EP.6-Side.L 変わり種の初依頼
―冒険者ギルド ゼーリア支部
「あら、ライトじゃない。1人?」
ルイーズさんに声をかけられた。「そうだよ」と答えると、話があると言われた。
「で?ルイーズさん話って何?」
「私があなた達同級生の受付担当になったって報告がしたかったのよ。セレナとシャルには伝えてあるから、レオンに会ったら伝えておいてくれる?」
ルイーズさんは書類をテキパキと処理しながら話している。
「分かった。それだけ?」
「あぁ、それとこれはただの世間話なのだけれど、セレナとルイさんがパーティーを組んで今朝依頼に出たわ。」
「え!?なんで!?」
ルイとセレナさんが2人で!?
「さぁね。デートじゃない?」
ルイーズさん本当の事を分かった上でからかってるな?
「あんまりからかわないでよ。」
「ごめんごめん。でもルイさんとセレナがパーティーで依頼に出たのは本当よ?」
ケラケラと笑いながらそう言う。そこは本当なんだ。
「それよりも、ここに来たってことは何か依頼を請けたいんでしょ?」
書類を脇に寄せて、受付嬢モードになった。
「うん。討伐依頼とかあるかな?」
「ちょっと待っててね。」
ルイーズさんはそう言うと後ろに下がってしまった。
しばらく待っていると、何故か支部長さんと一緒に戻ってきた。
「丁度いいところに来たなライト。ギルドの仕事の手伝いをしてもらいたい。依頼として発行させてもらうから安心してくれ。」
支部長さんが依頼書をルイーズさんに手渡した。
「ごめんねライト。お願いできる?」
ルイーズさんは申し訳なさそうにしている。
「大丈夫だよルイーズさん。支部長さんどんな仕事ですか?」
「討伐された魔物の素材の回収だ。本来なら討伐した冒険者が自らがやるもんなんだが……依頼の内容によっては、やってる暇がない場合もある。そんな時には冒険者ギルドが代わりに回収を請け負うんだ。」
つまりその代理回収をするお手伝いってことか。後学のためにいいかもしれない。
「回収班がほとんど出払っていてな。初めての魔物素材の回収になるだろうから、残ってた回収班の1人を付ける。請けてくれるか?」
「はい!やらせてください!」
二つ返事で了承する。回収班の人ってどんな人だろう?
「支部長?空いている回収班ってもしかして……」
ルイーズさんが不安そうに支部長さんに確認している。
「ん?ルイーズだって把握しているだろう?サリア・ストラーダだよ。」
ストラーダ!?ストラーダって工房の!?
「サリアさんにライトを会わせるのはちょっと……」
ルイーズさんはすごく渋っている。何か問題のある人なの?
「ん?あー……大丈夫だろ……多分……どちらにせよ、空いているのはサリアだけしか居ないんだ。」
「……知りませんからね。」
ルイーズさんは呆れた顔をして、こちらに向き直る。
「名前で分かるように、同行する回収班はストラーダ工房の三女、サリア・ストラーダさんよ。普段はいいお姉さんなのだけれど……」
ルイーズさんが何やら言い淀む。
「……まぁ、会えばわかるわ。受諾の血判だけお願い。」
結局教えてくれなかった。言われた通り書類に血判を押す。
「サリアさんを呼んでくるから、待っていて。」
ルイーズさんが立ち上がろうとすると、支部長さんが止める。
「俺が声をかけてあるから、もうじき来る。」
「支部長〜。ふぁ〜。お待たせしました〜。」
奥の扉から、緑の瞳に緑の髪のショートボブに溶接用のゴーグルを頭につけた、冒険者ギルドの作業着姿の190cmぐらいの大きな女性が欠伸をしながら現れる。
「サリア、今回は新人のシルバー級冒険者と一緒に魔物素材の回収業務だ。詳細はルイーズから説明させる。」
仕事モードに切り替わったのか、のほほんとした態度から、キリッとした表情になる。
「了解しました。ルイーズよろしくね。で?その新進気鋭の新人冒険者は誰?」
なんだ、気の良さそうなお姉さんだ。ルイーズさんが不安そうにしていたのは杞憂だったんじゃないかな?
