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リプレイ

 気づけば、

 朝になっていた。


 未央が死んだ知らせを受けたのは、

 その直後だった。


 最初、

 何を言われているのか分からなかった。


 事故。


 転落。


 海。


 言葉だけが頭へ入ってくる。


 病院へ向かう途中のことは、

 ほとんど覚えていない。


――


 葬儀には、

 大勢の関係者が来ていた。


 映画スタッフ。


 事務所関係者。


 報道陣。


 焼香台には、

 未央の写真が置かれている。


 笑っていた。


 あの日のままの顔だった。


 黒崎も来ていた。


 深く頭を下げ、

「残念でした」

 とだけ言った。


 久保田もいた。


 だが、

 ほとんど目を合わせなかった。


――


 映画

『声が消える前に名前を呼んだ』

 は予定通り公開された。


 賛否はあった。


『死を宣伝に使うのか』


 そんな声も多かった。


 それでも映画はヒットした。


 ニュースでも連日取り上げられた。


『事故死した新人女優、

 橘未央の演技に絶賛の声』


『惜しい才能だった』


 テレビの中で、

 知らないコメンテーター達が未央を語っていた。


 嬉しかった。


 でも、

 悔しかった。


 悲しかった。


 生きていれば。


 未央もきっと、

 西条凛みたいにドラマへ出て、

 CMへ出て、

 売れていた。


 そう思った。


――


 結局、

 あの映画を最後に役者は辞めた。


 未央が死んだあと、

 続ける気になれなかった。


 バイトを転々とした末に、

 知人の紹介で芸能関係の送迎会社へ入った。


 最初は、

 芸能人を見るだけで嫌だった。


 でも、

 生活しなければいけなかった。


――


 六年が経った。


 未央のことを思い出さない日は、

 なかった。


 それでも、

 時間だけは過ぎていった。


 その日。


 後部座席のドアが開く。


 顔を見た瞬間、

 呼吸が止まった。


 黒崎だった。


 その隣には、

 久保田。


 若い女優と、

 そのマネージャーもいる。


 最近、

 黒崎が売り出している新人女優だった。


「お願いします」


 新人女優が頭を下げる。


 車を発進させた。


 しばらくして、

 思い切って口を開く。


「あの」


 バックミラー越しに、

 黒崎を見る。


「橘未央の兄です」


 一瞬だけ、

 空気が止まった。


 久保田の表情が変わる。


 黒崎はわずかに目を細めてから、

「ああ……」

 と頷いた。


「未央ちゃんの」


 少しだけ間が空く。


「残念だった」


「……はい」


 それ以上、

 会話は続かなかった。


 車内では、

 他愛ない撮影の話が続いていた。


 バックミラー越しに、

 黒崎の顔を見る。


 何も知らないみたいに、

 笑っていた。


 新人女優とマネージャー、

 久保田を事務所へ送る。


 黒崎が後部座席で言った。


「悪い、

 このまま家まで頼む」


「わかりました」


 車を走らせる。


 しばらくして、

 バックミラーを見る。


 黒崎は後部座席で、

 窓の外を見ていた。


――


 一週間後だった。


 送迎会社へ電話が入った。


 久保田からだった。


「話がしたい」


 電話口の声は、

 かなりかすれていた。


 夜、

 指定された店へ向かう。


 久保田はかなり痩せていた。


 酒を飲みながら、

 長い間黙っていた。


 やがて。


「……まさか、

 あんたに会うと思わなかった」


 久保田は俯いたまま言う。


「会ってから、

 ずっと六年前のこと思い出してた」


「忘れたふりしてたけど、

 無理だった」


 そこで、

 小さく息を吐いた。


「……あんたには、

 ちゃんと話さなきゃって思った」


「未央への弔いにもなるし、

 自分への戒めにもなる」


 その瞬間、

 空気が変わった気がした。


「事故じゃなかった」


 何も言えなかった。


 怒りなのか、

 悲しみなのか、

 自分でも分からなかった。


 久保田は、

 かすれた声で続ける。


「あの日、

 未央は落ちた。まだ、生きていた」


 海。


 夜。


 泣きそうな顔で、

 久保田は話した。


「助けようとした」


 そこで言葉が止まる。


「でも……

 俺は動けなかった」


 息の吸い方が分からなくなった。


「……見殺しにした」


 久保田は、

 俯いたままだった。


「俺も、

 同罪だ」


 店を出たあとも、

 しばらく動けなかった。


 未央が送ってきた動画を開く。


 暖色の照明。


 揺れる画面。


『撮ってまーす。

 クランクアップ記念』


 未央が笑っていた。


『だって今日で終わりだよ?』


 酔った声。


 笑い声。


 その空気だけが、

 もう戻らなかった。


 気づけば、

 スマートフォンを握る手に、

 力が入っていた。


 何かが、

 静かに決まった気がした。

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