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その後もクラス展示や模擬店を冷かしながら下校時刻まで三人で学園祭を遊びつくして、宵は帰宅した。
出張で一週間ほど自宅を留守にしていた清貴と、久しぶりに食卓を囲んでいたときだった。
登世子が作ってくれた夕食のチキン南蛮を口に入れて、その甘辛いタレの味をじっくり噛み締めていると、唐突に清貴が章典祭はどうかと聞いてきた。
「入学パーティーといい、章典祭といい、ずいぶん行事も派手なんだろうね」
「うん。すっごいよ。体育祭も種目多いし、応援団の衣裳とか、文化祭の出し物の衣裳もクラスごとに違ってて、本格的なの。食べ物のお店も多いし」
「へえ。僕も行きたかったなぁ。仕事がなければ行ったんだけど」
「いいよ来なくて! どうせうちのクラスは展示だけだし、私も委員会の仕事でバタバタしてるもん」
白米とお味噌汁を順番に口へ運ぶ。清貴は、少し寂しそうな顔をした。
「そうか……」
「もう親が来る行事なんてほとんどないんだってば」
「そう……だよね。運動会も、発表会も、もうないんだなぁ……」
泣きそうな顔で言う清貴に宵は呆れた。たまの外出はあれど、ほぼ毎日こうして家で会っているのに、これだけ成長した娘の何をこれ以上に見たいのだか。
「次は卒業式かなぁ」
「遠いなぁ、再来年じゃないか……。それはそうと」
なんとか気持ちを切り替えたらしく、清貴は箸を置いた。そして、硬い口調で、宵、と呼んだ。
「……来週の、島根への準備も進めているかい?」
「あ、うん。今週末、必要なものは買い足しに行くつもりだよ」
「……そう。近くにお店のない場所だから、十分に用意していくんだよ。もちろん、必要なものは用意してくれているだろうけど」
宵は頷いた。来週から島根にある白鷺の本家へ行くことになっている。母の葬儀で一度会っただけの、親族の家。清貴は共に行くことができない。
母の死を前に呆然と立ち尽くす宵の足元に跪いた、親族たち。
わけがわからない宵に伝えられたのはたった一言だけだった。
『神在月にお出ましを』
それが何を指すのかわからないまま、宵は導かれるままにただ行くのみ。
そこで何が待っているのか、何が起きるのか、宵には想像もつかない。ただ、この話をするときは清貴の顔がいつも曇っている。
これだけで、宵の不安は募るのだった。
お風呂を済ませ、部屋に戻ると布団が敷かれている。
髪を乾かし、横になるとすぐに睡魔はやってきた。微睡ながら、宵は考える。
本家のこと。母のこと。そして、ここのところ姿を見せない神さまのこと。久遠さま。会いたくて何度か社に顔を出したが、社はなんの変化もなく、ただ静まり返るだけだった。
どうして会えないのか。どうして宵にはわからないことばかりなのか。
学校行事で忙殺されるのは、その時間だけは思考を止められるから宵にとってはかえって良かった。
少しでも余裕ができれば、どうして、どうしてと、とめどなく考えてしまう。今、このときも。考えながら目を閉じると、宵は連日の疲れからか心地よい眠りに落ちていく。
気付くと、宵は家の庭に立っていた。
おそらく、夜も深い頃。月は見えない。星もまばら。暗闇の中で宵は目を凝らす。
ひとには見えなくとも、宵の目には、社の奥の古びた小さな小屋がはっきり見えた。見たことのない小屋だ。知っている場所なのに、知らない建屋。人の話し声が聞こえて、宵は無遠慮に近付くとその中を覗いた。
中には木製の牢。いくつも並ぶ木の柱を挟んで、外側で泣く女性と牢の内から慰める女性。彼女たちは二人とも、宵と同じ白銀の髪をしていた。
「久遠さま以外のひとに触られるなんて、耐えられない」
外側の女性――まだ、少女と呼べる年頃かもしれない。宵よりは少し年上だろうか。彼女が顔を覆って泣き崩れた。牢の中のもう一人の少女が手を伸ばして腕を撫でる。
「真宵……」
「どうして私なの? どうして私が子など産まねばならないの? 私は久遠さまとずっと一緒にいたいだけなのに」
久遠。その名に、宵は静かに驚く。彼女たちは、久遠を知っている。宵は動けない。
暗がりの中でも彼女たちの輝くような銀白色の髪が悲劇に揺れる。か細い嗚咽がいつまでも続くと思われたそのとき、もう一人の女性が柱ごと泣く少女を抱きしめる。
「真宵……泣かないで。私が代わりに、子を産むから」
「そんな……真昼、そんなこと」
「私たちの代で血を途絶えさせるわけにはいかないわ。お相手は私も真宵もわからない。入れ替わってるなんて誰も思いやしないわ」
「でも」
「もう泣かないで。今晩、日が落ちたらこの牢の鍵をばあやから盗んでくるのよ。いいわね」
牢の中の少女が重そうな鉄の鍵を指さす。牢の外の少女がこくんと頷いた。




