無いが、港で受け渡したんだろうか?トレーラーが三台に人員輸送用の車両が二両コンボイに含まれている。
「……大規模なコンボイだな……それに結構な大型車両だ……」
俺の呟きにセレナが反応する。やべ、余計な事を呟いたな。地獄耳め。
「タキメトロ工房のトレーラーですね。タキメトロの発想力は舌を巻くと父も言ってました。このモデルは直列6気筒エンジンを採用していますね。タキメトロのエンジンは基本的にロングストロークのトルク重視の設計になっていますので、速度はあまり出ませんが、物資輸送には持ってこいなんです。」
セレナが訊いていないことまで嬉々として説明してくれた。完全復活したのは喜ばしいが……。
にしても王都でも思ったが……いくらどこの工房も変態技術者の巣窟とはいえ……たった数年でトレーラーまで作られるものか?
「……エドワード……一人乗れるところはあるか?……」
セレナは心身ともに疲れているだろうから、もし乗れるなら休ませてやりたい。
「荷について船に乗る商人を乗せてきた人員輸送車が空くから余裕で乗れるぞ。」
「……ならセレナを頼む……新人にはちと過酷な相手だったからな……休ませてやりたい……」
エドワードは二つ返事で了承してくれた。
「わ、私は大丈夫です!」
どうにも不服らしい。
「……魔導車と同じ速度で……王都までの道を走り付けられるか?……」
「無理……です……」
悔しそうに歯を食いしばっている。ギリギリ音してるけど奥歯折れない?
「……だろ?……大人しく魔導車に揺られてろ……」
「で、でもそれならルイさんだって……」
面倒くさいから食ってかからないでほしい。
「……こんな遅い乗り物より遅いプラチナ級なんて多分いない……」
俺はボンネットトラックのフェンダーを軽くノックする。
「コイツが遅いか!トレーラーヘッドだけの実測で時速100kmの魔導車が!やはりプラチナ級は噂に違わない常識外れだな!」
エドワードが反対側のフェンダーを叩いて大笑いしている。そんな強く叩いて歪まないのか?
「……思っていたよりも遅かったな……150は出ると思っていた……」
「おぉおぉ煽りよる!その嬢ちゃんソレイユの旦那の娘さんだろ?そんなこと言っていいのか?」
セレナがワナワナと震えている。
「……なにか問題があるか?……」
「いいえ、でも、私がルイさんでも追いつけない魔導車を作ってやります。」
何かを決意したような顔で拳を握りしめている。
「……頑張れ……」
未だに不服そうなセレナを人員輸送車に押し込んでいたら、エドワードに質問された。
「どうやって魔導車の速度に勝つんだ?」
「……簡単に言えば地面スレスレの飛行だ……」
足の裏から一定の圧力で魔力を噴射させ続ける事で地面スレスレを滑るように移動することができる。
「飛行魔法か?」
「……まぁそんなところだ……」
正確には魔力操作の応用で魔法ではないが、説明が面倒なので適当に流す。
「それじゃあ出発しよう。」
エドワードが王都へ帰るメンバーに指示を出して動き出す。
トレーラーと人員輸送車の隊列に続いて着いていく。何事もなく王都に着けばいいんだが……
そんな願いを嘲笑うように、二十人あまりの野盗に囲まれ足止めを食らう。
「……はぁ……ジェムコレクターが居なくなってすぐだってのに……もう野盗が出るのか……」
「大丈夫か?嬢ちゃんに声かけるか?」
エドワードの申し出を断る。
……しかし面倒だなぁ。
「魔導車と金目の物と女を置いて立ち去りな!」
野盗のリーダー格らしい男が叫んでいる。長柄のウォーピックを携えた屈強な男という感じだが、何故野盗なんかに落ちたんだか。
「……それは飲めんな……」
「は?何だって?もっと声を張れよ!距離があるしエンジン音してんだから!」
ごもっともである。小悪党が正論言うなよ。
「お前らの要求は飲めねぇよ!」
エドワードが代わりに叫んでくれた。
「そうかい!オメェら男は殺せ!あ、でも若くて女みたいな男はボスが喜ぶから居たら捕まえろ!」
……今、聴きたくない言葉が聞こえたような……
野盗どもはそれぞれの武器を手に距離を詰めてくる。
