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クラスでの日程が終わると、暁はあやめと静夜を伴って生徒会室へと向かった。宵には小夜を連れてくるように声を掛けてある。千歳と万理も同様だった。
「生徒会への参加かぁ」
廊下を歩きながら静夜が面白そうに言う。すれ違う生徒たちの視線があからさまに静夜に集中しているのに、静夜は一向に気にする様子を見せない。
「鳥の三家全員が学園にそろうのは数十年ぶりだそうだ」
暁が前を向いたままそう言うと、静夜は相槌を打った。
「親世代は年齢が違うからね。でも、全員生徒会に入っているんだ?」
「そう聞いている」
あやめが両側を交互に見あげる。右手に暁、左手に静夜の並びだ。
「じゃあ、暁と静夜くんと宵ちゃんの親たちもこの学園の、生徒会出身てこと?」
二人が同時に頷く。
「天明さまが今は四十代後半、朝日さまが生きていればたしかちょうど四十くらい。で、うちの父が五十五だから、学園では全員ほとんど接点はなかっただろうね」
三人で話しながら生徒会室の特別棟に続く渡り廊下を歩いていると、後ろから宵の珍しく大きな声が届いた。あやめたちは立ち止まって振り返る。
「もーっ! だから何度も言ってるでしょ、そんなの無理だって!」
「なんでなんで! 納得いかないっ」
「先生に言ったって、もう決まったことなんだから」
「じゃあ、早暁さまに直談判しに行くもん!」
「理事長に言ったって、無理なものは無理なの!」
宵が言い合っているのは、静夜とよく似た艶やかな長い黒髪をゆるくウェーブに巻いた華やかな女の子だ。
「こら、小夜。何を駄々こねてるんだ」
静夜が宵たちに近付く。彼女が鴉森小夜。静夜の妹だった。
「久しぶりだね、宵さん。妹が騒がしくてごめんね」
「小夜ちゃんのお兄さん」
「静夜。と……」
小夜が静夜を見て、そしてその奥に佇むあやめと暁を見つけた。
「暁お兄ちゃん!」
小夜が暁に向かって走り寄ってくる。両手を広げると、暁の腕を掴んだ。暁は反射的に、手の平で小夜のおでこを押さえた。
「小夜。廊下は走るんじゃない。高校生になったんだから、むやみにくっついてくるのもいい加減やめるんだ」
小夜は暁の扱いを気にする様子もなく、というかほとんど無視して、潤みがちな瞳をあやめに向けた。
興味津々、といった表情の中にどことなく……。気のせいか……。底が知れない、僅かな不気味さを感じて、あやめは緊張を気取られないよう冷静を装う。
「このひとがあやめちゃんだね? 綺麗なひと。暁くんが惚れるのも無理ない」
「それは、光栄なことで。あなたが鴉森の妹さんの方ね」
「小夜だよ」
小夜の額から手を離して、暁は腕を組んだ。
「小夜。学園では先輩と呼ぶんだ」
「えぇー。だめ? いいじゃん別に。ね、あやめちゃん」
その後ろから静夜が戻ってくる。
「だめに決まってるだろ、この暴走列車!」
それまでの静夜の、不敵だけれど余裕のある佇まいが小夜を前にして一瞬で崩れる。あやめは、おや、と思った。妹の方が制御不能なタイプなのか。
「宵さんにまた余計なこと言ってないだろうな? ほんっとに、人の話聞きやしない」
「あーうるさいうるさい。何も言ってないわよ。ていうか、余計なこと余計なことって、何が余計だっつーの。肝心なことしゃべんないのは大人の都合じゃん。なんで私が忖度しなくちゃなんないの?」
「……初日でこれとは、本当に頭が痛い……」
静夜が頭を押さえているのを見て、あやめはちらりと暁を見た。なんだか見覚えのある光景のような。
「もう、小夜ちゃん。とにかく先輩にはちゃんと先輩って付けて呼ばないとだめだよ」
