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「あらぁ? 皆さんおそろいで」
のんびりした声が頭上から降ってきた。
宵たちの頭上、二階にある生徒会室の窓から、あやめが頬杖をついてその様子を見下ろしていた。
「かっ、会長……!」
「ピクニック? 早速新入生と交流を深めようだなんて、さすがは近衛さんたち」
そう言うと、あやめが窓から身を乗り出す。
宵と瑞葉の上に木陰を作っていた大木に手を伸ばすと、そこに勢いよく足を掛けて。
「きゃあああっ」
その場の全員が悲鳴を上げる中、あやめは二階の窓から、なんと、ひらりと舞った。
「よいしょ、と」
軽々と地上に降り立つと、着地の際に着いた両手をパンパンと払い、立ち上がって宵たちに向かいニコリと笑う。
「こら、あやめ。無茶をするな」
あやめが降りて、否、飛んできた窓から暁が慌てた様子で顔を出した。
それを見た先輩たちが全員、さらに悲鳴を上げる。
「大丈夫!」
あやめが二階を見上げて問題ないと言うように右手をかざす。
暁は肩を竦めるだけだった。
生徒会室のある棟は特別教室が並んだ棟で、校舎のある棟とは違い、少し天井が低くなっている。
とはいえ、二階の窓からダイブはかなり危険である。
宵があやめに近付くと、あやめは宵の手を握って近衛に向かって言った。
「ね、私もまぜてよ」
急な参加表明に先輩たちが一歩、二歩と下がっていく。
「えっ? あの……」
「私がまざると、都合悪いかな?」
あやめが小首を傾げてそう言うと、先輩たちは鳩が豆鉄砲を食ったようにあわてふためき。
「あ、いいえ、その、そろそろ次の授業の準備がありますので……私たちはこれで!」
もうすでにあってないような体裁を取り繕うと、彼女たちは風のように去っていった。
残された宵、瑞葉が瞬きを繰り返し、そしてあやめを見る。
「あれ、行っちゃったね」
何もなかった顔をして、あやめがニッと笑った。
「ちょ、ちょちょ、会長!危ないですよ、あんなところから!」
「そそ、そうです!び、びっくりしました……!お怪我はありませんか?」
瑞葉と宵が確認するが、あやめの長く美しい手足はびくともしていない。
すごい運動神経だ……と二人は感心する。
生徒会室の窓にいた暁の姿はもうすでになくなっていた。
「あの、会長。助けてくれてありがとうございました」
宵があやめに向かって頭を下げると、あやめはまた首を傾げる。
「なんのこと?」
その返答に宵はあやめをまじまじと見つめた。
いつから見ていたんだろう。先輩たちが来てから? それともその前から?
……もしかして、聞いていた? 宵が瑞葉にどんな説明をするのか。
気付いた? あのとき、一瞬力を使いそうになったこと。
ほんの一瞬、思案に耽ったそのとき、あやめが宵を呼んだ。
「宵ちゃん」
「はいっ」
「……て、呼んでもいい?」
あやめが少し身をかがめて宵を正面から覗き込んでくる。
髪がはらりと頬にかかって、その卵型の輪郭を隠した。瞬きをする長いまつ毛の下の、灰色がかった瞳がいたずらに光って宵を映し出す。
「……も、もちろん、です……」
ああ、どうしてそんなに美しいのにかわいいの?
緊張で言葉尻が窄んでいく。
「ありがとう。宵ちゃんもあやめって呼んでね」
そう言うと、あやめはひらりと手を振ってまた生徒会室へと戻っていった。
その背中を見送った宵はその場に立ち尽くし――。
その感情をどう処理すればいいのか。
あやめに見つめられて速まった鼓動を、瑞葉と手を握り合って分かち合った。