支部長さんは奥に戻っていった。
「眼の前にいますよ。私の同級生のライト・ハンプトマンです。」
「ん?ハンプトマン?どっちの?」
「工房の方です。」
「リヒトさんの方か……」
カウンターからこちら側に来て、俺を舐めるように見つめる。
「サリアさん?」
ルイーズさんが困惑している。
?サリアさんに微笑みかけられた。しかもこの人……俺を父さんを知ってる?それにしても……何がとは言わないけどでっかぁ。
「リヒトさんの妹弟子のサリア。ライトくんとよく遊んであげたんだよ?初等部入る前だったから覚えてないかな?」
そう言えば小さい時、遊んでくれたお姉さんがいたっけ……確か……
「……サリー姉?」
「!思い出してくれたの!?」
サリー姉が嬉しそうに俺を抱きしめる。
「知り合いだったのね。ならあの事も杞憂かしら。」
「ルイーズ?そもそもうち、可愛らしい男の子は確かに好きだけれど、愛でる対象なだけよ?手を出そうなんて考えたこともない。イエスショタノータッチよ!」
何を言ってるんだこの人は。
「それにしても大きくなったわね。感慨深いわ。じゃあルイーズ?あまり時間かけるのも良くないでしょうから、説明お願いして良い?」
サリー姉の言葉にルイーズさんは頷いて、説明を始めた。
「先程支部長が言っていた通り、未回収の魔物素材の回収。その手伝いが今回のライトへの依頼です。依頼目標は、『ジェムコレクター』九体と『マギジェムコレクター』一体になります。報告によれば損傷が酷い可能性が高いとの事です。」
「損傷が酷い……ねぇ。ジェムコレクターの群れじゃ仕方ないでしょ。それで、場所は?」
「マリーネンの港街ガレリオンに繋がる街道にほど近い森の中です。」
「例のキャラバンがガレリオンに足止めになってる原因のやつね?にしても担当受付経由じゃなくて支部長直通だなんて、どんな冒険者なのかしら?」
「プラチナ級冒険者ですよ。支部長に直接連絡取れるのなんて、それぐらいしかいないでしょう?」
「プラチナが出張ってもおかしくない内容とは言え……回収する時間ぐらいあっただろうに……」
サリー姉とルイーズさんがテキパキと仕事の確認をしている。2人とも美人だから真剣な表情もかっこいい。
「私から謝ります。新人を擁して出ていますので、その都合かと。」
プラチナ級と新人……もしかして……
「ねぇルイーズさん。そのプラチナ級と新人ってルイとセレナさんの事?」
「ライトくんこの依頼請けてるプラチナ級のパーティーを知ってるの?」
「知ってるも何も俺の兄弟子と同級生だよ。」
「兄……弟子……?馬車工房の弟子がプラチナ級……?」
サリー姉が頭にハテナを浮かべながら口を半開きにして虚空を見つめはじめた。
「違う違う、流浪の旅人がいて、その人に10年前に2年間師事してたの。その兄弟子だよ。」
「はっ!?な、なぁんだ。リヒトさんの弟子がプラチナ級になったのかと……その兄弟子とやらはいくつなの?」
同い年だと伝えると、声を張り上げて驚いた。こんなに感情豊かな人だったっけ?昔はもっとクールだったような……
談笑していた冒険者たちが声にギョッとしてこちらを振り返っている。
「なに……?18歳でプラチナ級って……」
「15歳のプラチナ級を擁しているゼーリア支部の職員が驚いてどうするんですか……」
ルイーズさんが頭を抱えて呆れている。
「だってラルクくんはワーウルフだもの。あの子はヒュームとは地力が天と地ほども違うじゃない……あ、その18歳のプラチナ級もヒュームじゃないとか?」
