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新しい生徒会役員誕生の噂が校内を駆け巡ったのは昨日のことだった。
どうやら、ひと際目立つ容姿の女子生徒が会長とともに生徒会室へ入っていくのが目撃されたらしい。
生徒会室に入ることができるのは、ごく限られた生徒と、ごくわずかな機会だけ。
新入生がなんの理由もなく立ち入ることなど、ありえない。
近衛麗香は、そんな栄光に与る生徒の顔をひと目拝んでやろうと、火曜日の朝、正門前で待っていた。
昨日は徒歩で登校していた、と情報もすでに入手済みである。
麗香は生徒会の自称ファンクラブ会長である。
もちろんその存在は生徒会役員たちには知られていない。
このファンクラブを創設したのは、昨年の二学期に藤堂あやめが会長に、そして鷹宮暁が副会長に専任されてすぐのこと。
中学時代から麗香がひそかに心を寄せていた暁が、まさか高校入学と同時に生涯の主人――つまり恋人(と、麗香を含め多くの者が思っている)――を決めてしまうなんて、夢にも思わなかった。
気持ちを打ち明けたことなどありはしないが、それでも裏切られた気になった。
許せなかった。どうして急に? これまで暁が女子生徒を目に留めたことなどなかったではないか。
けれど、選ばれた外部生・あやめをはじめて見たときに、並び立った二人の圧倒的でいて静かな存在感にひと目で、ああ、これは運命なのだと悟った。
麗香が暁の隣に並んだとして、あんなふうにそこに在るのが当たり前のような顔はできない。
まして、あの暁を後ろに従えることなど、とても普通の人間にできることではない。
そうして麗香はあやめと暁を応援する会を密やかに設立したのだった。
――そんな二人に近付くのが一体どんな女生徒なのか。
確かめなければ麗香の気が済まない。
ファンクラブ会員数名とともに早朝からずっと待っているのだが。
「……来ないわね」
「どうしたのかしら……」
顔さえ知らないが、銀色の髪の少女など、一発で見つけられるはずなのに。
まさか、今日に限って休みなんてことは。
結局、麗香は予鈴が鳴るまでその存在を見つけることはできなかった。
その頃。南門に車をつけてもらうと、宵はそのまま校舎の中に入った。
黎明学園では、徒歩通学者は正門から、車通学の場合は南門に車寄せがあり、どちらからでも校舎内に入れるようになっていた。
昨日までは人目を気にして、送りの車を途中で降りて徒歩で登校していたのだ。
けれど、今さら登校を地味にしたって、どうせもう目立ってしまっているのだから、車でそのまま連れて行ってもらうことにした。
車で登校する生徒はやはり限られていて、時間帯を選べば門前渋滞もほとんどない。
昨日は授業が終わった瞬間、教室を飛び出して近くまで来ていた迎えの車に飛び乗った。
おかげで誰かに捕まることなく帰り着くことができたのだが、今日はそうも行かない。
少なくとも、瑞葉とはちゃんと話をして、元通りに戻りたい。
――改めて、友達になりたい。
意を決して教室の戸を開けると、すでにクラスメイトたちが待ち構えていた。
「お……おはよう……」
おずおずと挨拶をする宵を途端に取り囲む。
「白鷺さん、生徒会に入るんだって?!」
「えっ? いや、まだそうと決めたわけじゃ……」
「勧誘されたんでしょ?! 副会長から直々に!」
「なんで?」
「副会長とは昔からの知り合いだったの?」
「どういう関係?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、宵が縮こまる。
一般生徒には生徒会の仕組みは知らされておらず、あくまで先代からの指名制、ということになっている。
現会長はあやめだが、元々先代会長からは暁が新会長に指名されていた。
暁が、自身が主人と認めたあやめが会長、暁が副会長でなら、ということで引き受けて今の形になった。
……というのが表向きに周知されている経緯だそう。
鷹宮、白鷺、鴉森に連なる生徒が学園に在籍している場合、生徒会役員に選任するという学園の暗黙のルールは、内々に、連綿と現代まで続いてきた。
そのため、宵が勧誘された理由はたったひとつ。
白鷺家の人間だから。
とはいえ、白鷺がどんな存在か、なぜその三家だけなのかを説明するわけにはいかない。
「えっと、えっとぉぉ……」
瑞葉に説明することだけを考えていて、クラスメイト用の説明は考えていなかった。
半ばパニックになりそうだったそのとき、後ろから制止の声がかかった。
「はい、ストーップ」
宵の背後に、今来たばかりと思しき瑞葉が立っていた。
「宵ちゃんが困ってるじゃん。昨日、聞いてたでしょ、鷹宮副会長の親戚だって」
瑞葉が宵の前を塞いでいた生徒の前に出て、道を開ける。
「それなら生徒会が宵ちゃんを気にかけるのも当然でしょ? この学園、外部からの新入生少ないんだから」
瑞葉が振り返り、宵の手を取る。
「行こ、宵ちゃん」
瑞葉に手を引かれてやっと人垣を抜け、二人は自席に着いた。
「瑞葉ちゃん、あの……」
口ごもる宵を前に、瑞葉は首を振る。
「昨日はごめん。変な態度取っちゃった」
さっぱりとした謝罪。そのシンプルさがかえって宵には心地よかった。
「ううん、それは、私がちゃんと言わなかったからだよ。……説明させてくれる?」
そう言うと、瑞葉は嬉しそうに頷いてくれた。




