EP.5-Side.R 魔物退治
カロッツェリア工房
早速セレナと合流するために訪れた。乗合魔導車の時間を把握していなくて、少し早めに着いてしまった。そのせいか急いで準備したのかセレナが慌てて飛び出してきた。俺のキャリングケースを真似たのかわからないがクインテット・ボアート用の巨大なケースを背負っている。
「お待たせしました!ルイさん!父が無理言って申し訳ありません!」
会うやいなや深々と頭を下げて謝罪してきた。
「……いや……気にしなくていい……それよりも早く来てしまって……急がせたみたいだな……」
俺の言葉に「そんなことありませんよ!」とセレナは慌てて否定する。
「……それよりも……ソレイユに頼まれたとはいえ……セレナは俺で良かったのか?……」
「え?ルイさんほど頼もしい人はいませんよ。」
セレナは不思議そうな顔をする。
「……いや……初めての依頼は……ライトたちと受けたかったんじゃないか?……」
「ななななんでライトくんが出てくるんですか!?」
真っ赤になって、慌てる。すごく分かりやすい。
「……友達と最初の依頼……受けたかったんじゃないかって話だったんだが……」
「あっ、そそそそうですよね!分かってましたよ!?分かってましたとも!」
なんか面白いなこいつ。それからもセレナを何度かからかいながら冒険者ギルドへ向かった。
◇◇◇◇
冒険者ギルドゼーリア支部
事前にセレナと合流し、ギルドの受付でルイーズに挨拶をする。指名依頼は奥の応接室で行われるため、一緒に移動した。
「ちょっとセレナ!どうやってルイさんとパーティー組めたのよ!」
ルイーズがセレナに詰め寄っている。ハーミットから内容を知らされていたらしい。
「私だって今日言われて驚いてるのよ。昨日、お父さんが頼んだみたいなの。」
「羨ましいわ……そうそう、休みの日は私がセレナ達の担当になったから、何かあったら私に言ってね!」
ルイーズは笑顔でセレナに告げる。
「私達って私とルイさんパーティーのってこと?」
「違うわよ。シャルやライトくん達の事!それにルイさんとのパーティーは今回限りでしょ?」
セレナが納得したように頷いている。
「……それにプラチナ級には……特定の担当は付かない……」
「そ、プラチナ級冒険者はその性質上、ギルドマスターと直接やり取りすることが多いから、担当は要らないのよ。」
セレナが感心したように声を漏らした。
「さて、じゃあ件の依頼のお話をさせていただいても?」
ルイーズが俺の方を見ながら確認を取ってくる。親友と談笑している優しい顔ではなく、受付嬢としての顔になった。
「……あぁ……頼む……」
ルイーズは頷くと説明を始める。
「今回の依頼は、商業ギルドからの連名での依頼になります。マリーネンの港街ガレリオンとの間にある街道付近や、ガレリオン付近の海域に生態系外の強力な魔物が現れました。この影響で商業ギルドのキャラバンが港街から動けずにいるので、該当魔物の討伐及びキャラバンの帰還の護衛になります。ただし海の魔物はマリーネン側が対処すると連絡がありましたので、我々の討伐対象は街道の魔物だけになります。」
海の方はマリーネンが対応してくれるなら楽か。
「……魔物の情報は?……」
「街道付近には複数のジェムコレクターが報告されてます。数は10体とのことです。」
確かに本来は山岳に生息する魔物だ。しかも複数だと?
「……群れを作らないジェムコレクターがか?……」
「はい。しかもその中にマギジェムコレクターの存在も確認されています。」
ゴールド級でもきつい内容じゃないか……
「……ソレイユはその事は知らなかったのか?……」
「それは分かりませんが、あの人は分かっていたら、娘にやらせようなんて考えないはずです。それとこの情報は冒険者ギルドの調査員複数からの報告ですので、間違いはないかと思います。」
ジェムコレクターとマギジェムコレクターの群れか……基本は手を出さないつもりだったが、悠長なことは言ってられないな。
「……新人には荷が重すぎる気がするが……ハーミットはなんて言ってる?……」
「支部長は、ルイさんが居るなら問題ないと……」
そんなことだろうとは思ったが、俺を過大評価しすぎだ。
「……はぁ……まぁなんとかしよう……」
「私が言うのもなんですけど、セレナは辞退させたほうが……」
セレナを心配したルイーズは俺にそう提案する。
「……どうする?……セレナ……」
こういうのは本人が決めることだから、セレナに委ねる。
「行かせてください!」
決意は堅いようだ。
「……だそうだ……安心しろルイーズ……俺がセレナを守る……」
「セレナ……分かりました。セレナの気持ちを尊重します。それとルイさん?ライト一筋のセレナだからいいですけど、あんまりそういう言い方はしない方がいいですよ?女の子に勘違いさせます。」
ルイーズに忠告された。勘違い?