そう言えば聞いたことはなかったなぁ。でも産まれとかを考えると普通のヒュームであることが高い。魔力持ちを魔女として処刑するような野蛮な人たちがヒューム以外の種族だとも思えないし。
「確認したことはないけど、ヒュームだと思うよ。」
「……うちはとんでもない人材を抱えているのね。」
サリー姉が遠くを見つめている。考えるのをやめたようだ。
「ライト、さっきの続きだけど、そうよ。ルイさん達の後始末が今回の依頼。彼らは討伐だけではなく、港街にいるキャラバンの帰還を護衛する必要があるから依頼してきたの。」
「ルイがどんな戦いをしたのかの片鱗を見れるなら願ったりかな。どうやって行くの?」
「馬車だよ。ハンプトマン工房のね。」
復活したサリー姉がウインクしながら言った。魔導車じゃないのかぁ。
それから装備を渡されて、馬車に乗って目的地に向かう。
◇◇◇◇
目的の現場
現場について最初に目に入ったのは、半分しかない宝石を纏ったドレイクだった。
まずは現状把握ということで、魔物の遺骸には手を付けず、周囲の安全確認を兼ねた探索を開始する。
「ブレスを吐ける程魔石を蓄えたマギジェムコレクターが居たようね……」
ルイが見せてくれたライノサラスが攻撃後に排出する金属の殻が八個落ちていた。
辺りを探索していると、茂みの中に何やら落ちていた。右手用のグローブ?
いやに分厚いグローブだ……な……――っ!
「うわぁぁぁ!?」
「ライトくん!?どうしたの!?」
サリー姉が心配してこちらに来てくれた。
「て……手が!」
「手!?大丈夫よ!何ともなってないわ。」
「ち、ちがう!手が!誰かの手が落ちてる!」
誰かの――いや違う――!これ……このグローブ――!
「ルイの……ルイの手だ!」
慌ててルイの手を拾う。なんで!?どうしてルイの手が!?
「ライトくん落ち着いて!回収の依頼をしてきたってことはその手の主はちゃんと生きてるわ。」
サリー姉が過呼吸を起こしかけていた俺を抱きしめて宥めてくれた。
しばらく宥められてようやく落ち着いてきた。
「サリー姉……ルイの手……どうしよう……」
「プラチナ級冒険者が、落ちた自分の手を回収しなかったってことは、高級な回復ポーションかなにかの方法で再生させた可能性が高いわ。安心なさいとは言えないけれど、深刻に考えるのは本人に会ってからしなさい。今は危険な場所で仕事中なのよ?集中しないと貴方が命を落とすわ。」
肩を掴んで俺を諭してくれる。
「ご……ごめんなさい……サリー姉……」
「周辺が安全なことは確認できた。あとは対象の確認よ。」
「はい……!」
サリー姉に先導されて依頼の本題に入る。
「まず……頭が落とされてるジェムコレクターがニ匹。体が半分消し飛んでいるのが一匹。頭が無いマギジェムコレクターが一匹。」
明らかに呆れている。とんでもない戦闘だったのだと想像に難くない現場だ。
「全部で十匹って話じゃなかったっけ?残りの六匹は?」
「あそこよ。ほとんど等間隔に並んでいるわ。あっちはまだ確認していないけれど、見た限り状態は悪くないわね。」
サリー姉と共に奥の個体たちを確認に向かう。
「外傷らしい外傷はないわね……どうやって倒したのかしら?」
サリー姉が不思議そうに観察している。
「あら?小さい穴が空いている……?こっちもこっちにも……六匹全部同じだわ……まさか魔核を貫いて?でもこの傷ならこの六匹はほぼ全てが回収対象ね。ライトくん骨が折れるわよ。」
サリー姉は青い魔石の付いた解体用のナイフを取り出す。
「こんなナイフなんかで本当に解体できるの?」
