122 芋栗カボチャの打ち上げパーティー
濃密でしっとりとした光沢を放つスイートポテト。優美なクリームの襞が幾重にも重ねられた栗のケーキ。こんがりと焼けた香ばしい生地がふっくらと膨らんだカボチャのパイ。テーブルの上は黄金色に染められていた。
「お疲れさまでしたっス。どうぞ、遠慮なく飲んで食べて、騒いでくださいっス。もちろん、お代はサービスっス」
甘く豊穣な香りが酒場を満たす中、バーディちゃんが最後のジョッキを私の前に置いた。中でカランと涼やかな音を立てる大きな氷の隙間には、微かな蜜色をさせた液体が並々と注がれている。
「これは何ですか?」
「芋のリキュールっス」
酒と聞きつけ、私はすぐさまジョッキに鼻を近づけた。勝てば即時報酬。季節感などお構いなしに並べられた料理たちを前に、正直言っていかがなものかと、否定的な考えもよぎっていた。が、長い年月を感じさせる重厚な木樽の薫りが鼻を抜けた瞬間、そんなことはどうでもよくなった。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。全員、箸……いや、フォーク、ないしジョッキを持てぃ!!」
正面に座っていた大賢者が音頭を取る。ジョッキを握りしめたのは彼と私、そしてアシハラで、他の三人はフォークを手にした。暖炉から取ってきたのか、サラマンダー君は薪をくわえながら尻尾を振ってこちらを見ていた。
「エハドの恵みとバーディちゃんに感謝!! いただきます!!」
「いただきます!!」
サラマンダー君がオレンジ色の炎を吐き出したのを横目に、私はすべてを忘れてジョッキを傾けた。キンキンに冷えた極上のリキュールは、フルーティーな香りを広がらせてガツンと喉を通り、胸を焼きつけた。
思っていたよりも遥かに高い度数、そして覚えのあるその口当たりに、私はたまらずアシハラの同意を求めた。
「ごほっ……これって」
「うん。とびきり上質な芋焼酎だね。しかし、この量をロックでいけるとは……さすがです、イシュタル殿」
「いや……」
「うまい!!」
飲み干したジョッキをテーブルへと叩きつける音が、私の反論をかき消した。私も酒は好きだが、大賢者のようにジョッキいっぱいに入れられた焼酎を、一気に流し込むなんて無茶な飲み方はしない。
明日の体調を心配しながら、勢いのままに半分ほど空けてしまった自分のジョッキへと目を落とす。
「どうぞどうぞ、たくさん飲んでくださいっス!」
注文していないおかわりが、バーディちゃんの手によってジャバジャバと注ぎ込まれる。胃袋の中に収まった冷たい液体が、じんわりと体を温め始めた。
「うんまぁい!!」
豪快に栗のケーキを頬張ったキラは、口のまわりを大量のクリームで汚していた。拭き取ってやろうかとも考えたが、彼女の隣に座っていたソフィーさんが、手に持っていたスイートポテトにそのクリームをつけることによって上手に再利用した。
「ピィ?」
カボチャのパイを一口かじっただけで、私の身を案じてくれたのはピィちゃんだった。彼はよく冷えた水をチェイサーとして差し出してくれた。愛おしくなった私は、久しぶりに彼の身を預かって自分の膝の上に乗せた。プニプニとした肌は柔らかく、ひんやりと冷たくて、気持ちがよかった。
「さてと……ここも平和になったことだし、二、三日ゆっくりしてから、発つとしようかぁ?」
バーディちゃんから受け取ったおかわりを一瞬にして消し去った大賢者が、珍しくスケジュールの相談を持ちかけてきた。
「旅立ち前に一度帰る、ということですね?」
大賢者の提案した日程を組み込んだ場合、イルハレバナからの旅路と合わせると、ちょうど一週間になる。次の目的地である『エシュ・ヤハム』までは四日かかる。このまま休まずに進んだ場合、馬車旅の途中で区切られることになってしまう。
一週間毎に現実世界に帰るというのは、私たちが何となく決めた内規のようなものだが、肉体と精神のバランスを考えれば、なるべくそのペースは崩さない方がいい。彼の意見に特に反対する理由はなかった。
「もっとゲームっぽく言え。セーブだよ、セーブ」
何のことやらよくわからない用語を出してきたが、察するに今の状況を調整するというか、抑えるということなのだろう。私は適当に頷いておいた。
「お前適当に頷いただろう?」
「そんなことはありませんよ?」
傍から見れば怪しいほどに即答する。強い酒が起こさせた悪ふざけだったが、肘をついて微笑むその様子を見るに、彼は私の態度を気に入ってくれたようだった。
「さあさ、今日のところは、とりあえず食べましょう」
「ケーキうまいぞ、タル!」
「お芋はやっぱり、アシハラさんの焼き芋の方が美味しいかもだけど」
アシハラからはカボチャのパイ、キラからは栗のケーキ、ソフィーさんからはスイートポテト。三者から三品が、いっぺんに差し出された。私はフォークを手に取り、どれから食べるか存分に迷った。
最初に選んだのは、好物の栗がふんだんに使われたケーキだ。それを肴に、芋のリキュールちびりと合わせる。
「ちょっと……たまらないかも、これ」
どれを口にしようが、自然と笑えてくる。そんなかけがえのない、力強いシナジーが口の中に溢れていた。




