チューニング
深町は「そう、僕らは路上ライブするんで
調子がずれたピアニカとか、アコーディオンとか...
木管が居るともっと大変です。温度でずれるし。」
と、矢継ぎ早に話した。
諒子は、テクニカルな興味を以て聞いている。
そう言う感じの所は、職人っぽく見え
松之は、自分の母や親類たちの
職人気質と共通のものを感じて
親近感を覚えた。
諒子は、にこやかに深町と松之を眺め
「本当に仲がよろしいのね。ご兄弟みたいだわ」
と、言う。
松之は「諒子さんは、ひとりっ子なのですか?」
そう言うと、諒子の表情が曇る。
松之は慌てて「あ、ごめんなさい。僕、変ですね。」
いいえ、いいんです。と諒子はかぶりを振る。
さらりとした長い髪は、横を向くと豊潤で
野生的な若さ、を思わせた。そこに
松之は対比的な魅力を覚えた。
そんな、松之の想いとは無関係に、諒子は
静かな表情で「姉がいました。でも....
もう、13年になります。
今年で29になるはずでした。」と....。
平準な表情を装っているが、内心
やはり淋しいのだろう、くちびるが結ばれている。
深町はとりなす。「あ、ごめんなさい、
思い出させちゃって、松、お前も謝れ!」と。
松之は、その表情の変化に気をとられていて
..すみませんでした。と言うのがせいぜいだった。
scene#18 cut#3
「いえ、もう...時が過ぎていますから。
本当に、お気になさらないでくださいね。」
と、諒子は笑顔を作ったが
やや、ぎこちなさが残り、その事が
深町と松之の胸を打つ。
いつのまにか時刻が流れていた事に深町は気付き
「あ、ずいぶん長居してしまいました。
ごめんなさい。僕らはそろそろ...。」
と、もう少し居たかった風だった松之を連れ
重厚な客間から、席をたつ。
まだ、よろしいでしょう?と軽やかな声に戻った
諒子の問いかけに後ろ髪を引かれつつ
松之と深町は、エントランスに戻る。
もう、暮れてしまった空から、ぼんやりと月明かり。
ステンド・グラスにはその冷涼な光が
昼間の光線とは異なった彩りを与えており
それは、どこか天上の存在であるかのような
神々しさすら感じさせた。
「綺麗ですね....。」深町は思わず感想を。