「……野盗でも殺すと後が面倒なんだよ……」
背負ったままのキャリングケースから魔法、糸繰り人形でライノサラスを取り出し、組み立てる。本来なら傀儡やら死体やらを魔法の糸で操る魔法だが、手を使わずに組み立てができるので、こういう時重宝する。
「……数が多いな……」
弾は何がいいか……?非殺傷だとゴム弾や魔法弾薬のパラライズ弾だが……ゴム弾は単体、パラライズ弾も単体から少数の制圧用だ。装弾数フルで撃った所で半分無力化できれば御の字ってところ。
……大人しくリーダー格以外は殺すか。遅延付きサンダーボルト弾を一発精製。薬室に送り込んで空になったマガジンに追加で五発精製。
ライノサラスを真上に向けて、魔力タンクに圧縮魔力を送り込みながら連続で六発撃ち出す。発射されてすぐに魔法にならず、ミスリル弾のまま飛んでいく。
「ルイの旦那?一体何を?」
撃ち出されたミスリル弾は一定高度まで飛翔すると魔法が発動し、一発一発が五つの落雷になり野盗に降り注ぐ。
大半の野盗は感電して死んだが、数人は見覚えのある魔導具で魔法を無力化したようだ。
あの魔道具はマックスが気まぐれに作ったもののはず。なぜこの世界に……?
「……話を聞かなくてはいけないようだな……」
魔法を強制的にマナに還元してしまう杖。アンチマジックワンド。
縛り上げて入手先を吐かせる。
「……それでも残りはリーダー格含めて5人か……」
HEF一発精製、装填。下からゴム弾二発、HEF三発の順でマガジンに精製。HEFの信管の強度は着発で設定した。
リーダー格の男以外の4人をHEFで撃ち抜く。魔法だと思ったのかアンチマジックワンドを構えていたが、通常の弾薬なので当たった野盗の体が爆ぜる。
「あんな爆発を起こしているのに魔法じゃないだと!?クソ……!」
リーダー格の男が取り乱している。今のうちだ。ゴム弾を一発、鳩尾を狙って撃ち込んだ。鋼鉄製の胸当ての様だったが、ゴム弾がめり込んでいる。衝撃のあまり男は吹き飛ばされ、大量の血を吐いた。
やば、内蔵いった?やっぱり23mmじゃゴム弾でも殺傷能力あるか……
とにかく死ぬ前に急いで縛り上げて、アンチマジックワンドを取り上げてから、強力な回復魔法を掛ける。
「ぐ……何故回復させた……」
「……聞きたいことがあるからだ……この魔導具の出処を教えろ……」
眼の前でしゃがんで男を睨む。
「……白髪でターコイズブルーの瞳の若い男が、どこで嗅ぎつけたのかいきなりアジトに売り込みに来たんだ。美形な男だったからボスが気に入っちまって、結局6本買ったんだ。」
男は怯えたように目を逸らして言った。
「……そいつは名乗ったか?……」
「いや、名乗らずに消えた。」
「……そうか……とりあえずお前は冒険者ギルドに連れて行く……」
「チッ……アジトの場所を吐かせる気だな?」
「……お前の意思は関係ない……」
男を担いでセレナが乗っていない方の人員輸送車に放り込む。ついでにサンダーボルトで殺した、人の形を保っている死体も、死体袋に詰めて人員輸送車に放り込む。
周囲の安全を確保した後、キャラバンは再び王都に向けて出発した。
その後は何事もなく王都にたどり着き、一度冒険者ギルドへ寄って貰って、死体とリーダー格を引き渡し、一応商業ギルドにある車庫まで護衛した。
◇◇◇◇
王都 商業ギルド前
いつの間にか人員輸送車で寝ていたセレナを起こし、降りるように言う。
「あれ?もうついたんですか?」
目を擦って伸びをしている
「……一人しかいないからって……寝すぎだ……冒険者ギルドへ向かうぞ……」
「あ、はい!」
「……エドワード……ローブは冒険者ギルドのハーミットに届けてくれ……」
エドワードにそう伝えて、俺達はもう一度冒険者ギルドへ向かう。もう日が傾いている。遅くなってしまったか、商業ギルドと冒険者ギルドは王都の真反対にある。
◇◇◇◇
冒険者ギルド
着くなり俺達は支部長室へ連行された。途中セレナに黙っているようにだけ伝えた。
「ルイ、遅い時間で申し訳ないが、報告してもらおうか。」
「……何を?……」
「お前の右手が現場に残っていたという件だ。」
は?俺の手?