「ちょっとルイーズ!?」
「細かいことは気にしないの。では受諾の血判をお願いします。パーティーのリーダーのルイさんのだけで構いませんよ。」
ルイーズはセレナを軽くあしらって、俺に書類を差し出す。ナイフで左手の人差し指に傷をつけ、出てきた血を親指に塗りつけて、出された書類に血判を押す。
「痛くないですか?今絆創膏を……あれ?」
ルイーズが俺の手を取って絆創膏を貼ろうとして不思議そうな顔をする。
「今確かにナイフで切りましたよね?傷が無いんですけど…」
ルイーズが人差し指をぷにぷにと触って確かめている。ルイーズの手柔らかいな。
「……俺は治りが早いんだ……」
「早いとか遅いとかってレベルじゃないような……」
ルイーズは相変わらず手を触り続けている。ただいつの間にか指先ではなく左手全体を手慰みのようにいじくり回されている。ちょっとくすぐったい。
「……帰ったらなんでか教えてやる……」
「約束ですよ?」
「ところでルイーズ?いつまでルイさんの手を触ってるの?」
セレナがからかうようにルイーズに訊く。
「へ?あ!ごめんなさい!なんか心地よくてつい……」
ルイーズは真っ赤になりながら手を離す。
「……気にしてない……行くぞセレナ……」
俺達は用意されたギルドの馬車に乗り込んで、目的地に向かう。
◇◇◇◇
移動中の馬車
「こういう時、魔導車が使えないのは歯痒いですね。」
セレナが馬車の外を眺めながら呟いた。技術者として思う所があるようだ。
魔導車が使えない理由は、エンジンの音で魔物を刺激する可能性が高いからだ。
「……気になったんだが……ソレイユはなんで……車輪を直接回さなかった?……」
セレナはこちらを向いて口を開いた。
「私もそう思って父に訊いてみたことがあるんですが、回転を掛けるような魔法は常に出力したままにしなくてはいけないので、湯水のように魔力を消費するそうです。それに外的な力に弱かったらしいです。」
「……じゃあ……蒸気機関を諦めた理由は?……」
俺に依頼を出していたときは蒸気機関の小型化の研究をしていたと言っていたな。
「トルクはあってもパワーが無かったそうです。船のようなものの大きな蒸気機関なら莫大なパワーになるらしいのですが、馬車に乗るほどのサイズまで小型化すると、十分な圧力が得られなかったそうです。」
「……理屈はよく分からんが……要は小さくしたら馬車の代わりにならなかったと……」
セレナは頷く。
「……そうか……そう言えば話が変わるんだが……この馬車……どこの工房の馬車って知ってるか?……」
「この馬車の工房……?馬車工房のほとんどは、別の事業に移って、馬車事業はレース用の車体と、自工房製品の修理整備に絞っていると聞きます。冒険者ギルドに納入している工房なんてもう……」
唯一馬車の技術だけで生き残っている工房。
「……俺も興味本位で調べて知っただけなんだが……馬車のみでしぶとく生き残っている工房が……一つだけあるだろ?……」
俺のヒントに必死に考えている。思いついたのか勢いよく顔を上げた。
「ライトくんのご実家!」
「……正解だ……ハンプトマン工房の馬車は未だに人気みたいだからな……」
雑談していると御者から合図があった。
「……セレナ……もうじき到着する……準備しろ……それと……戦闘中……俺が流暢に喋っても……驚くなよ……」
ライノサラスを組み立てながらセレナに指示する。
クインテット・ボアートの確認をしながら指示を聞いていたセレナが咄嗟に俺の方を見る。
「え?それってどういう?」
「……とにかく驚くな……それだけだ……」
セレナはイマイチ納得していない様子だが、とりあえず頷いた。
馬車が止まり、これ以上は進めないと御者から告げられた。つまりここから数刻もしない距離で、ジェムコレクターの群れが確認されたということだ。
御者に礼を言って、馬車を降りる。御者は馬車を反転させて、王都へ帰っていった。
「馬車が帰ってしまいましたけど、ガレリオンまではどうやって向かうんです?」
