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宵の白鷺と千年の恋  作者: 若草 玻璃
生徒会への勧誘

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9

「あらぁ? 皆さんおそろいで」


 のんびりした声が頭上から降ってきた。


 宵たちの頭上、二階にある生徒会室の窓から、あやめが頬杖をついてその様子を見下ろしていた。


「かっ、会長……!」

「ピクニック? 早速新入生と交流を深めようだなんて、さすがは近衛さんたち」


 そう言うと、あやめが窓から身を乗り出す。

 宵と瑞葉の上に木陰を作っていた大木に手を伸ばすと、そこに勢いよく足を掛けて。


「きゃあああっ」


 その場の全員が悲鳴を上げる中、あやめは二階の窓から、なんと、ひ(・)ら(・)り(・)と(・)舞った。


「よいしょ、と」


 軽々と地上に降り立つと、着地の際に着いた両手をパンパンと払い、立ち上がって宵たちに向かいニコリと笑う。


「こら、あやめ。無茶をするな」


 あやめが降りて、否、飛んできた窓から暁が慌てた様子で顔を出した。

 それを見た先輩たちが全員、さらに悲鳴を上げる。


「大丈夫!」


 あやめが二階を見上げて問題ないと言うように右手をかざす。

 暁は肩を竦めるだけだった。


 生徒会室のある棟は特別教室が並んだ棟で、校舎のある棟とは違い、少し天井が低くなっている。

 とはいえ、二階の窓からダイブはかなり危険である。

 宵があやめに近付くと、あやめは宵の手を握って近衛に向かって言った。


「ね、私もまぜてよ」


 急な参加表明に先輩たちが一歩、二歩と下がっていく。


「えっ? あの……」

「私がまざると、都合悪いかな?」


 あやめが小首を傾げてそう言うと、先輩たちは鳩が豆鉄砲を食ったようにあわてふためき。


「あ、いいえ、その、そろそろ次の授業の準備がありますので……私たちはこれで!」


 もうすでにあってないような体裁を取り繕うと、彼女たちは風のように去っていった。

 残された宵、瑞葉が瞬きを繰り返し、そしてあやめを見る。


「あれ、行っちゃったね」

 何もなかった顔をして、あやめがニッと笑った。


「ちょ、ちょちょ、会長!危ないですよ、あんなところから!」

「そそ、そうです!び、びっくりしました……!お怪我はありませんか?」


 瑞葉と宵が確認するが、あやめの長く美しい手足はびくともしていない。

 すごい運動神経だ……と二人は感心する。

 生徒会室の窓にいた暁の姿はもうすでになくなっていた。


「あの、会長。助けてくれてありがとうございました」


 宵があやめに向かって頭を下げると、あやめはまた首を傾げる。

「なんのこと?」


 その返答に宵はあやめをまじまじと見つめた。

 いつから見ていたんだろう。先輩たちが来てから? それともその前から?

 ……もしかして、聞いていた? 宵が瑞葉にどんな説明をするのか。

 気付いた? あのとき、一瞬力を使いそうになったこと。


 ほんの一瞬、思案に耽ったそのとき、あやめが宵を呼んだ。


「宵ちゃん」

「はいっ」

「……て、呼んでもいい?」


 あやめが少し身をかがめて宵を正面から覗き込んでくる。

 髪がはらりと頬にかかって、その卵型の輪郭を隠した。瞬きをする長いまつ毛の下の、灰色がかった瞳がいたずらに光って宵を映し出す。


「……も、もちろん、です……」


 ああ、どうしてそんなに美しいのにかわいいの?

 緊張で言葉尻が窄んでいく。


「ありがとう。宵ちゃんもあやめって呼んでね」


 そう言うと、あやめはひらりと手を振ってまた生徒会室へと戻っていった。

 その背中を見送った宵はその場に立ち尽くし――。


 その感情をどう処理すればいいのか。

 あやめに見つめられて速まった鼓動を、瑞葉と手を握り合って分かち合った。


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