音楽
「....すごいところだな」と、深町は感嘆。
「....うん、なんだか...。」と、松之は相槌するが
それよりも、諒子がさきほど見せた
寂寥感のような雰囲気の方、を意識した。
この屋敷が持つ趣き、それとの関連が
感じ取れそうな、気がして....。
松之は更に不安になった。
scene#18 cut#2
いい香りのアール・グレィが雰囲気を満たし
深町と松之は、諒子の向かい側の長椅子で
テーブルを挟んで。
上品な感じの白磁に注がれた紅茶は
ゆらゆらと湯気を立てている。
市街地の中で意外な程閑静なこの場所、
おそらくは周囲を囲む樹木が音を吸収するのだろうと深町は思考していた。
「あ、僕は深町...これは前に言いましたっけね。
生まれは東京の下町、蒲田です。こっちは柳、
彼は神奈川の片田舎.....。」
「片田舎はないだろ、厚木だよ」と、漫才コンビのように松之が返す。
諒子は、そのやりとりをにこにこしながら見ている。
斜め左から対面していた松之は
その笑顔だけ、それだけでとてもハッピーな
気分になれる。
...ずっと、こうしていたい。
そんな夢想をしていて、話題が進んでいるのに
気づかなかった。
「おい、松?」と言う深町の言葉に、ハッ!と。
我に返った松之は「あ、ごめんなさい。ちょっと.。」
と言うと、深町が「彼、この頃こうなんです。
困っちゃうなぁ、美人に会うと、こうで。」
と、深町が茶化す。松之は顔が赤くなってきて
それを自認し、恥ずかしさに更に顔が赤くなって
「あ...いえ、そんな事は....あ、いえ、諒子さんが
美人でないと言っている訳ではなくて...。」
と、しどろもどろになった。
諒子は、くすくすと笑いながら、あ、ごめんなさい
あんまりおふたりが仲がよろしくて、と..
楽しい雰囲気だった。
深町は「じゃあ、お父様がお医者様?」と言うと
諒子の、春陽の光芒の如き笑顔は途切れる。
深町は、その変化を察し
「あ、すみません、変な事聞いちゃって。」
と言うと、諒子は、いいえ、気にしないで下さいと
そう言ったが、笑顔は途切れたままだった。
そして.....。
「わたし、東京でピアノの調律をしていたのです。」
深町は、雰囲気を取り戻そうとして
意図的に明るく「へぇ、凄いんですね。
俺が使ってるギターだって
今は自分で調弦できない人の方が多いんです。
機械を使わないと。」と。
諒子は、穏やかな表情に戻り、
そうですか、ギターは微妙なのでしょうね、と
深町が抱えて居たギターに視線を移した。




