リアル
廃病院の外には、赤色灯が滲んでいた。
気づけば、外に出ていた。
パトカー。
救急車。
規制線。
深夜だったはずの撮影現場は、一時間もしないうちに別の場所へ変わっていた。
「関係者以外は下がってください!」
警察官の声が飛ぶ。
スタッフ達は建物の外へ集められ、小声で話し込んでいた。
「どういうこと……?」
「ダミーじゃなかったってこと?」
「誰なんだ、あれ……」
凛は折り畳み椅子へ座ったまま、何も答えなかった。
白衣姿のまま、肩へ毛布だけ掛けられている。
指先がまだ冷えていた。
「西条さん」
若い刑事が近づいてくる。
「少しお話よろしいですか」
凛は小さく頷いた。
「最初に異変へ気づいたのは、あなたで間違いありませんか?」
「……はい」
「シーツをめくって、そこで初めて遺体だと?」
「そうです」
刑事はメモを取る。
答えながら、自分の声が他人のもののように聞こえた。
「撮影前、その男性と接触は?」
「ありません」
「現場へ入った時には、すでにベッドに?」
「はい」
淡々と答えながら、凛はぼんやり規制線の向こうを見ていた。
廃病院の入口付近。
数人の警察官が慌ただしく動いている。
やがて。
白い布を掛けられた遺体が、ストレッチャーで運び出されてきた。
周囲の空気が変わる。
ざわめき。
息を呑む音。
スタッフ達が道を開ける中、凛だけが動かなかった。
ストレッチャーが、凛の前を通り過ぎる。
その瞬間。
白布の隙間から、腕が見えた。
黒い腕時計。
見覚えがあった。
凛の呼吸が止まる。
ゆっくり視線を上げる。
白布の奥。
わずかに見えた顔。
――時間が止まったようだった。
凛の顔から血の気が引いた。
「……嘘」
喉の奥から声が漏れる。
隣にいた彩が、凛の顔を見て眉をひそめた。
「凛?」
凛は聞こえていなかった。
ストレッチャーが遠ざかっていく。
凛はその背を、最後まで目で追っていた。
死んでいたのは。
黒崎だった。




