バイブレーション
――翌朝。
テレビでは、朝から同じニュースが繰り返されていた。
『映画撮影現場で男性の遺体が発見されました』
『死亡したのは芸能事務所クロスプロモーション社長・黒崎隆二さんです』
『警察によりますと、黒崎さんはロープのようなもので首を絞められており、殺人事件として捜査しています』
画面には、規制線の張られた廃病院が映っている。
その下には、
【人気女優・西条凛も現場に】
というテロップ。
さらに、女性アナウンサーが続けた。
『黒崎さんの遺体は、撮影で使用される予定だったダミーと入れ替わる形で発見されました』
凛はソファへ座ったまま、無言で画面を見ていた。
テーブルの上では、スマートフォンが何度も震えている。
着信。
LINE。
ニュース通知。
振動だけが、途切れなかった。
『クロスプロモーションは人気俳優・女優を多数抱える大手芸能事務所で──』
画面が切り替わる。
数年前のインタビュー映像。
黒崎が笑っていた。
『役者を守るのも、俺達の仕事なんで』
その声を聞いた瞬間、身体が強張った。
凛は視線を逸らす。
数秒遅れて、リモコンへ手を伸ばした。
テレビが消える。
部屋が静かになった。
――スマートフォンがまた震えた。
SNS通知。
凛はぼんやり画面を開く。
『怖すぎる』
『撮影現場に本物の死体って何?』
『西条凛かわいそう』
『映画どうなるの?』
『番宣じゃないよね?』
指が止まる。
人が死んだのに。
――もう、消費されていた。
インターホンが鳴る。
凛は重い身体を引きずるように立ち上がり、玄関を開けた。
専属ヘアメイクの今井彩が、コンビニ袋を提げて立っている。
「顔やば」
それが第一声だった。
彩は勝手に部屋へ入り、コンビニ袋をテーブルへ置く。
「食べてないでしょ」
「お腹空いてない」
「空いてなくても食べるの」
彩はミネラルウォーターを冷蔵庫へ入れながら、部屋を見回した。
「寝てない?」
「……ちょっと」
「ちょっとじゃない顔してる」
黙ったまま、窓の外を見た。
彩は少し黙ってから、小さく聞く。
「……本当に大丈夫?」
凛はその言葉にすぐ答えられなかった。
スマートフォンが震える。
――今度は、マネージャーの久保田からだった。
凛は少し迷ってから通話へ出る。
彩が気を遣うように、台所へ引っ込んだ。
『起きてるか』
「うん」
『今日は外出るな。マスコミかなり来てる』
久保田の声はいつも通りだった。
だが、どこか掠れていた。
『警察からまた連絡行くと思う。あと、しばらく撮影は止まる』
「……そう」
短い沈黙が落ちる。
『……信じられねえな』
久保田が小さく呟いた。
凛は何も言えなかった。
『SNSも見るな。お前、抱え込むから』
その言い方だけが、少し優しかった。
凛は窓の外を見る。
マンションの下には、もう人影が見えていた。
スマートフォンを構えているのが分かる。
「……うん」
『何かあったら連絡しろ』
数秒、沈黙。
『……一人で考えこむな』
通話が切れる。
凛はゆっくりスマートフォンを置いた。
台所から戻った彩が、黙ったまま凛を見ている。
音を消したままのテレビ画面に、黒崎の笑顔が映っていた。
凛は画面から目を逸らした。
スマートフォンだけが、何度も震えていた。




