であい
「え、じゃ....あの日、最初に出会ったお堀端、覚えてますか?」と深町が言う。
彼女は頷く。
「あの時、桜吹雪が見えネエカー!!って感じの中から来たでしょ?諒子さん」
その喩え、ヘンだよ、と、松之が返し、いいじゃねぇか、そう思ったんだから、と
掛け合っている様が可笑しいのか、彼女はくすくすと笑ってくれたので
深町はまた、上気して「そう、それで、桜の精みたいだって俺、思ってたんです」
そんなことないです、と、彼女がはにかむので、松之はなんとなく柔らかな気持ちになった。
ほんとうに,桜の花のようなひとだなぁ、と....
横顔を見ながら、とても幸せな気持ちになった松之だった。
scene #16 cut#3
その事を、松之は言えなかった。
いとも容易く、諒子さん、花のようです、
なんて言える深町の事を羨んだ。
「そうね、お二人は、風のようね。
音のようでもあるし...響き合って、自由で」
諒子は、そんな風に深町と松之の事を喩えた。
「素敵ですね、深町の変な比喩とはエライ違いだ」
「なんだよ、松。言葉はお前に任せてるって言ってるだろ」
二人のそんな掛け合いを、楽しそうに見、そして諒子は
「あら、柳さんって言葉担当なの?」
と、松之に。
松之は、ちょっとどぎまぎしながらも
「はい、一応文学部です。」と
やっとの事で普通に答えた。
どうしてなのだろう、深町とならいくらでも自然に話せるのに。
松之は、自分の気持ちが自由にならないことをもどかしく思った。
言葉、そうだ、手紙なら....。
「....あの、諒子さん?」
松之は、尋ねる。
「はい?」
「あの、僕....手紙が上手に書きたいと思ってるんです」
と、松之はやっとの事で口実を思いついた。
嘘はいけない。そんな風に思っていたが...
でも、その人の事を懸命に思っての事ならば
神様もお許し下さるだろう。
松之は、奇妙な理屈を引き出した。
だが、彼女に愛されたくてついた嘘だったら
それは嘘、と言うよりは..
愛すれば故の行為、だろう....。




