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《章典祭四日目 文化祭二日目》
いよいよ章典祭のラストスパート。明日は片づけと後夜祭のみなので、実質的には今日が最終日のようなものだった。千歳と万理のクラスでは、お化け屋敷が開催されていた。
「うらめしや~~」
「きゃああああ!」
暗幕で光を閉ざした教室の中である。
段ボールと発泡スチロールを駆使して作られた迷路の一画で、白い布を被った万理が客を脅かしていた。万理だけではなく、所々で脅かし役が活躍している声が順に聞こえてくる。
当初はこんな子供騙し、と思ったものだが、迷路に入る前にホラー映像を見せて客の不安を煽ってから送り出すことで、面白いように悲鳴が上がる
今朝から何人か脅かしたところで、後ろから声が掛かった。
「万理、交代」
「ふい~」
「おつかれ」
クラスメイトに白い布を渡して、迷路を出る。明るい廊下に出ると目が眩しくて思わず何度か瞬いた。
制服は汗でびっしょりである。仕切ってしまったせいでエアコンの風が全く届かないのだ。その暑さがかえって夏の夜を演出してくれるけれど、脅かし役としては酷な労働環境であった。
一旦、生徒会室に行って涼もう。シャツのボタンを外しつつ足を向けた先で、またも後ろから呼び止められた。
「万理」
「あ、千歳。もう仕事はいいの?」
「ええ。この後、午後から動かなきゃいけないから、今のうちにお昼にするの。ていうか、どうしてシャツを脱いでるの」
ランチボックスを手にした千歳と、すっかり濡れたシャツを脱いでタンクトップ姿になった万理は連れ立って歩き出した。向かうところはひとつである。
「教室の中、超蒸し暑くて。ずっと脅かし役してたらもうびっしょり」
「そう。それはおつかれさま」
「そっちも」
廊下を歩いていると万理に向かって女子生徒たちが歓声と共に手を振る。千歳は動じることなく、一歩前を歩く。
万理が手を振り返していると、その先に小夜の姿があった。
瑞葉と二人きりのようで、千歳と万理は周囲を見回した。
「小夜」
「あ、万理と千歳ちゃん」
「小夜さん。午後からは撤収の準備にかかりますので、早めにお昼済ませておいてくださいね」
「はぁい」
「ところで、宵ちゃんは?」
万理の質問に、小夜と瑞葉は心配顔になった。
「体調が悪いから、休んでるって。私たちも気を遣わせたら悪いと思って別行動してる」
「あら。それは心配ですね」
「珍しいね」
「明日の後夜祭もあることですし、今日は委員会のことは気にせず休んでと伝えてください」
「うん。回復しなさそうなら帰るように言っておくね」
小夜と瑞葉と別れ、二人は再び生徒会室へ歩き出した。
ここのところ、宵はずっと忙しく立ち回っていたが、いつも楽しそうにしていた。宵が来てから半年。最初は毛を逆立てて威嚇する子猫みたいだったのに、居場所を得てすっかり慣れ親しんだ様子で千歳の下、仕事をこなしてくれる。
はじめは、鳥の三家の子ということで警戒していた。
朝日の子だということはわかっていても、白鷺のことは一番よくわからなかったからだ。鴉森は警戒対象。鷹宮と敵対する可能性があるのがわかっていたから。
けれど白鷺は、いちばんわからない|。
それなのに、宵はずっと、ただの普通の女の子だった。合宿での鷹宮の力の暴走に対して、『ときを止める』というあまりに突飛な力を示したこと以外は。
あれ以来、三家の問題は表立っては膠着状態だ。三家会議で決まった情報収集が、実質宵の『記憶の覚醒待ち』だということは誰も口にしないが、明らかだった。
「……章典祭が終わったら、宵ちゃんは白鷺の記憶の継承をしなきゃならないんだよね」
渡り廊下に差し掛かると、途端に人の気配が消える。万理が前を向いたまま言うと、千歳が見上げてくる。
「どうしたの? 急に」
「別に。気になっただけ」
「……そうね。暁さまがそう言っていたわ」
「記憶を継承したらさ、宵ちゃん、変わっちゃうのかな」
自分じゃない人の記憶を持つ。それも、ずっとずっと昔からの。
それはどういう感情なのだろう。そんなものを抱えながら、自分の人格を保つことなどできるんだろうか。
それとも……白鷺は、ずっとひとりなのか。過去の白鷺も、今の宵も、みんな同じなんだろうか。
生徒会室に到着し、万理がドアに手を掛けた。瞬間、うわ?! と声が出た。
隙間から閃光が目を刺して、思わず千歳を背中に庇う。光は一瞬で収束していき、強く閉じていた目を開けるとそこには。
「よ……宵ちゃん……?」




