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宵の白鷺と千年の恋  作者: 若草 玻璃
剣技大会

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 宵が生徒会入りして二週間。


 書記か会計を二名体制にする、という案も出たが、一旦は「庶務」という名目で活動することになり、主に千歳に仕事を振ってもらっている。

 剣技大会は黎明学園の春の風物詩だった。

 参加するのは予選を勝ち抜いた生徒たち。

 フェンシング部が全国大会常連校のため、かなり白熱した試合が見られる。


 入学したばかりの一年生は観客席で見学している。

 そんな中、宵は瑞葉やクラスのみんなとは離れ、生徒会庶務として千歳と万理の指示のもと、競技場(フェンシングホール)内を文字通り駆けずり回っていた。


「Aブロックの結果が出たから、これを放送席まで持っていって」

「はい!」


「この原稿、ちょっと間違ってるので確認してきてもらっていいですか?」

「はい!」


「先生たちの椅子が足りないから倉庫から持ってきてください」

「はい!」


「救護所の包帯と消毒が減ってきたので、保健室から取ってきて」

「はい!」


 ありとあらゆる困りごと、相談ごとはすべて宵のもとに集まってきて、生徒会室で最初に万理から言われた「雑用係」という呼び名がまさにぴったりである。


 剣技大会は生徒会とフェンシング部・剣道部が主となって開催されるが、当然両部の部員たちの多くは大会参加者になる。

 よって、大会当日の仕事は自然と参加しない生徒会の人間に比重がかかる。

 まして、今大会は会長・副会長ともに参加するため、千歳・万理・宵に大方の仕事が回ってきていた。


 保健室から物資を抱えて戻ってくる途中、ため息の交じった歓声で会場が沸いた。何ごとかと宵が足を止めてフロアを見ると、三面敷かれたマットの中央で、立ち姿の美しい選手がフェンシングマスクを脱いだ。

 ひとつに束ねられた長い髪が左右に揺れる。


「あやめさまぁ!」


 会場中から歓声を浴びながら、あやめが目の前の選手と握手を交わす。

 電気審判機にはあやめの敗北が記されていた。

 あやめは会場の観客に向かって笑顔で手を振ってマットを去っていく。


「あやめ先輩!」


 宵が手を振ると、あやめがこちらへやってきた。


「ごめんね、宵ちゃん。仕事任せきりにしちゃって」

 背が高く、すらりとした細身の体に白いフェンシングスーツがよく似合っている。

 もう少し早く戻ってきていれば、あやめの試合姿が見られたのに。

 宵は心の内の残念さを隠して首を振った。


「全然です! それより、残念でしたね」

「相手はフェンシング部のエースだもん。敵いっこないない」


 前半は女子の試合が中心になっていたが、間もなく男子の試合が開始する。

 男子選手が隅の方でアップを始めていた。


「あ、あやめ先輩、あそこに鷹宮先輩」

「え、どこどこ?」


 指を差してできる限り近くに行くと、暁もこちらに気付いたようで、まっすぐにあやめを見ている。


「あ、いた。宵ちゃん、目、良すぎ。全然わかんなかった」

「あはは。鷹宮先輩も、あやめ先輩見てますよ」


 目がいいのは鳥の習性。

 おそらく暁の方が宵よりさらに遠くまで見えるはずだ。


「がんばれ、暁!」

 声が届かない距離でのあやめの応援も暁にはちゃんと見えているようで、暁は小さく手を上げて応えた。


 着替えに戻るあやめと別れ、宵が本部に戻ると万理が書類と表彰に必要な小道具を確認していた。

 千歳はどこかへ行っているらしい。


「戻りました」

「おかえり、宵ちゃん」


 それ取って、と言われて手元の書類を万理に渡す。


「あやめ先輩がもうすぐ戻ってきますよ」

「あらま。あーちゃん負けちゃったかぁ」


 万理に渡した書類は最新のトーナメントの結果表で、女子の決勝は下馬評通りフェンシング部のエース対決となっていた。

 フェンシング部でも剣道部でもないあやめが準決勝まで進出したのは目を瞠る結果だった。


 男子のトーナメントは今しがた始まったばかり。

 フロアの奥の暁の姿が宵からは見えているが、当然普通の人にはここからでは見えないだろう。



「んじゃあ、表彰はあーちゃんにやってもらうとして」

「鷹宮先輩はどうでしょう?」


 何気なくそう言うと、万理の視線が一瞬鋭くなる。

 急なその態度の変化に宵がびくりと肩を揺らしたが、万理はふん、と鼻を鳴らして言う。


「暁は優勝する。だって、剣道部のエースだよ?」

「え! そうなんですね、知らなかったです」

「知らなかったの?! これだから白鷺さんちのお嬢さまはさぁ……」

「す、すみません」


 万理は深くため息を吐いて、手にしていた書類を机の上に落とした。

 両手に顎を乗せて、しばらく黙ったまま宵を眺めている。

 口元は笑っているのに、目だけはどこか品定めするような冷たさで。

 万理のその落胆に、宵は自分の無知さが咎められている、と直感した。


「白鷺は関与しない。それがこの世の理だから」


 万理が顔を横に背けて静かにそう言った途端、会場のざわめきが少し遠くなったように感じた。

 宵の心臓が短く早鐘を打つ。

 立ち上がった万理が宵の耳元にそっと唇を近付けて、言った。


「……でもさ。暁が背負ってるものは、ちゃんと見た方がいい。あんたたちにも別の荷があるのは分かってるけどね」


 そうして、万理はふらりとどこかへ行ってしまった。





◇◇◇


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