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宵の白鷺と千年の恋  作者: 若草 玻璃
鴉の巣

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「ププ。王子だって。ウケる」


 1年B組の宵の前の席に座って、学園新聞を手にした小夜が宵に新聞を開いて見せる。


「ねえ、この写真、ちょっと上手くない? 私のビジュがいい」

「小夜ちゃんはいつでも可愛いよ」

 宵は呆れながら頬杖をついた。A組になった小夜が宵のいるB組へ通い詰めるようになって三日。初日にその見た目から近付いてきた男子生徒たちを「静夜より顔がよくない男は私に話しかけないで」という断崖絶壁の如く超絶毒舌を放って打ち倒し、さらに女子生徒たちに向かっては「友達は宵ちゃん以外不要」と鉄壁の拒絶。宵と小夜の周りだけぽっかりと穴が空き、宵が入学してすぐの孤立状態の再演、という状態だった。


「うわ、今日も来てるの? ほんと、神経図太すぎない?」

 おはようの挨拶の前に、こちらもなかなかに辛辣な発言をする瑞葉が登校してきた。

「おはよう、瑞葉ちゃん」

「おはよう。何見てるの?」


 小夜が学園新聞を宵の机の上に開いた。一面記事の中央に、どどんと鴉森兄妹の写真がカラーで掲載されている。

「私と静夜」

「これがお兄さん?! 兄妹揃って顔面つっよ……ていうか、オシャレ」

「そう? はーあ。静夜なんて大したことないのに、この学園で静夜と並べるのは暁くんくらいかぁ。世の中、大した男はなかなかいないね」


 小夜がつまらなさそうに言うので、宵と瑞葉は苦笑するしかなかった。小夜にとっては静夜も暁も大したことはない、らしい。


 瑞葉と小夜は、宵の友達の座を巡って小夜の転校初日にすでにバトルを繰り広げていた。

 自分の友達は宵だけでいい、と言い張るだけでなく、宵の交友関係まで己の意向通りにしようとする小夜に、相変わらずの高火力で瑞葉が応戦したのだ。


「宵ちゃんが誰と一緒にいようが、あんたには関係ないでしょ! そんなことまで制限するなんて、何様のつもり? 一人がいいなら一人でいれば。その覚悟もないなら黙ってそこにいなさい!」


 ……小夜はどうも、怒り返してくる気概のある人間が好きなようだった。瑞葉の一喝で、小夜は黙って宵と瑞葉と一緒に過ごすようになった。

 とはいえ。


「小夜ちゃん、そろそろ教室に戻らなきゃいけないんじゃない?」

「えええ。やだぁ。なんで宵ちゃんと一緒のクラスじゃないの?」


 小夜が宵の机に突っ伏して半泣きの声を出す。あんなに強気な発言ができるわりに、心を許すと甘えん坊な小夜の本性を見てしまえば、宵も瑞葉も小夜が可愛くて可哀相になる。

 この性格では、たしかに他で友達を作るのは難しそうだった。


「うーん。騎士だったら同じクラスにしてもらえるんだけどね。それ以外は仕方ないよ」

 瑞葉が何気なく言ったその言葉に、小夜がピクリと反応する。

「え? 騎士になったら同じクラスになれる?」

「え? いや、途中からはどうかはわかんないけど……」

「ふーん……」


 小夜は何かを考えるように視線を遠くにやり、そして立ち上がった。


「ま、いいや。お昼にまた来るね」

 意外とおとなしく自分の教室へ戻っていく小夜を、二人は見送ったのだった。


 章典祭で宵と瑞葉の所属する1年B組は、クラス全員で書いた書作をパズルのように一枚に繋ぎ合わせ、ひとつの絵を作り上げるモザイクアートを展示することになった。


 完成させるアートはその年の干支である午(うま)。クラスの全員が参加できるし、書を一枚書き上げるのは時間もかからない。事前の設計図を用意する必要はあるが、それに合わせて書いてしまえば、あとは章典祭の前週に繋ぎ合わせて完成させればいいだけなので非常に手頃な展示だった。

 宵は自分の書を手早く書き上げて提出した。その他の時間を生徒会の仕事に充てる必要があるからだ。そちらはやることが山積していた。


 夏休み前に行った、体育館でのステージを賭けたオーディションで勝ち抜いたチームの出し物の企画審査・検閲。

 学園内の屋台の位置決定、マップ作成、近隣住民への挨拶状・招待状の作成。


 パンフレット作成、ポスターの監修、正門前の看板の監修、食品衛生管理・ゴミ出しのマニュアル作成。

 備品の貸し出し・管理。放送部との連携。予算の使途は章典祭が終わった後に決算報告書として上げなければならないため、その下準備。


 その他、文化部が野外で企画するステージの可否確認、揉め事処理、打診や陳情への対応。などなど。


「いいですか、宵さん小夜さん。とにかく、一人でやらないことです。全部チームでやる、を心掛けてください。実行委員をフルに活用して、誰か倒れても誰かがリカバリーできる状態にすることが最も重要です」