「……なんで俺の手だと?……」
手だけで誰のか分かるわけないしな。
「ライトが現場で見つけた。お前のグローブだったと言っていたと聞いている。」
あー。確かにグローブごと捨てたな。それでライトが……って
「……いやまて……なんでライトが?……あの辺りの討伐依頼は……一時的に取り下げられて無かったはずだ……」
「人手が足りなくてたまたま居たライトに代理回収の補助をさせたんだ。」
新人を危険地帯に送るとかなんてことさせてんだ。プロの回収班が帯同してるとはいえ、箔無しよりも知識の無いやつを使うか普通
「……それで見つけたと……で?その手はどうした?……」
「回収はしなかったそうだ。で?見たところお前の右手は無事だが、その有様は?」
「……はぁぁぁ……ブレスの溜めの隙に口内に武器をねじ込んだ……その時に腕ごと噛みちぎられたんだ……ブレスが暴発したから一緒に消失したかと思っていた……これでいいか?……」
腕を組んで深くため息を付く。
「手が残ってた理由は分かった。じゃあその腕は何だ?」
「……生やした……」
「………………分かった。」
何やら葛藤を押し殺しているような顔をしていたが、絞り出すように言った。
「……それよりもハーミット……捕らえた野盗の件……俺に任せてくれ……」
「あ?構わないが、お前が自分から低ランクの仕事に口を出すのは珍しいな。」
ハーミットが驚いた顔をする。そんなに珍しいか?
「……気になることがあってな……とりあえず俺とラルクで対処する……くれぐれもゴールド以下に依頼出すなよ?……」
「分かった分かった。その件はお前に一任する。」
ハーミットは呆れたように腰に手を当てている。
「……助かる……それとこれは別件なんだが……近いうちにゴドウィン商会からハーミット宛てに……これと同じローブが届くはずだから……」
「付与だな?任せとけ。完成したら部屋に届ける。」
すぐに理解してくれて快諾してくれた。
「……じゃあ俺達は帰る……」
「帰る前に、ローブについて何かあるか?」
何か?あぁ、追加でやってほしいことあるかってことか。
ハーミットへ今のものと同じでいいと答え、セレナを連れて支部長室を後にする。
受付で報酬を受け取るため、ルイーズに声をかける。
「セレナ!改めておかえりなさい!本当に無事で良かった!」
「そんなことより聞いてよ!ルイさんが普通に喋ったのよ!」
こいつらは何を話してるんだ……
「何言ってるのよ?いつも普通に喋ってるじゃない。」
「違うの!いつもの気怠そうな喋り方じゃなくて、普通の喋り方で指示出ししてくれたのよ!」
「え、ずるい……!」
「ルイーズが頼んだら喋ってくれるんじゃない?あ、あとね?ルイさんの腕が千切れたの。」
「え!?千切れた!?」
驚愕の表情をしてこちらを見た。
「……なんだ……ライトかハーミットから聞いてなかったのか?……安心しろもう生えてるから……」
「え……?あ、はい……」
鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で思考停止している。
報酬について訊くと、慌てて二人分の報酬を取り出した。それを受け取ってセレナを送るために冒険者ギルドを後にする。
HEF
ライノサラスの23x152mm用の破砕榴弾。通常弾。
サンダーボルト弾
23x152mm用の魔法弾薬の一つ。ホーミング弾のようにターゲット指定ができる(5人まで)。発動タイミングを遅らせて上空へ撃つことで、魔法の着弾まで時間がかかるが広範囲の攻撃になる。発動タイミングを即発動にすれば正面方向へ即座に魔法を放てる。
ゴム弾
23x152mm用の非殺傷目的のゴム弾。通常弾。無力化を目的としているが、元のエネルギーが高すぎて、ゴム弾ですら殺傷能力を持ってしまっている。
アンチマジックワンド
対魔法用の防御用魔導具。構えて魔力を込めると範囲内の魔法をマナに強制的に還元して無力化する。