「……ここからそう遠くない……対象の討伐が終わったら歩いていく……」
不安そうにしているセレナを宥めて、ガレリオン方面へ歩きながら魔力探知で周辺の索敵を開始する。
「……居た……ここから100m離れた森の中だ……ん゛ん゛……ん゛ん゛ん゛。セレナ、準備はいいか?」
本気の戦闘モードに意識を切り替える。意識してないと普通に喋ることもできないの不便ではあるんだ。急に俺が流暢に喋りだして驚いたセレナがこちらを勢いよく見る。
「え!?ちゃんと喋ってる!?」
「驚くなって言っただろ。戦闘中だけだ。」
マガジンの精製魔法を起動して、魔法弾薬を一発精製する。炭化タングステンを芯にミスリルの層で包んだホーミング弾だ。その1発を薬室に装填し、追加で5発マガジンに複製する。
「セレナはジェムコレクターだけを見ればいい。攻撃するときは首を狙え。ドレイクだからとビビる必要はない。お前の技術力を見せてやれ。」
「は、はい!」
「まずは4体まで減らす。俺が一発目を撃ったらクインテット・ボアートを起動しろ。」
ジェムコレクターの群れがいる方向に砲口を向け、引き金を引く。出来うる限り素早い操作で2発、3発と発砲していく。3発目でライノサラスのバックブラスト用の魔力タンクが空になる。魔力タンクの容量が装弾数と釣り合わないライノサラスの欠陥だ。全力で圧縮魔力を魔力タンクへ送り込み、無理やりバックブラストを維持する。
セレナは俺の指示通り1発目でクインテット・ボアートを起動して準備をしていた。
マガジンの全ての弾薬を撃ち切る頃には、残ったジェムコレクターがこちらに突進してきていた。全弾急所を貫通して撃破できている。避けない的なら雑に狙っても急所に当たってくれるホーミング弾様々だ。
「セレナ!来たぞ!」
今度はマガジンの精製魔法でマジックソード弾を3発精製し、薬室に叩き込む。
「左端の1体を任せる。倒せなさそうなら気を引くだけでいい。」
そう告げて、機動戦術でジェムコレクターとマギジェムコレクターの群れの中に飛び込む。機動戦術で跳ぶのと同時に引き金を引き、マジックソード弾を撃つ。撃ち出されたミスリル弾頭を触媒にして魔力が伸びて砲口に追従する1m程の高密度の刃を形成する。
左の一体を残してすれ違いざまに身体をひねりながら、ジェムコレクター2体の首を斬りつける。
ちっ……浅かったか。もう一回行くにはちょっと時間が足りないか?
2発目を薬室に叩き込んで引き金を引く。マジックソードが重なって発動する。
効果が切れる前の追加発動はあまり良くないが、仕方ない。今は殲滅が先だ。
斬りつけたジェムコレクターやマギジェムコレクターは俺を脅威に感じたのか俺を見ながら咆哮している。
「セレナ!そっちは大丈夫か!?」
声を張り上げてセレナへ声をかける。
「大丈夫!です!」
近接攻撃へ移ったジェムコレクターの攻撃を躱しながらクインテット・ボアートで足を斬りつけていた。
「首を狙えと言っただろう!」
「それがこのジェムコレクター。首周りが宝石で囲まれてて……きゃっ。刃が入らないです!」
必死に躱しながら同じ場所を斬りつけている。
面倒なやつをセレナに回してしまった。こちらをさっさと片付けて……!?
咄嗟に機動戦術で横に飛ぶ。刹那、極太の魔力のレーザーが掠める。ローブが焦げてしまった。
マギジェムコレクターが放ったブレスだった。
なんてこった。かなりの密度の魔石を蓄えた個体だ。あれだけ密度が高いと外からの魔法攻撃は効かないし、通常弾薬も貫通するかどうか怪しい。
ただ、一体ジェムコレクターを巻き込んでくれていたらしい。体の左半分が消し飛んだのがいる。
アレはすぐには放てないはずだ。今のうちに残ったジェムコレクターの首を斬りつけて落とす。
マジックソードの効果が切れて、刃が霧散する。3発目を装填しておく。
さて、どうするか……どうやって手早く片付けるか考えていると、マギジェムコレクターが口を開いて魔力を収束し始めていた。
まずい。いや、チャンスか?
