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《章典祭初日 体育祭初日》
朝も早くから軽快な音楽が校庭に響く。
グラウンドの中央には陸上トラック、トラック脇には本部テント、来賓席、放送席、救護所が設置されていた。
章典祭初日の体育祭は快晴の下、全生徒がグラウンドに集合し、今まさに始まろうとしていた。
「選手宣誓。代表、生徒会長兼体育祭実行委員会委員長、藤堂あやめ」
「はい」
放送部の平坦なMCに呼ばれ、あやめは声を張って返事をしてから前に出た。
用意されたスタンドマイクの前に立つ。見渡せば、それぞれのクラスごとに決められたTシャツを着て参加する生徒たちが整列している。
それはそれはカラフルで圧巻であった。黄色のクラスTシャツを着たあやめは右手を上げる。
「宣誓。私たちは、スポーツマンシップに則り、今日までの練習の成果を存分に発揮し、正々堂々と闘うことを誓います」
宣誓し、また列に戻る。
十月の午前中でも太陽はギラギラと照り付けていて焦げそうなほどだ。開会式は早々に終わり、生徒たちはグラウンドの外側をぐるりと一周する観覧席に戻ると各々にタオルや日傘などで熱中症対策を取るのだった。
「第一種目、オープニングダンス。参加者は第一ゲートに集合してください」
放送で呼び出された男女含めた十数人が中央に列を作る。空を突き刺すホイッスルの音から始まる、有志によるオープニングダンスでいよいよ体育祭は幕を上げた。
「あやめ」
クラスの友達と、静夜と一緒に固まって座っているところに暁がやってきた。
もちろん、あやめと同じく黄色のTシャツを着用している。あやめは立ち上がって客席から通路に出る。
「あれ、もう早速?」
「ああ。この後しばらく続くから、下にいる」
体育祭の期間中、暁は競技に出ずっぱりだ。学年別の100m走から始まり、クラス対抗綱引き、棒引き、部活対抗リレー、大繩、騎馬戦等々。
二日間、多くの時間をグラウンドで過ごすことになる。全身がバネと運動神経でできているような男だ。
「近くで応援するから、がんばってね」
「ああ。あやめも、ちゃんと水分摂って」
「うん。暁も」
あやめが手を振ろうと片手を上げたとき、暁が不意に顔を近付けて耳元で囁いた。
「……じゃあ、あとで」
暁はぽつりとそれだけ言ってグラウンドへ下りていった。
何、今の。
暁の背中をぼうっと見送っていると、視線を感じて振り返った。静夜と、クラスメイトの女子たちがこちらを見ている。その中の一人が口を開いた。
「なんか久しぶりだね、この感じ」
「この感じ?」
「鷹宮くんがあやめに甘いの」
あやめは首を傾げた。
「最近、章典祭の準備で忙しくて、二人でいることほとんどなかったじゃない。静夜くんといる方が多かったよね」
周りの女子たちが同調する。たしかにここ一ヶ月、暁と二人でいる時間はほとんどなかった。直近で二人きりになったのは、先日のカフェでくらいだ。こんなに離れているのは、知り合ってから初めてかもしれない。
「でも、まだまだ忙しそうだね」
「ねー、さみしいでしょ」
「まあね」
あやめは曖昧に笑った。
周囲は暁があやめに甘いと思っている。でも、実際には暁からあやめに触れたり、パーソナルスペースまで踏み込んだりなんてことは一度もない。
いつもそこに手を伸ばすのは、あやめの方だった。なのに。
……急に、暁の息が触れそうなほど近付いた耳が熱くなる。
あれは、いったいなんだったんだろう。
さりげなく髪で耳を隠して席に戻り、談笑に混ざりながらグラウンドを見ていると、今度は別の声が掛かった。
「会長!」
抹茶色のTシャツを着た、隣のクラスの男子生徒が駆け寄ってくる。話したことはないが、たしか学年テストでは毎回成績優秀で有名な男の子だ。
「えーと……石原くん」
「はい! 俺のこと、知っててくれたんですか」
あやめは二年生全員の名前を覚えている。
三年生、一年生もできるだけ覚えようとしているが、接点がないために覚えきれない。生徒会にいる以上、在校生はできるだけ覚えるようにしていた。
「あの……、後夜祭のことなんですけど」
「うん?」
「俺と……ダンスを踊ってくれませんか!?」
後夜祭のダンスパーティーのお誘い。
あやめは一瞬固まってしまった。暁以外の男の子からのお誘いはこれまで経験がない。
というか、暁のはお誘いというか、予定調和に近しかった。なんとなく、騎士と主人・会長と副会長という立場上、二人でいるのが決まっていたというか。だから、他の人と踊るなんて考えたことがなかった。
「ええと……」
いきなり断ってしまうのもどうだろうか。少しでも考えた方がいいのだろうか。
返事に窮していると、客席にいた他の男子生徒から待ったの声がかかった。
あっという間に目の前にカラフルな五人の勇者が出揃う。
「俺とも踊ってください!」
「副会長の次で構いません!」
「一生に一度だけでも!」
「どうか!」
一斉に頭を下げた勇者たちから右手が差し出された。誰に誘われたって結果は変わらない。
あやめはもちろんすべて断るつもりでいたが、何やら強烈に視線を感じてグラウンドに目をやると、暁がこちらを凝視している。
「暁」
あやめの一言に、男子生徒たちが顔を上げて、あやめの視線の先を辿る。
「あ~、鷹宮くん、怒ってるねぇ」
後ろで傍観していた静夜があやめの隣に現れた。
「ちなみに、鷹宮くんの次は僕ね」
「静夜くんまで」
静夜の登場に、今度はその周辺にいた女子生徒たちも会話に加わる。
「私も鴉森くんと踊りたいなぁ」
「私も!」
「じゃあ順番決めよう、鴉森くんと踊りたい人!」
「はい!」
「会長!」
「お願いします!」
男子も女子も好き勝手に話を膨らませていく。どう収拾しようか、あやめと静夜が顔を見合わせたそのとき。
「間も無く、学年対抗100mリレーです。選手の皆さんはゲートに集まってください」
アナウンスが次の競技の間も無くの開始を告げた。クラス関係なく学年の100m走の記録順上位八名によるリレーだ。
「あ! 暁が出るから応援行かなくちゃ! それじゃ、この話はここまで。解散!」
あやめはそそくさと鉢巻きを手にグラウンドへと逃げ出すのだった。




