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どさり。
机に置かれた大量の資料を前に、宵と万理は固唾を飲んだ。
目の前に立つのは、眼鏡をかけた千歳。
「さ、それでは早速。合宿前にこちらで決めておくことをまとめますよ」
大型連休に開催される合宿まであと一週間。
学年ごとの委員も選出され、生徒会でも本格的に下準備が始まった。
置かれた資料は倉庫から取り出した過去三年分の行事資料。
宵と千歳で必要箇所だけを抜き出したものだ。
「まずは役割分担ですが、後夜祭は暁さま、体育祭はあやめさんと万理、文化祭は私と宵さんで担当します」
「えぇ~ばんくんと一緒? 困るぅ」
「俺も、あーちゃんと一緒だと困るぅ」
会長デスクの椅子に座ったままのあやめが駄々をこねると、万理も便乗した。
「うるさい。去年は手伝いましたが、今年は手伝いませんからね。二人でどうにかしてください」
あやめと万理には厳しい千歳に宵も苦笑する。
暁はあやめの隣に椅子を用意して座り、そこで黙々とパソコンを打っている。
「日程は十月十三日からの五日間。前二日が体育祭、そのあとが文化祭、そして最終日が後片付けと表彰・後夜祭です」
「予算は夏休み前に稟議を上げる必要がある。合宿で大枠固めて、六月中に先生に一度提案。七月頭には確定。ここはずらさないように」
過去の予算表一覧が暁から手渡された。
体育祭はともかく、文化祭は予算項目が多く、宵の目が紙の上を滑る。
「予算の中身は委員会ごとに合宿で話し合って決めてください。今日は、先に私たちで決めておかなければならない全体のことと、一般生徒に実施するアンケートの中身を詰めます。アンケートは週明けに実施して、来週中に回収・集計。合宿に持っていかなければならないので」
体育祭、文化祭の実施内容を決める重要なアンケートだ。
こちらも過年度のアンケートを見ながら中身を策定していく。
「はい、高級パン食い競争がやりたいです!」
「俺は玉入れがやりたいです!」
「どうぞアンケートにご記入ください」
どうしてもボケ合いたい二人が挙手をして意見を述べるが、それも千歳によって一刀両断された。
「体育祭のアンケート内容は、一昨年実施した内容を含めて項目化して、人気のあった順にプログラム入り。文化祭の方は昨年同様、実施内容を飲食・展示・発表・その他のバランスを見るためにクラスごとで回答してもらう必要があるな」
しゃべりながら暁が一人でアンケート内容をキーボードに打っていく。
「あとはステージの割り振りですね。こちらもアンケートで回答もらいましょう。任意なので、ここは申し込みの締め切りも記載して」
「そうだな。集計は木、金で終わらせられるか……?」
「全員でやればなんとかなるでしょう」
そうしてなんとか議題をまとめると、全員で生徒会室をあとにした。
部活動やクラブ活動が盛んな黎明学園は、校舎内も、校庭も、夕方のこの時間はにぎやかだった。
暁も普段は生徒会活動のあとに剣道部の練習に参加しているが、金曜日だけは生徒会に参加してそのまま帰宅している。
生徒会室のある棟から南門へ向かうには、陸上トラックのあるグラウンドとテニスコートの間を抜けていく必要があった。
グラウンドは広大で、野球部とサッカー部の練習場所も併設されている。
「きゃーっ! 会長と副会長!」
すれ違う生徒たちがあやめたちに手を振る。
暁が素通りする中、あやめがそれに手を振り返して応えていく。
練習中の生徒たちの視線も集まり、宵は縮こまりながら歩くしかない。
「これもいつものこと、なんですか?」
「そうですね。慣れてもらうしか」
あやめと暁の後ろで空気になることに徹する千歳が感情のない顔で宵に答える。
「ば、万理先輩は平気なんですか?」
「俺? 俺は別に」
地味に万理も女生徒に話しかけられてはニコニコと手を振っている。
暁ほどとは言わなくても、万理も十分に目立つ容姿をしている。
宵は鞄を顔の前にかざして、千歳にくっついてそのあとを追うのだった。
と、そのとき。
あやめが何かを見つけて立ち止まった。
かと思うと、後ろの万理を見ないまま鞄を投げつける。
「ばんくんパスッ」
言うのと同時に、あやめは走り出した。
その先には、フェンスの前を歩く制服姿の女子生徒が二人。
宵と千歳が異変に気付いた時には、暁も鞄を放り出してあやめのあとを追っていた。
女生徒の背後から、硬式野球のボールが飛んできている。
飛んできた方角には野球部の練習スペース。
周囲のざわめきに二人が振り向いた。
ボールに気付いて、咄嗟に頭を抱える。
「きゃあっ」
二人の前に走り出たあやめが、飛んできたボールをジャンプして右手でキャッチした。
着地でよろけたあやめを、追いついた暁が支える。
「会長……!」
女生徒たちがあやめの手にあるボールを覗き込むと、あやめが二人に問い掛けた。
「大丈夫? 二人とも、怪我はない?」
「はい!」
「私たちは大丈夫です」
そこへ、グラウンドから帽子とユニフォーム姿の野球部員が走ってくる。
「すみませーん!」
暁があやめから受け取ったボールを野球部員に返すと、野球部員は帽子を取って一礼し、走り去っていった。
女生徒たちも何度も謝辞を述べながら帰っていく。
あやめは手を振ってそれを見送った。
「……あやめ」
二人が見えなくなったところで、暁がいつもより低い声であやめを呼んだ。
あやめが暁を横目で見上げる。
「……ごめんて」
「手を見せろ」
暁があやめの右手を取った。
掌が赤くなっていた。
「うーん。ジンジンする」
「だろうな。よりにもよって、利き手で」
「左手では無理だもん」
そこへ、あやめの鞄を持った万理と、暁に放り投げられた鞄を拾った千歳、そして宵が近付いてくる。
「まーたあーちゃんてば」
「あやめ先輩、大丈夫ですか?」
「うん、私は全然――」
あやめが頷いたのを、暁が遮る。
「だめだ。保健室に行ってくるから、鞄は車に乗せておいてくれ」
「えっ。だってもう帰るだけだし、大丈夫だよ」
「あやめさん。暁さまの言う通りですよ。その手、冷やしてきた方がいいです」
暁が持ち上げたままのあやめの右手を見て、千歳がそう言った。
「では、私たちは先に帰ってます」
「じゃあ、また月曜日ですね。あやめ先輩、お大事にしてください」
「じゃあな」
◇◇◇
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