表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

プレイバック

 USBメモリの動画を見た夜、

 凛はほとんど眠れなかった。


 目を閉じるたび、

 未央の笑い声が浮かぶ。


『だって今日で終わりだよ?』


 楽しそうな声だった。


 六年前。


 まだ何も終わっていなかった頃。


 気づけば、

 カーテンの隙間から薄い朝の光が差し込んでいた。


 凛はソファへ座ったまま、

 ぼんやり天井を見ていた。


 スマートフォンが震える。


 駿汰からだった。


『起きてる?』


 少し迷ってから、

 凛は通話ボタンを押した。


『……声やばいぞ』


 開口一番、

 駿汰が言った。


「そう?」


『寝てないだろ』


 凛は答えなかった。


 電話の向こうでは、

 スタッフの声が少し聞こえる。


 まだ撮影中なのだと分かった。


『そっち、まだ記者いる?』


「いる」


『東城さんから聞いた。SNSのコメント欄も閉じたって』


「……うん」


 短い沈黙が落ちる。


『ちゃんと飯食ってる?』


「少しは」


『絶対食ってない言い方』


 凛は小さく笑った。


 駿汰も少しだけ笑う。


 それだけで、

 少し呼吸が楽になる。


『ほんとは戻りたいんだけどな』


 凛は目を閉じた。


 その言葉だけで、

 少し苦しくなる。


「いいよ。仕事でしょ」


『よくない』


 珍しく、

 少し強い声だった。


『今のお前、一人にしたくない』


 凛は何も言えなかった。


――


 昼過ぎ。


 彩が冷蔵庫を開けながら言った。


「でもさ」


 ミネラルウォーターを取り出す。


「普通に考えたら、遺族じゃない?」


 凛の視線が止まる。


「……何が」


「動画」


 彩はソファへ座る。


「未央ちゃんのスマホなんでしょ?」


 凛はボトルを見つめたまま動かなかった。


「だったら持ってるの、家族くらいじゃん」


 静かな声だった。


 その瞬間、

 六年前の記憶がよぎる。


 雨だった。


 葬儀場。


 白い花。


 泣き崩れる母親の声が、

 廊下まで響いていた。


 凛は、

 ほとんど顔を上げられなかった。


 未央の兄もいた。


 壁際で、

 ずっと俯いたまま立っていた。


――


「……凛?」


 彩の声で、

 意識が戻る。


「大丈夫?」


「……うん」


 小さく答える。


 だが、

 胸の奥がざわついていた。


――


 その日の夜。


 東城から電話が来た。


『六年前の件、また動いてる』


 疲れた声だった。


「……何がですか」


『週刊誌』


『黒崎さんの件と、

 結びつけたがってる感じするわ』


 凛は黙る。


『昔の話まで引っ張り出して、

 騒ぎ大きくしたいんだろうな』


 東城が低く息を吐く。


『こういうの、

 一回騒ぎになると止まんねえから』


 通話が切れたあと、

 部屋の静けさだけが残る。


 凛は閉じたままのノートパソコンへ視線を向ける。


 この続きに、

 あの夜がある。


 ――そう思った瞬間、

 胸の奥が急に重くなった。


 凛は目を閉じる。


 未央の笑い声だけが、

 頭から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