宵がやってきて、小夜を諭す。小夜はその唇を尖らせた。
「えー」
「じゃなきゃ絶交だから」
「わ、わかったから、そんなこと言わないで? ちゃんとあやめちゃんのことは先輩って呼ぶからぁ。ていうかそれ今日何度目?」
「本気の本気だからね!」
あやめと暁は、小夜と話す宵を見てから視線を交わした。宵の強気な言動はこれまで見たことがなかった。宵が小夜に圧倒されているのかと思ったら意外にもそうではないようで、あやめは安心と同時に、ちょっと笑ってしまった。
「あれ、こんなところで何やってんの?」
渡り廊下の端で立ち止まっているあやめたちの後ろから、さらに千歳と万理が鞄を手にやってくる。これで、新生徒会のメンバーが揃った。
「さてと。じゃあみんなで生徒会室に行こうか」
生徒会室に入ると、二人掛けのソファと、会長デスクの横にもうひとつ、デスクと椅子が並んでいた。
「人数が増えるから、夏の間に備品を増やしておいたんだ」
暁がそう言って、会長デスクの椅子を引いた。あやめが座ると、暁はその隣に立つ。千歳は静夜と小夜にソファを勧め、宵と共にお茶の準備を始めた。
万理はどっかりと静夜の前に座った。わかりやすく不機嫌オーラを出して静夜と小夜を睨みつける。
宵がソファに座る三人の前に紅茶を置こうとして、ピリリとした空気を感じて一瞬動きを止めた。改めて音を立てないようにカップを置く。
千歳があやめと暁のカップを置いてからソファに戻って、自身のカップを置いて座った。宵もそれを待って、千歳の隣に腰かける。
「……えっと。自己紹介は必要ない、のかな?」
あやめが隣の暁を見上げると、暁がこくり頷いた。万理の怒りが部屋の中に充満して、なんとなくあやめの口も重くなる。
暁はひとつため息をついた。
「……まずは、二人とも。歓迎する。知っての通り、学園の決まりにより鳥の三家の生徒には生徒会に入ってもらう。異論はないな?」
「聞いているよ。この件については僕たちの落ち度でもあるから、三家会議で決定したことには従うよう、父からも言われている」
静夜がソファにゆったりと背中をもたせ掛けて、落ち着き払って言った。小夜もその隣で足を組んでリラックスしている。二人が並んで座っていると、まるでここが鴉森の領地で、二人が場を支配しているようにも見えた。万理が今にも噛みつきそうな顔をするのを、千歳は半ば呆れつつ見守っている。
「扉の件については、ここでは議論しない。当主たちの間で交わされた内容が今はすべてだ。あの件での咎は、二人がここに来たことで相殺される」
「だからって! 一言くらいあってもいいんじゃないの? このまま何もなかったみたいに、はいじゃあ仲良くしましょうね、なんて俺にはできないんだけど」
万理が立ち上がって暁に抗議する。四カ月前、鴉森兄妹が封印の扉を開けた件について、当事者を目の前に何も聞かずにはいられない。理由も謝罪も何もなく見過ごすわけにはいかない万理の気持ちも理解できるものがあった。
そんな万理に、小夜が冷たい視線を送る。
「……うるさいわね、外野が。あなた、何もしてないじゃない。なんであなたが文句垂れるのよ。当の鷹の坊ちゃんはもうわかってるわよ?」
小夜の言葉に万理が勢いよく一歩前に出た。握られた拳が震えて、けれどどこにもぶつけなかっただけよく耐えたと言うべきか。小夜は静夜の静止も意に介さず、うんざりした顔でさらに続ける。
「あのね、これは鳥の問題なの。あなたの主人は当事者だけど、あなたは違うの。私も白鷺も当事者で、迷惑をこうむってるのは私たち。部外者は口突っ込まないで」




