↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宵の白鷺と千年の恋  作者: 若草 玻璃
章典祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/62

50

 体育祭は初日から大いに盛り上がった。


 あやめが熱望したパン食い競争は障害物走に組み込まれ、宵と万理が参加していた。高級パンとは、一斤千二百円の食パン4枚切りが一枚。宵はペロリと平らげていた。


 千歳と静夜は玉入れに参加していた。

 オレンジ色のクラスTシャツを着た千歳は文化祭の準備に体力を温存しておきたいと言って他の競技には参加していない。

 一人最低一競技に出る、というのが決まりだ。


 小夜は暁並みに、とは言わないがかなりの活躍を誇っていた。

 リレーでは前を走る三人をゴボウ抜き、目立つ容姿はそこにいるだけで男子生徒の士気を上げ、結果大縄飛びではクラスで優勝していた。


 あやめは二人三脚に出場し、まずまずの結果といったところ。あとは明日の男女混合リレーに出場するのみだった。


 暁は言うまでもなく八面六臂の活躍である。

 特に部活対抗リレーは大盛り上がりだった。部内でも足の速さに定評のある選手たちが各部のユニフォームに着替えて走る。もはや黎明の伝統とも言えるリレーだった。


 今年の参加部は、陸上部、サッカー部、テニス部、バスケ部、ハンドボール部、バレーボール部、相撲部、剣道部・フェンシング部合同。

 もちろん優勝候補は陸上部とサッカー部だ。薄いユニフォームは走るのに最適に見えた。


 一方で、相撲部、剣道部・フェンシング部合同の分厚い道着・全身を覆うユニフォームはなかなか屋外では見られない姿。

 派手ではあるが、リレーには向いてなさそうであった。普段とは違い、ユニフォームに運動靴を合わせている。


「位置について」


 部活対抗は4チームずつ行われ、各回上位2チームが決勝に進出、優勝が決まる。


 暁率いる剣道部・フェンシング部合同チームはなんとか上位2チームに食い込んだ。

 と言うのも、優勝候補2チームと違う回で走っていたからだった。


 決勝は、陸上部、サッカー部、テニス部、そして剣道部・フェンシング部合同チーム。


 あやめは静夜、千歳、万理と共にグラウンドに降りて、コーナーの最前面に陣取った。スタート地点に並ぶ選手を見て、あやめは苦笑した。


「道着、暑そうだね」

「そうですね。こればっかりは……」


 リレーは四人で行われる。暁はアンカーだ。BGMとアナウンスでいよいよリレー開始の空気になる。


「位置について、用意」


 ピストルが空砲を放つと同時に、天国と地獄が流れ始める。トラックの周りを囲んだ生徒たちの大歓声が地面を揺らすようだ。


 やはり陸上部は圧倒的に速い。あやめたちの前を四人の選手が次々と風のように走り去って行った。

 あっという間に一周すると、次の選手にバトンが渡る。


 サッカー部も負けていない。その後をテニス部、剣道部・フェンシング部合同チームが追う。今走っていったのはフェンシング部の部員で、全身真っ白のスーツはさぞ暑そうだった。


「みんな、がんばれー!!」


 普段は大声など出さない物静かな生徒も、この熱狂に当てられて一生懸命に応援している。

 多くの歓声に混じって、自分の声など掻き消されるからだ。だから、恥ずかしくない。あやめは一瞬、応援する生徒たちの方をぐるりと見回した。

 普段では感じられない一体感。心が自然と高揚する。


 バトンは三人目に渡った。順位は変わらず、陸上部、サッカー部、テニス部、そして剣道部・フェンシング部合同チーム。

 陸上部とサッカー部が競り合っている。テニス部が徐々に前二組と距離を詰める。そうしている間にも、アンカーの選手がトラックに並んだ。


 ――暁が出てきた。一番外側に並んで、前の選手が来るのを待っている。


「いよいよですね」


 いつもより少し興奮した様子の千歳があやめを振り向く。万理も静夜も前のめりになった。

 サッカー部、陸上部、テニス部の順にバトンが渡り、最後に、暁にバトンが渡った。暁が力強く地面を蹴って、飛び出す。


「暁ーーっ」


 あやめが叫んだ。歓声に掻き消されるけれど、胸の前で手を組み合わせて応援する。

 リレーって、どうしてこんなにもドキドキするんだろう。普段はそんなに仲の良いわけじゃない生徒でも、頑張っている姿を見れば応援したくなる。

 仲の良い友達や、好きな人のそんな姿を見れば、なおのこと。


 紺色の道着はつとに目立つ。バサバサと袴をはためかせて、暁は一瞬であやめたちの前を通り過ぎていった。


 その一瞬、確実に、暁はあやめを見た。目が合った。どきり、と、あやめの胸が鳴った。


「速い、速いぞ剣道部! どんどん迫ります! テニス部が逃げる! サッカー部、もう少し! 陸上部、逆転できるぞ! あ、あーっと! テニス部が抜かされた! 紺色の道着が陸上部に迫る! がんばれ!」


 暁と目が合った瞬間に消えた音が、アナウンスで戻ってくる。暁は二人を追い抜いて、二位につけていた。


「きゃあっ、暁さま、抜きましたね!」


 千歳に腕を掴まれて、あやめはこくこくと頷く。そのまま、サッカー部の選手がゴールテープを切った。一足分遅れて、暁もゴールする。


 割れるような大歓声。暁は部員たちや一緒に走った選手たちと笑い合っている。

 ――笑ってる。暁が、無邪気に。


 あやめは微笑んだ。暁が楽しんでいる。それが嬉しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。