見た感じは普通の鉄でできた解体用のナイフだ。
「このナイフはジェムコレクター用に調整された魔導具なの。もう一本の赤い魔石の付いたナイフはマギジェムコレクター用ね。じゃあ始めるわよ。」
サリー姉にナイフの入れ方を教えてもらいながら、マギジェムコレクターを残して一匹ずつ確実に解体していく。
このナイフ、ジェムコレクターの宝石を驚くほど容易く切断できる。
採れた素材を馬車に添えつけられた大きな箱に入れていく。
この箱も魔導具らしく、入れた物資を冒険者ギルドの倉庫に転送するようになっているらしい。
時間をかけて全てのジェムコレクターを解体。小さい穴が空いていた六匹の体内からは同じ形の細い金属の棒が出てきた。ルイの仕業だと思うとサリー姉に伝えると、どんな武器なのかを気にしていた。
半分だけになっていたものは損傷が激しく、残った部分もあまり使い物にはならないそうだ。使えない部分は回収せず、自然に還すらしい。
「さて、最後はコイツね……おそらくだけれど、体外の露出した魔石を見るにブレスを吐けるぐらいの魔石を体内に蓄えていたんでしょう。さっきの半分になっていたのも多分コイツの仕業ね。」
サリー姉が腰に手を当てて、ため息交じりに言った。
「ジェムコレクターの方は切断されてはいたけれど、こっちはどこにも頭が無かったのはどうしてだろう?」
「半分のジェムコレクターのダメージと同じ魔力痕だから、ブレスが口内で暴発したのでしょう。」
「魔力痕?」
聞いたことのない単語だ。
「高等教育で習うのだけれど、魔法などの魔力を伴う攻撃の痕には、魔力痕と呼ばれる残滓が残るのよ。首の落ちてたジェムコレクターの切断面や、六匹の小さい穴の魔力痕と、マギジェムコレクターの首や、半分になっていたジェムコレクターのとは一致しないのよ。それに人型種系の魔力痕には同じ特徴があるけれど、このニ匹には無いの。ただ――いや、コレはいいわ。」
サリー姉は何かを言いかけてやめた。何を言おうとしたのかな?
「首周りは駄目だけれど、他は使えそうね。解体を始めるわよ。」
赤い魔石の付いたナイフに持ち替えて、指示を受けながら解体を始める。
「あら?喉の中に首を切断した魔力痕と同じ痕があるわね……なるほど?さっきの右手はそう言う事ね。」
首の方で解体を進めていたサリー姉が独り言を言っている。
「ルイの右手が……どうしたの?」
「推測だけれど、ブレスを溜めてる口に魔導具武器か何かを突っ込んで、反射で閉じた顎に持っていかれたんだわ。あんな所に落ちていたのは暴発した時に飛んでいったんでしょうね。それにしても、ライトくんの兄弟子は危ないことをするわね。一歩間違えれば暴発に巻き込まれて消し炭になっていたわよ。」
ルイがそんな無謀な事する?そうせざるを得なかったのかな?
「ライトくんの兄弟子、今度うちに紹介してね。今は仕事を終わらせてさっさと帰りましょ?」
返事をして残りの解体を進める。解体が終わって、使えるものだけ箱に放り込んだら馬車に乗り込んで、王都へ帰還する。
ギルドに到着する頃には薄暗くなっていて、報酬を受け取ってすぐに帰路へとついた。明日、ルイに腕の事を確認しよう。
サリア・ストラーダ
身長:192cm
性別:女
種族:ヒューム
緑髪で緑の瞳。ショートボブ。巨乳。溶接用の遮光レンズが付いたゴーグルと冒険者ギルドから支給されている作業着がトレードマーク。冒険者ギルドの代理回収班の一人。ストラーダ工房の三女で、ライトの父の妹弟子。幼少期のライトと面識がある。可愛い男の子を愛でるのが好き。




