ラストテイク
――六年前
クランクアップの拍手を、
少し離れた場所から見ていた。
エキストラとして参加した現場だった。
未央は、
花束を抱えながら笑っていた。
本当に楽しそうだった。
「以上で、
『声が消える前に名前を呼んだ』
全撮影終了です!」
スタッフ達の拍手。
花束。
主演の西条凛にも、
スタッフ達が集まっている。
写真を撮る声。
笑い声。
現場の空気は、
どこか浮き立っていた。
この映画で、
何かが変わる。
そんな空気が、
確かにあった。
黒崎も、
クランクアップに合わせて現場へ来ていた。
「お兄ちゃん、ちょっと来て」
未央が手招きする。
スタッフ達の間を抜けて、
そのまま奥へ連れて行かれた。
「社長」
未央が口元を緩める。
「兄です。
今日、エキストラで出てたんです」
「はじめまして」
兄が軽く頭を下げる。
凛も会釈を返した。
「こちらこそ」
黒崎が兄の顔を見て笑う。
「顔いいじゃん。今度もっといい役やるよ」
周囲が少し笑った。
兄も困ったように笑う。
「いや、今回で役者は諦めるつもりなんです」
黒崎が笑う。
「これから売れるかもしれないぞ」
兄は少しだけ黙ってから笑った。
「もう遅いですよ」
――
スタッフ達が機材を片づけ始める頃には、
外はすっかり暗くなっていた。
夜。
未央達は、
打ち上げへ向かった。
海沿いの別荘らしい。
「お兄ちゃんも来れば?」
「いいよ。
俺は部外者だし」
「真面目か」
未央が笑う。
「じゃあ、
また連絡する」
「飲みすぎんなよ」
「はーい」
手を振りながら、
未央は車へ乗り込んだ。
久保田が運転席へ座る。
黒崎は後部座席。
西条凛もいた。
車のテールランプが、
暗い道路の奥へ消えていく。
それが、
未央を見た最後だった。
――
帰宅したのは、
日付が変わる頃だった。
狭いワンルーム。
スーツを脱いで、
ソファへ座る。
スマートフォンが震えた。
未央からだった。
『クランクアップした!』
動画も送られている。
再生する。
暖色の照明。
テーブルの上に、
空いた缶ビールが並んでいる。
黒崎の別荘だった。
次の瞬間、
カメラが未央自身へ向いた。
『撮ってまーす。
クランクアップ記念』
未央が笑っている。
『未央、顔赤い』
西条凛の声が聞こえた。
『だって今日で終わりだよ?』
未央が笑う。
カメラが揺れる。
黒崎がソファへ深く座り、
酒を飲みながら笑っていた。
『お前、
絶対売れるな』
『ほんとですか?』
『社長、
酔ってるだけじゃないですか』
凛が笑う。
その隣で、
久保田も笑っていた。
『だから撮るなって』
『記念ですー』
動画はそこで終わった。
続けて、
メッセージが届く。
『役者続けようよ』
『社長にもお願いしてみるよ』
思わず少し笑った。
未央らしい。
スマートフォンをテーブルへ置く。
その時は、
それだけだった。




