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サウンドトラック

 翌日も、

 凛はCM撮影の現場へ入っていた。


 カメラの前に立っている間だけは、

 余計なことを考えなくて済む。


 笑う。


 台詞を言う。


 求められる表情を作る。


 撮影が終わり、

 メイク室へ戻る。


 鏡の前へ座ると、

 彩が後ろで髪をまとめながら言った。


「売れっ子も大変だね」


 少し冗談っぽい声だった。


 凛は小さく笑う。


「今は、そういう気分じゃない」


「でも仕事してる方がまだマシでしょ」


 図星だった。


 部屋へ閉じこもっていると、

 余計なことばかり考えてしまう。


 彩はメイクを落としながら、

 鏡越しに凛を見る。


「駿汰くんから連絡あった?」


「昨日ちょっと」


「まだ戻れないんだ」


「ロケ延びたって」


 彩は「そっか」とだけ言った。


――


 外へ出ると、

 夜風が冷たかった。


 地下駐車場には、

 黒いワゴン車が停まっている。


「お疲れさまです」


 助手席へ乗り込んだ藤崎が、

 振り返って軽く頭を下げた。


 岡部も会釈する。


「お疲れさまでした」


 凛と彩は後部座席へ乗り込む。


 車が静かに発進した。


 しばらくは、

 誰も話さなかった。


 流れていく夜景を、

 凛はぼんやり眺めている。


 その時だった。


 ――車内のラジオから、

 聞き覚えのあるメロディが流れた。


 凛の視線が止まる。


 六年前、

『声が消える前に名前を呼んだ』

 の主題歌だった。


「あ、この曲好きなんですよ」


 運転席から、

 岡部が何気なく言う。


 凛は少し遅れて顔を上げた。


「……そうなんですね」


「映画も観ました」


 岡部は穏やかな声のまま続けた。


「かなり話題になってましたよね、当時」


 ラジオから、

 サビが流れる。


「西条さんの演技、

 印象残ってます」


 凛は小さく会釈した。


「……ありがとうございます」


 岡部はそれ以上、

 何も言わなかった。


 ラジオからは、

 まだあの曲が流れ続けていた。

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