俺は後先を考える前に機動戦術でマギジェムコレクターに飛び込んでいた。
開いた口の中にライノサラスを右腕ごとねじ込み、引き金を引く。マギジェムコレクターの口の中でマジックソードが発生する。
腕を引き抜く前に、マギジェムコレクターが激痛に口を閉じてしまった。マギジェムコレクターの牙が容易く俺の右腕を切断して持っていかれた。流石に痛みで悲鳴を上げてしまった。右腕の残った部分を抑えながら後退り、マギジェムコレクターから距離を取る。すぐに冷静になり、考える。
クソ……ライノサラスを飲まれた……どうするか……
俺の絶叫を聞いたセレナが俺の方を見た。
「え!?ルイさん!?」
俺の腕を見るやいなやセレナは悲鳴を上げた。
「こっちは気にするな!眼の前の敵を見ろ!」
セレナはパニックになりながらも俺の指示を守ろうと必死にジェムコレクターの攻撃を躱している。
マギジェムコレクターの方は、俺の千切れた腕から魔力が抜けたのか、ライノサラスが超重量になり、地面に叩きつけられた。さらにその衝撃で先程収束していた魔力が暴発したらしく、マギジェムコレクターの頭が吹き飛んだ。
残りはセレナが相手しているジェムコレクター1体か。ライノサラスを回収している暇はないな。
俺は空間魔法からミスリル製のダガーを取り出す。このダガーは異世界の魔導具で、魔力を込めることで、魔力の刃を伸ばして、先程のマジックソード弾のような事ができる。ただしこちらは魔力を込めれば込めるほど太く長くなる。
俺はセレナに夢中なジェムコレクターの側面に回り込んで、首の宝石の細い隙間にダガーを突き立てる。一気に大量の魔力をダガーへ込め、極太の魔力の刃を形成し、最後のジェムコレクターの頭を落とす。
はぁ……俺としたことが今回は色々と詰めが甘かったな……
「ルイさん!腕!腕持ってきました!!」
セレナが、マギジェムコレクターの遺骸から俺の手を見つけてきたらしく、パニック気味にくっつけようと試みている。暴発時に手首から肘上までの部分も一緒に吹き飛んだみたいで、本当に手しかない。もしそのまま付いちゃったら短いだろうが。
「……痛いからやめろ……そんなもの捨てとけ……いつか動物の餌になる……」
セレナから手を奪い取って遠くに投げ捨てる。
「あぁ!ルイさんの手が!」
放物線を描く俺の右手をセレナは手を伸ばして目で追っていた。
「……そのうち治るから気にすんな……そんなことよりライノサラスの回収を手伝ってくれ……このままだと分解できない……」
俺はライノサラスのセキュリティ上の欠陥を話して、片付けを手伝ってもらった。
俺が触っていれば識別魔法へ登録していなくても使えてしまうという欠陥だ。
「それよりもこれからどうするつもりですか?治るって仰っても、まさか腕が生えてくる訳でもないでしょう?」
「……そのまさかだ……」
「……え?」
「……気持ち悪いだろ?……俺もそう思う……足止めになるが……少ししたら見れるぞ……」
しばらく待っていると、欠損した腕が魔力によって骨から順に組織が形成されていく。ものの数分で腕が完全に復活し、肘を曲げたり手を握ったり開いたりして動きを確認する。
セレナが形容し難いすごい顔をしていたが、気が抜けたようにへたり込んだ。
「はぁぁ……ちょっと回復の過程は気持ち悪かったけど、治って本当に良かったです……今のって世界を渡る者って言うのと何か関係が?」
「……そうだ……世界を渡る魔法の契約の効果だ……死ななければだいたい治る……」
この能力を持ってしても回復が間に合わなければ死ぬ。師匠がそうだった。
「……まぁいい……ガレリオンに向かうぞ……この距離なら昼頃には着く……」
俺達は連絡用魔導具でハーミットに討伐対象の素材回収を頼んで、ガレリオンに向かって移動を開始した。
ホーミング弾
金属の弾芯を持つ魔法弾薬。表面のミスリル層に込められた魔法が内部の弾芯に誘導効果を与える。弾芯部の金属は任意に変更可能。
マジックソード弾
砲口から高密度の魔力の刃を発生させ、近接戦闘を可能にする魔法弾薬。刃の長さは1m。持続時間は短い。
ジェムコレクター
宝石の原石を主食にし、体内外に宝石を溜め込むドレイク。体高は1.3m。
マギジェムコレクター
ジェムコレクターの変異種。宝石の代わりに魔石を溜め込む。魔石の密度が高いほど強力な魔法のブレスを吐き、魔法に対する外皮の防御力が上昇する。体高は1.6m
ドレイク
四足歩行の巨大トカゲの魔物。ドラゴンの近縁種。




