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学園から帰宅して、芋まんじゅうを目の前に、宵はぼうっとダイニングテーブルに座っていた。キッチンでは登世子が晩ご飯を作っていて、お味噌汁のいい匂いが立ち込めている。
――約束して。もう力は使わないって。
あやめの《お願い》に宵が頷けないままでいると、あやめはそれ以上無理強いすることはなく、考えておいてね、とだけ言った。
わたしの力。ママに、使ってはだめと言われていた力。
宵はずっと小さい頃のことを思い出していた。それはたぶん、宵が生まれてから最初の記憶だ。三歳か、四歳になる頃か。自分の中にそんな力が秘められているなんて、思ってもいないくらい幼い頃。宵がかくれんぼでお社に入って、中で玉を見つけたときに、不意にそれは訪れた。
なぜかはわからなかったけれど、玉を見て、自然と思ったのだ。留めなくちゃ。と。
すると、風が止まって、大きな鳥の鳴き声が聞こえて。それ以外何の音もしなくなって。静まり返ったお社の中、宵はただ玉で遊んでいた。
そのあと、飛んできた母に叱られて、もうこの力は使ってはいけないときつく言い含められた。怒られたことに宵はびっくりして泣いて。その記憶はそこでおしまい。
今考えれば、玉を見て《留めなければ》と考えたのは、もう体に染みついていたのだと思う。宵の知らないところで。
……久遠さま。目を閉じて、あの不思議な庵でのできごとを思い出す。あのあと、お社に行っても結局、あの庵には行けなかった。
――あれは、われらの命だ。
久遠の言葉が胸にちくりと刺さる。永遠の黄昏。永遠の宵の時間。
沈むことのない夕陽の前に、今も久遠はひとりでいるのだろうか。それは、きっとさみしい。でも、ときが進むことはすなわち、久遠との別れ。
どうしてこんなに久遠のことばかりを考えるのか、宵にはわからない。本当に宵の気持ちなのか、それとも、あの夢の中の白鷺の記憶のせいなのか。
それでも、久遠に触れられたところ――足や髪が、なんとなく熱を持つ。
はやく会いたい。次はいつ会える? どうしたら、ずっと一緒にいられるだろう……。
空想に耽っていると、登世子が顔を出した。
「お嬢さま。もうすぐできますよ、お箸を用意してください」
「はぁい」
芋まんじゅうを慌てて口に入れて、宵は立ち上がった。キッチンから漂ってくる揚げ物の匂いで、宵は夕飯を予想する。同時に、明日のお弁当はおにぎりも追加で作ってもらおうと思いつく。
扉の封印のことも、章典祭のことも、勉強も。考えなければならないことはたくさんあるけれど、それでも宵は明日の学校が楽しみだった。
大好きなひとたちと、楽しいこと、幸せな時間。それがずっと続けばいい。宵の願いはただそれだけ。
宵は登世子に続いて、夕飯の準備を手伝うべくキッチンへ向かうのだった。




