感じ
scene #16 cut#2
友の視線に気づいた深町は、嬉々と手を振る。
「りょーこさーん、こっちこっち!」
誰もいない浜辺とは言え、あまりの大声に松之はちょっと驚いた。
勿論、それは彼女も同じ。
びっくりしてこちらを見ている。
スラックスにニットのシャツがスポーティ。
犬のお散歩用ウェアなのか、至ってシンプル。
そのスタイルだと、キャンパス・メイトの女子たちに混じっても違和感がないな
と深町は思った。
大きな白い日本犬は、リードにつながれておらず
吠えながら深町に向かって走ってくる。
「わ、と、と....助けてくれー?」犬は、深町の悲鳴?をよそに、彼の足下に立ち止まり
しっぽを振っている。
「ごめんなさい、驚かせて。」彼女は、涼やかに。
「あの、僕等を覚えてますか?」松之は、やっとの思いで言葉を発したが
声はやや、震えていた。
「はい、あの...いつかの日曜日の。」と、にこやかに答える。
深町は嬉しくなり、「そうです。あの時は合奏をありがとうございます。」と
ややオーバーにお辞儀をする。
砂混じりの風は穏やかになる。もう、夕凪だろうか。
「あ、あの...りょうこさん、でしたよね。」と、松之はまた、すこし遠慮がちに言う。
ハイ、と、意外にはっきりと答えるので、深町は、親友の手助けをしようと...
「どんな字なんですか?あ、僕はふかまち...深い町、Deep- Townですね。
あ、これじゃ字がわからないか...。」と言うと
彼女は楽しそうにくすくすと笑う。そうですね、と言いながら
砂浜に綺麗な指で 諒、子、と記した。
流れる砂がFinger-Paintingsのように、松之には感じられた。
モノ・クロオムの濃淡が、抽象絵画であるかのように。
それは幻想である。しかし、人生のある時期
そうしたromantisizmに囚われるのも大切な事だ.....。
「俺はまた涼子さんかと思った。ふーん、難しい字なんですね。」
と、深町が言うので
松之は「難しいか?あ、書き順が?」なんて、つい、いつものペース。
深町は負けずに「ま、書けるさ、レンシュウすればな」と。
レンシュウしなきゃ書けないのか?と、松之はリラックスしてきた。
「とっても仲、いいんですね。」と。彼女は涼やかに微笑むので
松之も深町も嬉しくなる。 やはり、美人の微笑みは良いものだあ...なんて思いながら。
「あ、苗字はなんて言うんですか?」と、深町はあつかましくも聞くが
彼女はにこやかに、「さくらい、と言います。」
桜....
松之は、出会った時の、あの、桜花舞い散る情景を思い浮かべていた。