 小夜が文化祭の担当に決まった日、千歳が神妙な面持ちで二人にそう言った。生徒会室の隣の空き教室には『章典祭実行委員会』の札が掲げられ、臨時の委員会専用教室となっていた。


「誰か、倒れても……」

 宵がゴクリと喉を鳴らした。小夜は興味なさそうに聞いている。

「最終目標は、開催すること。完璧は目指さずに、多少のトラブルは付き物と割り切る。そこを忘れずに、淡々とやっていきましょう」

 

 放課後。宵と小夜は、二学期最初の文化祭実行委員会に参加した。


 まずは千歳が途中参加の小夜の紹介をして、それからは夏休み前に行ったチーム分けに従って、各領域の進捗状況の報告と今後新たに増えていく仕事の分担を振り分けていく。


「生徒会は別々のチームに配属するからね」

「えっ?! せっかく宵ちゃんと一緒に動けると思ったのに!」

「文句言わない。わたしと千歳先輩のチームで、今お店の配置を考えてるから、小夜ちゃんはこっちのパンフレットを岡田さんと下山さんと一緒に作成進めてくれる?」


 宵がホチキスで留められた資料を小夜に渡して、パンフレットチームに置き去りにする。


「よろしくお願いします、鴉森さん。岡田です」

「下山です」


 チームの二人と、すでに別の話し合いを始めている宵を小夜はおろおろと見比べた。

 宵は振り向かない。助けを求めたくても、ここに小夜の味方は誰もいない。急に心細くなるが、パンフレットチームの二人がこれ以上どう小夜に接すればいいのかを迷っている様子も窺えて、小夜は息を吐き出した。仕方なしに二人と向き合う。


「……。…………私は何すればいいの」

「じゃあ、この昨年のパンフレットを元に今年の構成を考えていきましょう!」

 三年生の岡田さんが主導してくれる話し合いに、小夜も渋々参加し始めた。


 千歳と宵は夏休み前に申請されているクラス展示以外の出店申請書を元に、実行委員の半分でお店の配置を決定するミーティングを進めていた。小夜がなんとかパンフレットの内容を詰める話し合いに参加しているのを横目で見て、宵はほっとする。


「出店のテントは門から正門前のここまでで、両側6店舗ずつ、飲食はこっちにまとめて、飲食以外のブースはこっちに」

「文化部の展示・発表が行える教室はこの黄色のマーカーを引いている部分で、部室が小さいとか、普段は複数の部で共同で使っている場合とかを優先に割り当て」

「くじ引きですよね」

「じゃないと文句出そうよね」

「人数が多くて使ってる教室が大きい部はそのままそこ使ってもらうのがいいけど」

「昨年・今年で新設された部もあるので、その辺にも不公平がないように」


 話し合いの中で出た意見をホワイトボードに書き出し、それをスマホで撮影してパソコンで自動的に文字検出。

 作業や準備の必要なものを抽出して、それをチームに割り振り。

 くじ引きなどの委員会だけでは決定できない事項は近々に文化部や参加者の代表を招集して行う説明回の日程を決定。

 意見書を出せる目安箱を章典祭実行員会のこの教室に設置し、それ以降下校時刻までは、各々に割り振られた作業の時間に当てることとなった。


「小夜ちゃん」


 パンフレットの話し合いが終わった後、何をするでもなく教室の隅で一人ぼーっと委員たちが慌ただしくしているのを眺めていた小夜に、宵が声をかける。


「はい、じゃあこれ持って、一緒に来て」


 宵は段ボールを小夜に渡した。段ボールからはロール紙がはみ出している。中には絵の具やカラースプレーなどが入っていた。


「え、どこ行くの?」

「美術部。正門に飾る看板書いてもらうの。あと漫研に校内ポスターの追加の依頼と、舞台用に書道部に演目を書いてもらわなきゃいけないからそっちと、あとは」

 話しながら教室を出る宵を小夜が追いかける。

「小夜ちゃん、学内回った? ついでに案内するよ」


 肩口で揃えられた宵の銀白色の髪が、廊下を吹き抜ける風に揺られる。まだまだ暑い日が続くのに、宵のその白さだけは、まだ誰も踏んだことのない新雪を思わせるように涼しげ。


 抱えた段ボールだって普段なら文句を言いたくなるのに、宵と一緒にいられるならそのくらいはしようかな、という気になるから不思議だと小夜は思う。


「うん」


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